板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 第26号「日本人が今考えなければならないこと」

まずは、お知らせです。
当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーの、3月19日?20日開催の申込は、3月14日(月曜日)をもって締め切らせていただきます。
この週末に、是非ご検討ください。
なお、当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーは、4月の開催を予定していません。
以上、お知らせでした。

本日の本題は、昨日の続きになります。
(僕が使う「日本人」という言葉は、国籍、帰属する組織や企業、暮らしている場所、肌の色や遺伝子などによる区別ではなく、この国が好きで、この国を愛していると思う人のことを指しています。)

昨日のKISS第25号「日本企業」を、ちょいと整理すると以下のようになります。

外資から、日本企業を見ると・・・
1.「実際のキャッシュ創出力=理論企業価値」に対して、「時価」が割安である。
2.「保有資産の潜在的キャッシュ創出力」に対して、「時価」が割安である。
の二つに分けて、実は、2の方が、魅力的に写るということです。

2の資産をどれほど効率的にキャッシュに変換できるかは、経営者の能力に依存します。
よって、現在広く認められている企業価値評価手法では、2の評価を完全にはできません。
しかし、「保有資産の潜在的キャッシュ創出力」を見抜ぬくことが出来る人が、個々の企業を深く知れば、それが安く放置されていることに気がつくでしょう。

一方、欧米企業は、持てる資産を効率よくキャッシュフローに変換する術(=経営力)を持っています。
彼らは、彼ら自身の持つその術のおかげで、彼らの資産を効率よくキャッシュに変換することが出来ますが、おかげで彼ら自身の企業内には、「潜在的キャッシュ創出力」を有する資産が、既に乏しくなっています。
事実、たとえば、米国の自動車産業などは、ずいぶん前から日本の自動車産業の内在価値から学び、その結果をキャッシュフローに転換しているわけです。
そこで、彼らは、日本企業の「保有資産の潜在的キャッシュ創出力」に目をつけたというわけです。
飲食店にたとえれば・・・
「上質の食材を仕入れるサプライチェーンや、勤勉に働く従業員、
そして、調理するための立派な厨房設備を持っているのに、
上手に料理できていなかったり、
上手に料理できていたとしても、店舗の場所が悪るかったり、
店舗の場所が悪くなくても、その宣伝が下手だったりして、
ビジネスとしての効率が悪い」
というのが日本企業の実態で、
「その店を安く買い取り、我々が経営すれば、もっと儲かるはず」
と外資は、考えるわけです。
 
この仮定に基づくと、最近のM&A騒ぎの根底が、スムースに理解できます。
すなわち、
西武グループに、今頃入れられた当局のメスも、
外資が絡んだメディア企業の敵対的買収がお茶の間に飛び込んでくるのも、
外資による、株式交換による日本企業買収を可能にする法整備も、
これらは、外資による日本企業買収ための「地ならし」と思えるのです。

「地ならし」は、今のところ逆効果になっています。
「(外資による)株式交換を許すなら、防衛策も整備してくれ!」と主張する向きが多くなるでしょう。
そして、それらに立法府は、一時的に耳を傾けるでしょう。
しかし、残念ながら、実効的な防衛策が施される前に、
「外資の株式交換による、日本企業のチョー簡単買収可能法案」は、いずれ成立するでしょう。
なぜなら、(話は飛躍すると思われるかもしれませんが)
我々は、自国民を守るための軍事力さえ持ち合わせていないからです。
それを米国に「金を払って委託している」からです。
それゆえに、自分自身が借金だらけで首が回らないと言うのに、米国財務省証券を数十兆円も、買わされているというわけです。
そんな背景から考えると、そう易々と、
「国内の反発が強いから、外資による日本企業買収に対する防衛策を施行した後に、
外資の株式交換による日本企業買収を可能にする法案を検討します。」
なんてことには、出来ないと思うのです。

ご存知かとは思いますが、マクロ経済では、貯蓄が無ければ、投資は行われません。
その点、我々の貯蓄は、「見た目上」1000兆円以上あるといわれています。
しかし、その大部分は、既に国債という債券に、そのカタチが変わっています。
(国債、地方債および政府の短期借入は、既に国民の見かけ上の貯蓄の額に迫っています。)
よって、会計上では、国民貯蓄は他国に比べて、非常にたくさんあることになっていますが、実際に、多くの人が貯蓄から投資へ資金を移動させようとすれば・・・
どうなるかわかりませんが(笑)、既に債券に形が変わってしまった貯蓄を、すぐに現金に戻すことは難しいでしょう。
よって、すぐさま国民の貯蓄の大部分を投資に向けることは難しいのです。
ここが、我々日本人の最大の弱点です。
資本主義社会の中で、経済価値創造を行えるのは、企業だけなのです。
なのに、日本国民の貯蓄の大部分は、企業ではなく、価値創造を行うはずも無い国債に向けられてしまったのです。
国民の、フィナンシャルリテラシーの低いことが、その根底的原因です。

今のところ、新規発行の国債は消化され、その金利も支払われています。
証券会社も、引き受けた国債を一般庶民に転売するために、一生懸命宣伝していますし、
ザイムショーの人間が、日本国債を抱えて海外遠征し、買ってくれるはずも無い外国人に売ろうとしています。
しかし、「もし」、新規国債が消化されず、その借り換えや金利負担が増大すれば、どうなるでしょうか?
政府は、新札を増刷して、支払いに当てるでしょう。
これを繰り返せば、過度なインフレが起こり、円の価値は劇的に下がってしまいます。
投資どころではなくなり、このとき、今の「地ならし」の目的が、現実になるのです。
海外から見れば、日本企業や土地などのバーゲンセールの始まりです。
あらゆる「日本の経済価値」が、外資によって安い価格で買い占められてしまいます。
このときの「外資」には、欧米企業ばかりではなく、おそらく多くの中国企業が含まれていることでしょう。

なぜ、こんなことになっちまったのか・・・については、
このWEBの本題からそれてしまうので、割愛します。
が、
「失敗の原因は、失敗からさかのぼること直近の事件に潜んでいるのではなく、
そのスタートアップに潜んでいる。」By Yuichiro ITAKURA.
ということだけ、申し上げておきます。

実社会に通用する教養を持たない人や、その集団は、
自分自身の首を絞めるような選択をしてしまうものなのです。

では、どうすればよいのか?
気の長い話のようですが、僕は、
「国民のフィナンシャルリテラシーの向上=国力の向上」が、
以上のような事態を免れるために必須だと思っているわけです。
そうなれば、「今何をしなければならないのか」に皆が気づき、
皆が気づけば、政治も動きます。

ちなみに、米国では、経済に関する教育カリキュラムが、小学校の段階で、既に組み込まれているのです。

2007年の国家財政における「国債費」の額を調べてみてください。
僕らに残された時間は、そう長くはありません。

2005年3月11日 板倉雄一郎 

PS:
僕は昔、「ハイパーネット」という手段で、日本発の知的所有権を世界に広める試みを実施しました。
しかし、その試みは、図らずも、「日本の銀行」によって、封鎖されてしまいました。
その根底的原因は、僕の知識と経験の無さにありました。
エネルギー溢れる若き起業家に、同じ轍を踏んで欲しくないのです。
僕は、僕の思想を広めたいのではないのです。
単に、経済の当たり前の理屈を伝えたいだけです。
その上で、どう考え、どう行動するかは、人それぞれに依存するのです。





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