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KISS 第29号「再掲載」

本日(2005年3月15日)は、朝からテレビ番組の生出演のため、出かけなければならないので、エッセイは、昨日分の再掲載となります。
なお、番組は、「ワイドスクランブル」(テレビ朝日、昼12時?)

誰も、ライブドアの「資本調達方法」と、その「資本コスト」について触れることが出来ないので、僕が説明したいと思っています。

「枝葉(=買収行為や、その後のシナジー効果)」については、皆議論するのですが、
「根っこ(=資本調達方法とそのコスト)」について、誰も言わないんですよ。

事業は、その「運用側」より、「調達側」の方が、遥かに重要なのです。
ライブドアが、昨年繰り返した、「株式分割による株高を背景にした、株式交換による買収」が、ライブドアにとってアルコール中毒なら、「MSCBによる800億円の調達方法」は、覚せい剤といったところでしょう。
そして、その影響は、「ライブドアの資本コストの上昇」と言う形で企業価値破壊を起こすのです。
とても難しいことですが、お茶の間に向けて、だれでもわかるように、僕は「資本コスト」が高ければ、それだけで事業は破綻すると言うことを、説明してみたいと思います。

2005年3月15日 板倉雄一郎

以下、昨日の、ながぁ?いエッセイの再掲載です。

最近、「?のようになるようでは、日本は外資に見捨てられる」
といった意見を聞く機会が多いですよね。
たとえば、
「ニッポン放送による、フジテレビを割当先にした新株予約権の発行」に関する議論、
または、「商法など資本市場に影響のある法整備」に関する議論などで、
上記のような意見が出てきます。
もちろん、「外資に見捨てられるのは困る」というのは、僕も同感です。
同感ですが、では、
「なぜ、そんなに外資を頼りにしなければならないのか?」
この議論は、ほとんどされていないですよね。

「経済は、グローバルだから」というのは間違っていませんが、本質的な答えではありません。

国民の(見かけ上の)貯蓄は、1400兆円!もあることになっています(笑)
もし、これが本当なら、上場企業が、その理論企業価値より安く放置されている状態であるうちに、まずは国内の資金を投資に向けさせるべきですよね。
国民が企業に投資し、国民がその企業の商品を買い、企業は海外にもその商品を売る・・・
すると、国民皆が豊かになるはずです。
ところが、国民の貯蓄は、銀行などによって間接的に企業に提供されています。(間接金融)
ですが、銀行さんは、最もお金や経営についてわかっていない方々ですから、効率よく資金が企業に提供されているわけではありません。
銀行は、この国で、最も低い資本コスト(=銀行預金金利)の資金(=預金)を調達できるにも関わらず、儲かっていないどころか、融資先の評価と、その経営(=銀行からの出向や天下り経営者)の失敗で、大きな損失を出しているというわけです。
彼ら銀行に、日本企業への資金供給を任せておくわけには行かないわけです。
言うまでもありませんよね。
ということで、貯蓄から投資へ、その資金を移転させることが必要になるわけです。
(つまり、間接金融から、直接金融への転換が必要。)

が!
「投資は怖い」とだけ教わってきた国民は、なかなか貯蓄を投資に回すことが出来ません。
経済に関する教養が低いからです。
「お金は、それが増える場所に置いておかなければ、
絶対額が減少しなくても、価値は減少してしまう。」ということや、
「紙幣の価値は、それと何かを交換(=買う)出来るという価値であって、
紙幣それ自体に価値があるわけではない。」ということを、理解できていないのです。
だから、タンス預金とかするのです(笑)
タンス預金や銀行預金しているのでは、どんどん価値が減少するだけなのです。
(デフレーションの場合は、ちと話しが違いますけどね。)
経済に関する教養を向上させれば、自然と貯蓄は投資に振り向けられるはずです。
国民の貯蓄が、企業への投資に回れば、少なくとも今ほどの「外資頼み」から開放されることでしょう。

しかし!
我々の1400兆円あるといわれている貯蓄は、「本当に、そこにあるのか!?」
無いです。
価値創造など行うはずも無い、
「だれもコンサートなどやらない音楽ホール」や、
「役立たずの役人の給与や住宅」や、
(「役立たずの役人」って、フレーズは、面白いですよね(笑))
「日に数台しか車の通らない場所に作られた立派な道路や橋」や、
・・・きりが無いからこの辺で止めます・・・
などに、使われてしまって、ほとんど無くなってしまっているのです。
なのに、しっかり我々の貯蓄は、「数字」として存在しています。
この「お金のねじれと流れ」は、金融機関が国債を買うという行為によって、預金者には見えなくなっているだけなのです。
我々の預金は、実のところ、いつでも現金として引き出せるわけでも、
価値創造に投資されているわけでもないのです。
(家を買うとか、車を買うとか、生活費にするとか、その程度は現金として出てきますよ。)

公的資金の無駄使いを、一つ一つ突いたところで、本質的な解決にはなりません。
国民貯蓄が、経済価値創造を行う企業への投資に回っていれば、そもそも政治家や官僚に無駄遣いされずに済んだのです。
銀行預金やタンス預金に資金を置いているのも国民。
馬鹿な政治家を選んでいるのも国民。
国民のフィナンシャルリテラシーの低さが、あらゆることの原因です。
勤勉な国民が働くことによって生まれた経済価値は、その多くを外国に持っていかれるのです。
なぜなら、既に上場企業の株主の多くは、外国人だからです。
「働くのは国民、しかしその利益は外国人」なのです。

「お金の話をするのは、いやらしい」などと、一体誰が言い始めたのでしょうか?
そいつが、この国を駄目にしたのです。
お金に関わらない人など、居るはずないのです。
経済は、世の中の根底的な仕組みであって、我々の生きている環境そのものなのです。
我々は、「資本主義社会」に住んでいるのです。

小泉首相の、ホリエモン騒動に対するコメント・・・
「頭のいい人たちがやっていることで、僕には良くわからない」を聞いて、
どう思いますか?

経済や経営、そして株式投資を、「頭のいい人たちの世界」にしてしまったのは、一体誰なのでしょうか?

今日は、長いですよ(笑)・・・やっと本題「株式分割と株式交換による企業買収」です。

株式交換による企業買収とは、すなわち、買収企業が、自社の株式を「通貨」に見立て、その通貨で被買収企業の株式を買い取るという行為です。
よって、その通貨が高く評価されているほうが、買収企業(の株主)にとって「お得」なのです。
もし、株価が実体経済価値より、はるかに高いときに、株式交換によって企業買収を行った場合、
「一時的に」は、既存株主にとって、得です。
たとえば・・・
実体経済価値に基づく株価(=理論株価)が、一株1万円だったとしましょう。
このとき、実体経済価値が100万円の企業を買収する場合、
買収企業の株式100株を被買収企業の株主に支払うことによって、買収が成立します。
しかし、もし、実体経済価値より高い株価を、「何らかの方法」で、作り出せるとしたらどうなるでしょうか?
たとえば、実体経済価値が1万円程度であるにもかかわらず、「何らかの方法」によって、株価が5万円に「一時的に」なったとしましょう。
この場合、実体経済価値100万円の企業を買収するときに必要な、買収企業の株式数は、20株で済みます。
既存株主にとっては、得ですし、その得な分、新しい株主(=被買収企業の元の株主)にとっては、損になります。
もし、このマネーゲームを、「永遠に続けることができれば」、新しい株主の損失は、次の企業買収のときに報われる可能性があるので、すべての株主にとって、得であるように、見えます。
(勘の鋭い方は、もう気がついていますよね「マルチ商法じゃないかよ!」って(笑))

さて、株価を吊り上げる「何らかの方法」として、広く知られているのは、ご存知「株式分割」です。
株式分割を、紙幣に例えれば、1万円札1枚を千円札10枚に分割(つまり両替)するだけですから、1株1万円の株価であるときに、10分割を行えば、新しい株価は、少なくとも理論的には、千円となるはずです。
なぜなら、株式分割そのものでは、企業の実体経済価値は、変化しないからです。
つまり、株式数が10倍になる代わりに、株価が10分の1になると言うことです。
しかし、実際には、そうはならず、一時的に「いくつかの要因」によって、千円より相当に高い株価になり、その後、千円より少し高い株価に落ち着きます。
最初の要因は、「分割されるのではないか?」という投機家の分割期待によって、分割の発表前に多くの買いが集まるからです。
しかしこの「分割期待による一時的な株高」は、当該企業からの正式な「分割発表」によって、終わりを迎えます。
次に、証券取引上のシステムの要因があります。
たとえば、10分割を行った場合、その制度上、しばらくの間(50日間前後、株券交付日までの間)、市場で流通する株式数は、当該企業の発行済み株式数の10分の1になってしまうのです。(というより、株式数が10分割によって10倍になるにもかかわらず、しばらくの間、流通する株式数が、分割前と同じ株式数であるというわけです。ただしこの制度上の不備は、来年度に改正されるようです。)
流通株式数が少ないときに、もし買いがあつまれば、株価は急騰してしまうわけですね。
もちろん、新株の取引が開始された途端に、株価は元の程度に戻ります。
株式分割プロセスの最後には、分割によって「買いやすくなった株価」により、需給バランスが変化し、株価は分割前より、「企業価値に無縁に」高くなると言うわけです。
(株式の仕組みを知り尽くした投資家ばかりが、市場に存在するとすれば、このようなことは起こりません=よくわかっていない投機家と、そのよくわかっていない投機家を食い物にする投機家が溢れる現在の日本の株式市場だから通用するに過ぎません。)
この「作られた株価」を背景に、株式交換による買収が行われると言うわけです。
ライブドアが、昨年積極的に繰り返してきた、インチキ手法です。
本質的には、合法的な株価操縦です。断言します。

しかし、このマネーゲームには限界があります。
まず、株式分割は、実体経済価値の上昇を伴った株価上昇でなければ、いずれできなくなります。
たとえば、ライブドアの場合、株式分割を繰り返したおかげで、現在、数百円の株価となりましたから、(これで、さらに300分割とかすれば、笑えますけど(爆))、一株0.5円とかには、出来ないですからね。

もう一つの限界は、マクロ経済に置き換えるとわかりやすいです・・・・
ある国の通貨が高いということは、輸入には得でも、輸出では損です。
特に、原材料を海外から輸入して、国内で付加価値を高め、その後に海外に輸出する日本のような国の場合、輸入に得である(=YENが外貨に比べて高い)ことより、輸出で得である(=YENが外貨に比べて安い)ことの方が、純輸出は大きくなります。
よって、貿易によって成り立つ国家の場合、通貨が安い方が長期では、得なのです。
(今の中国ですよね、頑なにドル=ペッグ制を止めない)
もし、「永遠に買い続ける」のであれば、通貨が高い方が有利ですが、買い続けるだけでは、価値創造は行われません。
企業の場合、買収企業の実体経済価値より高い株価を利用して、被買収企業を買収した時点では、買収企業の既存株主にとって得ですが、買収企業の事業も、買収された被買収企業の事業も、グループ「外」の企業や個人との取引が無ければ、価値創造を行うことは出来ません。
(これ、グループ企業内で取引を続けた西武グループがマヌケである本質的原因です。)
このグループ外企業との取引とは、マクロ経済にたとえれば、貿易であり、価値創造は純輸出によってもたらされるわけですから、このとき通貨が高い分、損になると言うわけです。
つまり、株式分割よる実態経済価値より高い株価を利用した株式交換による企業買収は、「永遠に買収を続けなければ、破綻する」というわけです。
そして、「永遠に買収を続ける」ことなど、出来るはずがありません。
つまり、マネーゲームというわけです。
全うな経営者は、株価と実体経済価値の乖離を、むしろ嫌うのです。
実体経済価値より相当に低く評価されていても(=敵対的買収の恐れ)、
実体経済価値より相当に高く評価されていても(=資本コストの上昇の恐れ)、
価値創造において、不利に働くと言うことを、理解しているのです。

事実、昨年、この手法を連発したライブドアのマネーゲームは、限界を迎えています。
限界を迎えたので、手法を変えたのです。
2005年2月に、ニッポン放送買収資金を調達したMSCBという資金調達手法は、昨年までのライブドアの手法の「真逆」です。
既存株主の犠牲の上に、800億円を調達し、そのイイワケとして、「買収が成功すれば、被買収企業の価値が加わり、さらにシナジーが生まれ、企業価値が創造される」というわけです。
事実、株式交換ではなく、新たに調達した現金による買収ですからね。

「シナジーが生まれるじゃないか!」と言う方には、是非、
KISS第5号「シナジー効果」を読んでみてください。
シナジーが生まれても、それが総コスト以上に生まれるのでしょうか?
皆さん、「枝葉」ばかり見ていて、「根っこ」を見ないのですよ。
この場合の「根っこ」とは、ずばり「資本コスト」です。

つまり、
ライブドアの昨年までの手法である、株式分割によって実体経済価値より高い株価を「作り出し」、これを利用した株式交換による企業買収も、
高い資本コスト(MSCBが株式に転換されれば、資本コストは上昇します)によって調達した資金による企業買収も、全くインチキそのものであり、よって、いずれ破綻します。

価値創造は、時間が無ければ、行われないのです。
急いで事業を拡大しようとすれば、自らの事業が生み出すキャッシュでは足りなくなり、外部からコストの高い資本を調達しなければならなくなります。
高い資本コストの上で、企業価値創造を行うためには、資本コスト以上の投下資本利益率を必要とします。
資本コストの高い企業で、成功した企業など、ほとんどありません。
なぜなら、高い資本コストを賄うために高い投下資本利益率を求めると言うことは、、同時にリスクも高まるからです。
まあ、簡単な話、博打ってことです。

しつこいようですが・・・
投資家ウォーレンバフェット氏の経営によるバークシャーハサウェイ社の長期の成功は、その「運用側=コカコーラとかジレットとか・・・」もさることながら、その資金調達コストの安さにあるのです。
SMU第177号「安く仕入れて(調達して)、高く売る(運用する)」に、以上の本質が書いてあります。

とにかく、証券システムそのものを変える必要があります。
この部分に関しては、SMU第78号「未来の証券取引」に書いています。
(SMU=スタートミーアップ。右フレームのボタンからどうぞ。)

板倉雄一郎 2005年3月14日(分の再掲載)





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