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KISS 第96号「バリュー投資」

バリュー投資手法について、意外と多くの方が、その手法について誤解していると感じます。
なので、その誤解を、解いてみますね。

(今日のは、ちょっと難しいです。でも、当事務所のセミナー卒業生なら理解できるはずです)

誤解:「バリュー投資って、買ったらずうっと売らないんでしょ?いつ儲けるの?」

「バリュー投資=長期投資」と勘違いしている方はとても多いです。
確かに、経済価値創造を効率的に行うであろう企業を見つけ、「結果的に」長期で保有することは多々あります。
当該企業が効率的に経済価値創造を行っている場合とは、すなわち、当該企業のWACC(=加重平均資本コスト)を相当に上回るROIC(=投下資本利益率)を維持できるであろうと予測できる企業のことです。
このROIC?WACC=Spreadに、投下資本総額を掛けた値を、当該企業がその期に生み出したEVA(=Economic Value Added)またはEconomic Profit(=経済的付加価値)と表現し、これこそがバリュー投資家の「分け前」ということになります。
(詳しくは、KISS第1号「急がば回れ」を参照ください)
この分け前は、株主価値の変化として(少なくとも長期では)時価総額の上昇として現れます。

(もちろん、投資する時点で、当該企業の現在価値に対して相当に安い株価が提示されていれば、当該企業の経済的付加価値増加分に加え、裁定分のキャピタルゲインも確保することが出来ます。
ただし、分け前の一部を企業が配当すれば、配当総額分の時価総額上昇は抑制されます。
つまり、株価上昇と配当による現金の配分は、常にトレードオフということです。
配当を増やした企業の株価が上昇するのは、あくまで短期の話に過ぎません。
このように株主価値に無関係な株価変動は、日本人投資家が企業価値についての理解を深めることによって、いずれ無くなる現象でしょう。
詳しくは、KISS第39号「配当と株主価値」を参照ください)

たとえば、(以下は、あくまで理論的な話であることをお断りしておきます)・・・
ある企業の投下資本が1000億円、ROIC-WACC=Spreadが5%だった場合、この企業は1年間に50億円のEVAを生み出したことになります。
この企業が仮に50株(←相当に少ない株式数ですが)の株式を発行していたとすれば、一株辺り年間1億円のキャピタルゲインが見込めるというわけです。
この一株辺り1億円のゲインを得ることは、当該企業の他のステークホルダーから、不当に多くの経済価値を受け取ったということにはならず、投資した資金が企業価値創造に貢献した分の「配分」ということになります。
しつこいようですが、これは、従業員が企業の価値創造に対して労働力を提供し、その見返りとして賃金を受け取ることと同じように、投資家が企業の価値創造に対して提供した資金に応じて、投資家が分け前を得るということです。

一方で、この企業の株式一株を1日間だけ保有することによって、100万円のキャピタルゲインを得た短期投機家が居た場合、この投機家はおよそ72万円のキャピタルゲインを他の投資家から奪ったことになるわけです。(もちろん違法ではありませんし、市場が容認していることです)
(一株あたり1億円のEVAを1年間で得るわけですから、1日間では、1億円/365日=およそ28万円のEVAを得てしかるべきということになります。)
このような短期投機家が当該企業の株主の大部分を占めていれば、時価総額は下落します。
なぜなら、WACCの一部である株主資本コストは、投資家から見た期待収益率だからです。
短期投機家の期待収益率は、低くはありません。
短期投機家が株主の大部分を占める企業のWACCは高いということになり、それが当該企業のROICを超えてしまえば、Spreadはマイナスになり、企業価値は破壊されます。
(このような企業は、結構たくさんあります。)
つまり、企業の株主価値の変動は、株主の期待収益率によって変動するという相互作用によって成り立っています。
(有利子負債ゼロの企業の場合、WACC=株主資本コスト=投資家の期待収益率となります。)
誰かが慌てて、当該企業の事業のROICを上回る利益確定をすれば、それはすなわちWACC上昇となり、株価が押し下げられ、他の株主を毀損することになるわけです。
ですが、しっかりROICを得ている企業の場合、長期ではしっかり株価は上昇します。
なぜなら、(短期投機家に比べ期待収益率の低い)バリュー投資家が、短期投機家によって作られた安い株価に目をつけ、どんどん保有を増やし、結果として短期投機家を追い出し、当該企業のWACCが適正水準(ROICを適度に下回るWACC)に落ち着くからです。
しつこいようですが、渋滞を作っているのは、自分自身なのです。

完全に効率的な市場を前提にした場合、当該企業のSpreadがプラスであれば、EVA分の時価総額の上昇となり、Spreadがマイナスであれば、そのマイナスEVA分の時価総額の下落となるというわけです。
(企業の経済価値破壊の「しわ寄せ」は常に株主に寄せられます・・・一方、経済的付加価値の多くも株主に配分されます。株主は、債権者よりハイリスクハイリターンということです。なぜなら「業績が悪いから債務を減らしてくれ」と債権者に言うわけにはいかないですからね。一部のインチキ・ゼネコンとかは別らしいですが(笑))

仮に現在価値と株価に大きな乖離がある(=裁定余地がある)場合でも、Spreadが長期でマイナスと予想される企業の場合、裁定に時間がかかればかかるほど、株主価値は下落し、裁定幅は小さくなり、結果、投資利回りは低下します。場合によっては投資利回りがマイナスになることもあります。
これとは逆に、Spreadがプラスであれば、放っていおいても(放っておいた方が)キャピタルゲインを稼げるというわけです。

バリュー投資の利点は、まさに、「時間を見方にする」ということです。
企業を見抜く目と、価値計算の方法を知っていれば、時間と共に資産価値が増加し、その経過時間の間に、相場とにらめっこする時間を他の仕事に利用することが出来るというわけです。
オマケに、税金を支払う必要もありません。(投資先企業が法人税を納めます)

バリュー投資とは、その名のごとく、「企業の価値に対して投資する」ということであって、必ずしも「ひたすら持ち続ける長期投資」とイコールではありません。
また、投資対象の経営効率が低下した時や、投資家自身の資金需要に基づいて、当該企業の株式を現金に価値変換することを、バリュー投資は否定していません。
バリュー投資は、当該企業の生み出す経済的付加価値以上に儲けてはならないなんていう、説法が含まれているわけでもありません。
当該企業が生み出したEVA相当分をキャピタルゲインとして、最低限いただくというわけです。
さらに、ほんとしつこいですが、裁定余地を利用して仕込み、利益確定時に当該企業の現在価値より相当に高い株価を利用した利益確定も否定していません。
これらは、当該企業の生み出す経済的付加価値によるキャピタルゲインに加えられた「オマケ」です(笑)
バリュー投資も、投資である以上、リスクを取った分、しっかり「儲ける手法」に他なりません。
もし、当該企業が、他のどの企業よりROIC?WACC=Spreadが大きく、それを長期で継続できると評価した場合、「何もわざわざ利益確定して、資金を遊ばせる必要は無い」となるわけです。
利益確定した資金を他のどこにもって行くというのでしょう。
バリュー投資は、以上の結果として長期保有となる場合が多いだけです。

さてさて、企業のWACCを決定するその本質は、市場の経営者に対する信頼(=リスク認識)です。
これが、上手に出来る経営者が経営する企業の場合、長期ではしっかり株価は上昇します。
(言うまでもありませんが、ROICがWACC以上である場合=Spreadがプラスである場合に限りますよ)
たとえば、
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=BRK-A&t=my&l=on&z=m&q=l&c=
この企業の、超長期での株価推移をご覧ください。
だれの経営による企業であるか、お分かりですよね。
(ちなみに、米市場の株価グラフは、デフォルトで縦軸の株価が「log=対数」表示になっているので、皆さんが見慣れている縦軸を均等に取る「Linear=リニア」表示にすれば、見た目の感覚として、もっと上昇しているように見えるはずですよ。log表示の場合、株価上昇の勢いが頭打ちになっている印象を受けますよね。増加「率」に重きを置けば、ログ表示を観る癖をお勧めします。Yahoo!ファイナンスでも、表示形式を、リニアとログで切り替えられます。)

あなたがもし、この企業の価値創造に1991年ごろに目をつけ、およそ5500ドルで一株を購入していれば、15年後の現在、その株価は、8万?10万ドルになっていたということです。
株価のCAGRは、およそ20%強です。
たった一年の20%ならたいしたことはありません、しかし「複利で長期」に渡っての20%は、かなりデカイですよ。
オマケに、投資したあなたは、相場とにらめっこする必要も無ければ、株式取引に多くの時間を割く必要も無いわけですし、さらに税金も支払う必要がないわけですからね。

2005年7月6日 板倉雄一郎

PS:
7月16?17日開催、「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーは、あと5席です。
翌18日は、祝日ですから、とっても良いチャンスだと思います。
週明け月曜日(7月11日)または、定員に達した場合、募集を締め切ります。
ご興味のある方は、是非この機会に。





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