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KISS 第32号「企業価値とは」

今、日本人にとって、フィナンシャルリテラシーを高める絶好のチャンスです。
(その意味では、ホリエモンを評価します。(笑))

しかし、今、メディアが報道している内容は、残念ながら・・・
サッカーにたとえれば、
サッカーとは何か?を知らない人に向かって、
「オフサイドルール」の説明をしているようなものなのです。

なので、企業価値創造に関する基礎を、
成功と失敗の経験があり、
資本構成が企業の命運を分けると言うことを、
身をもって知っていて、
且つ、理論を理解している僕が、
この場で書いてみようと思います。
可能な限り、誰にでも分かるように、書きたいと思います。
(僕が今できる、最も重要な社会貢献です。
僕は、社会に対して借りがありますから・・・・)

<基本中の基本・・・「資本コスト」が重要な理由>

たとえば・・・
「サラ金」から、年率30%の利息で、100万円を借り(=調達し)、
その資金で、株式投資を実施したとします。
(これを、「資本コスト=30%」と表現します。)
一年が過ぎ、
株式投資によって、年率20%の利回りを得られたとします。
(これを、「投下資本利益率=20%」%と表現します。)
1年前に調達した資金が、120万円になったと言うことです。
しかし、このとき、サラ金に金利を支払わなければなりません。
金利は、年率30%ですから、100万円に対して30万円の利息と言うわけです。
株式投資(=運用側)で、20%の利回り(=投下資本利益率)が得られても、
その資金の調達側では、30%の金利(=資本コスト)を支払う必要があり、
結果として、「価値創造はマイナス10%=マイナス10万円」ということになります。
株式投資(=運用側)では、利益が出たのに、
金利(=資本コスト=調達側)分を差し引くと、マイナスになってしまうわけです。
これで、お分かりいただけると思います。
「投下資本利益率」 > 「資本コスト」
でなければ、経済価値創造は、絶対に行われないのです。
もし、
「投下資本利益率」 < 「資本コスト」
であった場合、経済価値「破壊」になるわけです。

<中級編・資本コストの種類>

企業が資本を調達する方法は、大きく分けて二つあります。
一つは、
銀行からの融資や社債発行などによる「借金」=「有利子負債」で、
もう一つは、
株式発行による「増資」=「株主資本」です。
(ちなみに、上場企業の場合、日々株主が入れ替わりますから、
増資の場合だけ、新規の株主が増えるわけではありません。)

ここで、有利子負債と株主資本では、
それぞれ「資本コスト」に違いがあるのです。
一般的には、
「株主資本コスト」 > 「有利子負債コスト」
です。
なぜなら、
融資をする場合、その利息や返済条件が契約書に明記されますが、
株式投資をする場合、その投資家に対する利益は、
明示されていないからです。
よって、株主(=企業に資金を「投資」している者)の方が、
債権者(=企業に資金を「融資」している者)より、
リスクが高いのです。

リスクが高いのに、収益が低いのでは、誰も投資しません。
よって、株式投資は、融資に比べ、リスクが高いので、
株主資本コスト=(資金の出し手から見た)期待収益率も当然高くなるのです。
融資であれ、投資であれ、投資活動とは常に、
リスク以上のリターンが期待できる場合にしか合理的でありません。

以上から、
「投資家のリスク認識」=「投資家の期待収益率」=「企業の資本コスト」
であることが、お分かりいただけると思います。


どうしても、わからない人のために、しつこくわかりやすい例を・・・
「サラ金」の金利は、高いですよね。
でも、なぜそんな高い金利で金を借りなければならないのかを考えてください。
その理由は、借りようとする人の信用力が無いからです。
借りようとする人の、信用力が無いと言うことは、
金を貸す方から見れば、
「この人に金を貸すのはリスクが高い」と言うことです。
よって、「そのリスクに見合ったリターン」を得ようとすることによって、
「じゃあ、年率30%の利息ならいいよ」となるわけです。

企業の資本コストは、以上から、
「株主資本コスト」と、「有利子負債コスト」の、
それぞれの額の比率によって、
加重平均を取った結果得られると言うわけです。
これを、
「WACC=Weight Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」
(「ワック」と発音します。)
と表現します。

一方、運用側の投下資本利益率を、
「ROIC=Return on Invested Capital=投下資本利益率=運用側利回り」
(僕は、「ロイック」と発音しています。)
と表現します。

つまり、企業が価値創造を行うためには、
「ROIC > WACC」
である場合に限り、創造されるのです。


ただし、ROICは、必ずしも、足元でWACCを上回っている必要はありません。
将来、平均的に、ROICがWACCを上回る見通しがあれば、
株式市場は、それを見込んで、評価すると言うわけです。

世間で、言われている、
「シナジー効果」=ライブドアとフジサンケイグループ企業が
くっついたときに、生まれるであろう付加価値が、
ライブドアの「資本コス」トを上回るかどうか?
ここが、重要と言うわけです。

<上急編・株主資本コスト>

有利子負債コストより、株主資本コストの方が、高い、
と言うことは、既に説明しました。
それでは、株主資本コストとは、なにかについて書いてみます。

有利子負債のコストは、以上の説明から、
誰にでも容易に理解できると思います。
企業会計の場合、「経常利益」の段階で、
「支払利息」が計上されますから、
会計上の数字として、明確に記載されます。
しかし、株主資本コストについては、
企業会計上、「配当」部分だけしか、表現されません。

一方、投資家は、「配当」だけを目的に、株式投資をしているわけではないですよね。
多くの場合、配当より、「株価上昇益=キャピタルゲイン」を見込んで投資するわけです。


「空売り」による収益は、この逆となります。
つまり、今回のリーマンブラザース証券の収益は、
「ライブドアの株価が下落すること」によって、もたらされるのです。
融資先の企業の株価が下落することによって、収益を得ているんですよ。
さらに、そのチャンスを与えた(=貸し株)のは、堀江君自身なのです。
800億円を調達したいがために、既存株主を犠牲にしたのです。
あなたは、これをどう思いますか?

つまり、株主資本コストとは、
当該企業に投資する投資家の、
当該企業に対する「リスク認識」=「期待収益率」によって、決まるのです。
投資家が、当該企業への投資において、
「短期間で大きな株式値上がり益」を狙うと言うことは、
企業にとって、「株主資本コストの上昇」に直結すると言うわけです。

よって、企業価値は、株主のリスク認識によって、左右され、
投資家のリスク認識は・・・(ここが重要です)
当該企業の「経営者に対する信頼」によって、左右されるのです。

以上の基礎を元に、ライブドアのケースについて、書けば・・・

ライフドアの株主とは、一体どのような方々でしょうか?
それは、
「20年間ライブドアの株式を保有し、
年率平均10%の儲けで十分だ!
なぜなら、堀江君の経営手法に、
危うさが無いからだ。」
と、思って投資している人たちでしょうか?

そのような方々ではないと思います。

もし、ライブドアの現在の株主の多くが、
「今日買って、明日売って儲けよう」という投機家の集団だとしたら、
一体どうなるでしょうか?
「日に、最低でも1%程度の稼ぎが欲しい」といった、
「投機家」ばかりだとしたら、
ライブドアの資本コストは、どのようになると思いますか?
1日あたり、1%の収益を期待すると言うことは、
年率換算で、365%ではないのですよ。
1日あたり1%と言うことは、1日複利と言うことですから、
年率換算すれば、
(1+1%)^365(または、相場の稼働日である、250乗)
ライブドアの資本コスト=3700%!(または、1200%!)
と言うことになります。
つまり、ライブドアは、
その運用側である「フジサンケイグループ企業」との事業提携によって、
年率3700%(または、1200%)以上の、利回りを実現しなければ、
ライブドアの株価上昇は期待できないと言うことです。
ちなみに、年率1200%とは、投資した資金が、
一年で12倍!になるという意味です。
(これは、あくまで、
すべての株主が日に1%のリターンを期待しているという仮定の下の計算です。
よって、実際のライブドアの資本コストは、
株主それぞれの期待収益率に依存しますので、この限りではありません。)

危うい経営者の経営する企業には、投機家が集まってしまうのです。
結果、資本コストは上昇し、企業価値を破壊するのです。
それでも、価値創造を行うためには、
非常に高い資本コストを上回る、超高い投下資本利益率が必要となります。

さて、それでは、会計上に現れない「株主資本コスト」は、
それを「投下資本利益率」が上回らない=価値破壊の場合、
どのような形で現れると思いますか?
それはずばり、
「株主価値の下落」=「時価総額の下落」=「株価の下落」
となって現れるのです。
なぜなら、投資家が、当該企業へのリスク認識を高めた場合、
「もう少し株価が下がらなければ、買いたくない」と思うからです。
お分かりいただけますよね?
(ただし、明日の株価や、一ヵ月後の株価についての話ではありません。
あくまで、長期=一年以上の話しです。)

「なぁ?んだ、減益になるわけじゃないんだ。ならば、企業にとっては、影響ないじゃないか!」と思う馬鹿者は、「企業とは何か?」について、全然わかっていないのです。
企業とは、「株主も含めて企業」なのです。
株主価値(=時価総額)の下落は、企業にとっての損失なのです。
当たり前のコンコンチキです。

どれほど、
買収そのものの成否や、
買収後のシナジー効果を語ったところで、
その結果としての、「運用側=投下資本利益率」が、
ライフドアの「資本コスト」を超えるかどうか、
はたまた将来、越えられるのかどうか?
と言う議論が無ければ、
司法判断させ下せないのです。
この企業価値を語る上で、「資本コスト」は、最も重要なファクターなのです。

以上を、企業価値評価理論では、
企業価値=
「当該企業が生み出すであろう、
将来フリーキャッシュフロー(=純現金収支)を、
当該企業の「加重平均資本コスト」によって、
現在価値に割り引いた結果の総和」
と言うことになります。

また、ある年次に生み出された企業価値とは、
(ROIC-WACC=SPREAD)*IC
(投下資本利益率―資本コスト=スプレッド)*投下資本額
と言うことになります。

ライブドアの買収劇が、「すべてうまく行った場合」、
ライブドアの投下資本利益率は、
ライブドアの資本コストを、果たして上回ることが出来るのでしょうか?

絶対に出来ないなどと言っているわけではありません。
ただ、僕の足りない脳みそで考える限り、
「TVの通販化」程度のビジネスモデルでは、実現できないと、思うのです。

ただし、ライブドアの企業価値創造を可能にする手法が全く無いわけではありません。
以上の理論をベースに、その解決策を考えた場合、
「信頼に値するビジネスモデルとビジネスプラン」を、
社会に対して、提示することが、最も合理的です。
なぜなら、それを実現できれば、
投資家のリスク認識度が低下し、資本コストがが低下し、
企業価値が創造される(かもしれない)からです。
しつこいようですが、「テレビ局の通販会社化」程度のプランでは、全然駄目です。

板倉雄一郎 2005年3月18日(分の早アップ)

PS:
堀江君の「世の中を変えたい」が、仮に彼の本心だとしたら、
それはそれで賛成です。
しかし、彼の今のやり方では、それを達成できません。
彼の周囲は、彼を利用しようとする者と、
理論の一部しか知らない者ばかりなのです。
ライブドアが、ニッポン放送の過半数の株式を取得したとか、しないとか、
そんなことは、枝葉の話に過ぎないのです。
大切なのは、「根っこ」なのです。

株式新規上場の審査基準として、
経営者の「企業価値創造メカニズムへの理解」をテストし、
それに合格しなければならないとするべきです。
これ、まじめな話しです。





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