板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 第89号「オンライン・バリュエーション会」

先日の日曜日夜、当事務所セミナー卒業生による、「オンライン・バリュエーション会」が開かれました。
道具は、パソコン+通信+スカイプ+企業価値評価の出来る頭脳。
今回の参加人数は22名。
予め、「評価者」5名によるバリュエーション結果が卒業生メーリングで流され、他のメンバーが疑問質問、異論反論をオンラインで展開するという内容です。

評価対象企業は、「東京製鐵」。

面白かった。
あらためて、セミナー卒業生が優秀であることを痛感しました。
ってか、僕自身、個別企業の分析の仕方について、勉強になりました。
「他人の意見」、すごく貴重ですね。

東京製鐵は、ご存知のように、鉄スクラップを電炉によって再生する事業を行う企業です。
スクラップから、自動車用の高級鋼材を作れる特殊な技術を持つ結果、ROIC(=投下資本利益率)も、同業他社に比べ非常に高く、その上、このところの需要増と合わせて、極めて効率的な経済価値創造を行っている企業です。

評価のポイントは、原材料の「鉄スクラップ」の価格動向、
および、製品の価格動向、販売市場をにらんだ資本的支出、
そして、この企業が本来持っている経営効率です。

「愛知に取得予定の工場予定地の面積は、
同社の現在の工場面積とほぼ同じだ!?を意味する戦略だ」とか、
「いやいや、トヨタと提携予定なのだよ」とか、
「製品の値段が高騰し、原材料価格が低迷しているのは、おかしい!
こんなに(原材料価格と製品価格の)スプレッドが大きい状態は、維持できないはず。」
などなど。
期待以上の意見交換でした。

参加者の多くは、それぞれ、同社の有価証券報告書に限らず、鉄鋼業界の業界紙やネット上の情報などをかき集め、その方なりの将来業績予測を行っていました。
時価が1500円前後であるのに対し、彼らの分析による理論株価は2000円?3000円。
評価結果は、全員「BUY」。
(この発表には、当事務所は、何の責任も負いませんよ。とは言っても、このところの同社株の下落で、僕も結構買いまし(増し)たが。)

バリュー投資の場合、その対極にあるデイトレと違い、他人との意見交換が自己の利益の最大化につながります。
デイトレのような短期トレードの場合、くどいようですが、ゼロサムです。
ゼロサムとはすなわち、自分の儲けは、誰か他人の損失ということですから、自分の持つ投機技術や情報は、自分だけのモノとしてトレードすることが、自己の利益を最大化します。
これとは逆に、本質的に、「企業が行う経済価値創造=EVA」相当を、「投資した資金の代わりにキャピタルゲインとして頂く」というバリュー投資の場合、自分以外の多くの人が、当該企業の価値創造の可能性について気が付くことが、自分の利益の最大化になるというわけです。
(もちろん、理論株価より相当に株価が下落し、裁定余地が大きい時に投資するほうが予定利回りは大きくなることは言うまでもありませんが。)

結果、「自分の投資判断に自信を持つ」ことが可能になるというわけです。

仕込んだ次の日に、株価が10%下げれば、買い増しすればよいわけですし、
資金が無ければ、放っておけばいいわけです。
短期の株価を読む技術なんて、僕は全く知りませんが(笑)、長期では、統計的にも理論的にも、当該企業が生み出すであろうキャッシュフローの現在価値周辺に株価は落ち着きます。
これほど確かな投資手法など、この世にありません。
それは、歴史が証明しています。
ってか、一度分析して、仕込んでしまえば、あと、めんどくさくないですし、
税金払わなくていいですし(投資先企業が法人税を納めています)、
投資それ自体、当該企業の価値創造に貢献していることになりますし、
他の時間は、社会に対する価値提供としての「労働」に使えますし、
その労働の結果、投資の原資も稼げますし、
何しろ、自分の活動に「疑問」を持つことが無いですから、健康です。

「お前がいつも書いているように、キャッシュでなければ、オマンマ食えないんだよ!」って反論がたまにあるのですが、オマンマ食べるためなら、社会に対する価値提供の伴わない短期トレードなんかせずに、社会に対する価値提供の伴う「労働」をすれば良いのです。
労働によって稼いだ金で、自分に必要な消費をし、その結果残ったお金を、自分が信じる対象への投資とすればよいのです。

たとえばマイクロソフトでも、バークシャーハザウェイでも、トヨタ自動車でもよいですが、長期の株価推移を見てください。
このような長期で経済価値創造を行う企業を見つけ出すことが出来れば・・・
短期トレードが如何に馬鹿馬鹿しいか、
日々の株価の動きに一喜一憂することが、如何に馬鹿馬鹿しいか、
お分かりになるでしょう。
(ROIC-WACC=Spreadが相当にプラスな状態を長期で維持できる企業の場合、裁定余地が全く無い(=将来キャッシュフローの割引現在価値による理論株価と市場価格が同じ)状態で投資を実行しても、少なくとも理論的には(=少なくとも長期では)、Spread*投下資本=EVA分、毎年株価が上昇します。)

労働の瞬間、消費の瞬間、投資の瞬間、どの瞬間においても、「自分の精神に胸を張って行動できる」のが、少なくとも僕は好きですし、人生を楽しめます。

でもぉ?、恋愛の瞬間は、無防備になるかもぉ?(笑)

2005年6月22日 板倉雄一郎

PS:
今週末は、楽しい楽しい「合宿セミナー」です。
今から、わくわく!
当事務所の評価対象企業様には、卒業生や受講生からの「しつこい問い合わせ」が殺到することをお許しくださいませ(笑)。
彼らは、当該企業にIR部門があろうが無かろうが、とにかく電話やメールで問い合わせをしまくりますから。
ってか、そう教えているわけですけれど(笑)

PS^2:
最近発売された「日経マネー」の30Pに、僕の「誌上レクチャー」という「記事」があります。
一見、ペイドパブ(=少々広告費を払って取材してもらう)に見えますが、これは、純粋な「記事」ですのであしからず。
なんか、取材していただいた方のおかげで、内容も体裁もとても良く出来ていて、一見「広告?」に見えちゃいます(笑)
内容は、「基礎の基礎」ですが、とても大切なことですので、読んでみてくださいね。
よろしくです。





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