板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 最終号「おさらい」

これまでご愛読いただいた、KISS(=Keep It Simple , Stupid)は、今回で最終回です。
皆様のアクセスのおかげで、僕は何とか、「ほぼ」毎日で書き続けることができました。
これまで、たくさんのご意見、励まし、異論反論、合意論など頂、ありがとうございました。
この場を借りて、読者の皆様、そして文章のミスを毎度指摘してくれた当事務所パートナーの方々にお礼を申し上げます。

ありがとうございました。

なお、僕の思いつきで書いてきたKISSですが、思いつきで書くがゆえに、毎回テーマがあっちいったり、こっち来たりと、バラバラでした。
一方、熱心な読者の方々から、「KISSをまとめて読みたい」、「KISSをまとめて印刷する方法は無いか?」といったご質問を頂きました。
以上の読者からの要望にこたえるべく、現在当事務所のパートナーが、KISSの「カテゴリーごとの編集および加筆修正」を行っております。
完成しましたら、このWEBより、KISSの編集後PDF版を、「有料販売」いたします。
あくまで、読みやすくするためのコストの回収ということでの有料販売なので、どうかご理解ください。
とはいっても、いわゆる「本」の価格よりは、安く設定しますので、ご安心を。
また、現在のWEB版KISSはそのまま掲載し続ける予定ですので、ケチケチ路線(笑)の場合には、過去のKISSを御読みください。

なお、心入れ替えて(?)の新連載は、10月3日以降から開始いたします。
こちらもよろしくお願いいたします。

それでは、これまで書いてきたことの中で、特に重要と思われることを、思いつきでいくつか整理してみますね。

<WACCとはなんだ?>

企業への投資を、ファイナンス的に観ると以下のようになります。

「当該企業が事業活動によって生み出すであろう投資家に帰属するキャッシュフロー(=フリーキャッシュフロー)および、非事業用資産(=余剰現金、非事業用不動産、非事業用投資有価証券などなど)を、投資家自身の打倒な価格で、その一部または全部を手に入れる」
となります。

このときWACCとは、上記フリーキャッシュフローを現在価値に割り引くための「割引率」として適用することになっています。
しかし、WACC算出のためのKe(=株主資本コスト)は、その因数に市場の「株価変動」を数値化した「β(ベータ)」を用いることからもわかるように、ここで言うKeとは、「当該企業の株主全体」の当該企業に対する「リスク認識=期待収益率」です。
よって、WACCとは、すなわち「中期的な株価を予測するため」の数値となります。

超短期トレード(=デイトレなど)のように、そもそも投機先企業の価値など全く無関係に、価格変動にのみ投機する場合には、WACCなどどうでもよく、
また、バリュー投資家のように、「中期的な株価予測」などどうでもよく、「投資家自身が考えるところの価値」に、割と長期で投資する者の場合にも、やはりどうでもよい数値となります。
WACCを重宝がるのは、いわゆる他人資本を中期的に運用するファンドマネージャーなどの利用が一般的というわけです。
おっと、どんな投資家も受け入れることになる「上場企業の経営者」が、WACCに対する理解が無いのは言語道断です。

しつこいようですが、僕はSMU第103号でご紹介した「自分勝手割引率」を、バリュー投資家の皆さんには、お勧めしたいと思います。

<投資家に帰属するキャッシュフローはどうなる?>

事業活動に必要な資金をすべてキャッシュアウトした結果の「流しそうめんの一番川下に残ったキャッシュフロー」が、投資家に帰属するキャッシュフローです。
したがって、事業が予測を下回れば、この部分(=つまり株主価値)が、その分押しつぶされ、またその逆は、これが増大します。
他の利害関係者に比べ、ハイリスクハイリターンというわけですね。
このキャッシュフローは、毎期、直接投資家の元に「現金として」入金されるわけではありません。(よって、感覚的に配当ほど重視されないのでしょう)
しかし現実に、このキャッシュフローは・・・
たとえば配当、
たとえば自社株買い、
たとえば有利子負債の返済、
(↑をすれば、次期以降のFCFの株主取り分が多くなります)
たとえば内部留保による株主価値の増大、
などによって、投資家に還元されます。
還元が、直ちに、表面化しないだけで、現実には投資家に帰属しています。
長い時間をかける中で、市場はこれらを「どういうわけか」価格に折込むわけです。

<(たとえばシリーズ)自社株買いの続き>

KISS第126号「学習の方法」でご紹介した僕なりの解釈は・・・


自社株買いとは、
自社株買いに応じる既存株主の株主価値を、
自社株買いに応じない既存株主が、
時価で買い受ける。
買い受けた自社株を『燃やす』ことによってバランスシートを圧縮できるが、
『燃やさずに』、株式交換買収の通貨として利用する場合もある。

ということでした。
しかしこれでは、「で、どうなるの?」と、答えを求める読者の満足を満たすことが出来ないので、(あまり書きたくありませんが)その先を書いて見ますね。
(本当は、ご自身で考えるべきことです。)


自社株の価格が、価値に対して相当に安い場合、
(自社株買いに応じない既存株主が)、
自社株買いのために放出する現金より、
手に入れる株主価値のほうが大きいため、
一株辺りの価値を押し上げ、
自社株の価格が、価値と同等程度であれば、
(自社株買いに応じない既存株主が)、
自社株買いのために放出する現金と、
手に入れる今日現在の株主価値がイコールとなるので、
一株辺りの価値に変動が無い。

と、なります。

つまり、自社株買いに限らず、あらゆるオペレーションは、「場合分け」が無ければ、良いとも悪いともいえないわけですね。
だからこそ、「ご自身で考える」習慣が必要と言うわけです。
(すべてのオペレーションの、すべての条件分岐を考え、その結果「株主価値がどうなるのか」を、「いずれ」すべて表現したいと思っていますが、時間がかかります。
すんまそん。)

<渋滞を作るのは自分自身>

もうお分かりの通り、株式市場のメカニズムを端的に示した言葉です。
これ自体をくどくど説明する必要は無いと思います。
つまり大切なことは、
「自分の行為は、多かれ少なかれ、自分や社会の環境に影響を与える」
ということです。
これに思いを馳せられるのは、おそらく人間だけでしょうし、だから人間たる所以だと思う次第です。
自分だけ独立して、客観的にこの世に存在することは不可能であり、自分はあくまで社会の一部ということです。

<価値を創造するのは人である>

KISSで最も訴えたかったことは、「奪い合うことより、創りだすこと」。
つまり、ゼロサムではなく、プラスサムの社会を目指そうと言うことです。
創りだすことは、人にしか出来ません。
企業への投資とは、ファイナンス的にではなく、現象の本質的には、「人」への投資に他ならないのです。

その他書き始めたら、止まらなくなるので、この辺で。
後は、KISSのバックナンバーをじっくり御読みくださいませ。

「自分で考える」
この習慣は、あらゆる生活の場面で、あらゆる運用の場面で、あらゆる理解のために、最も基本となることです。
安易に答えを求めず、自分で考える癖を身につけましょう。

読者の皆様、これまでKISSに御付き合いいただき、ありがとうございました。
一連の文章が、皆様のお役に立てれば幸いです。

(以上、参考エッセイは、「すべてのKISS」ですから、個別の参照は掲載いたしません。
過去のKISSには、右フレームのバナーをクリックすれば、右フレームにインデックスが表示されます。)

2005年9月30日 板倉雄一郎

PS:
病院に行ってきました。
全治2週間だそうです。
まあ軽症ってことです。
幸い「骨」には異常が無く、筋肉および筋などの内部損傷でした。
本当に、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。

PS^2:
「あれっ?KISSを継続すると思ったら、最終回かよ!」ってですか?
タイトルがちょっと変わるだけです。
お楽しみに。





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