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KISS 第21号「問題の本質」

「この店(企業)なんか変だなぁ」と、僕が思う場合。

そのお店(企業)は、近い将来におかしなことになるんです。

具体的ケースは割愛しますが、そんなことが何度もありました。

自慢話ではなく、「理論と経験を積み上げた上での感覚」の大切さの話しです。

苗場プリンスホテル・・・

20代の頃の僕は、雪さえあれば、仕事が忙しかろうが、体調が多少悪かろうが、金曜日の夜中から日曜日の夜まで、上越地方にスキーに出かけていました。

多い年では、シーズン中に20回はスキー場に通っていました。

環八から渋滞の始まる関越道をひた走り、当時は一車線だった関越トンネルを抜け、越後湯沢ICを降りた所にある「神立高原スキー場」にて早朝スキーを楽しみ、昼頃から国道17号を上り、苗場に場所を移しひたすら滑ったものです。

もちろん宿泊は、「苗場プリンスホテル」。

オーナーである堤義明氏がスキーを楽しむのだから、その「鶴の一声」でよほどサービスの良いスキー場宿泊設備かと思えば実態はひどいもので、車でのアプローチから、部屋で一休みするまでのシーケンスのめんどくさいこと・・・客の立場を全く考えないデザインです。

御曹司への全社の特殊な扱いが、彼にこの現実を気付かせなかったのでしょう。

いつの頃か忘れましたが、部屋でシャワーを浴びているとき(確か、苗場プリンス3号館)、ホテルマンがドアを「ドンドンドンドン」と叩く音を聞きました。

慌ててバスタオル姿でドアを開けると、ホテルマンは怒りを顕にしながらこう言いました。

「下の部屋に、水が漏れています。ちょっと失礼します。」

そう言いながら、僕の許可も得ず、部屋に入り込み、風呂場を覗くのです。要するに、シャワーの水が風呂桶と壁の隙間から漏れ、下の階の部屋に漏れ出している物理現象でした。

その後、僕は散々怒られました。

が、僕は何も言いませんでした。

なぜなら、「このホテル、アホか?」と唖然としていたからです。

「これ、僕のせい?」

一緒に居た「お」友達は、目を真ん丸くして凍っておりました。

幕張プリンスホテル・・・

お決まりですが(笑)、お隣のコンベンションホールでお仕事を終えた「お」友達と過ごす夜、僕はたびたび「幕張プリンスホテル」を利用しました。

部屋の冷蔵庫を開けると、中身は空っぽ。

フロントに確認すると、一階にショップがあるから、そこで欲しいものを買ってくださいと言うわけです。

まあ、ミニバーは、どこのホテルでもボッタクリに近い異常な高額ですから、ショップで買ってくるのは悪くないです。

ですが、「お」友達と「映画鑑賞」(笑)した後、何か飲みたくなるじゃないですかぁ。

そんな時、ミニバーは必須なのですよ。

「ここは、ビジネスホテルなのですね」

「赤坂プリンスホテル」は、インチキビジネスマンだらけだし、「東京プリンスホテル」は、結婚式で酔っ払った田舎の(おそらく)親族のたまり場だし・・・・とにかく、まともなサービスを提供できないNo1ホテルですよ。

「これが西武王国のサービスなのか」と、毎度毎度、僕は関心(笑)していたものです。

堤王国が消滅したのは、「有価証券報告書虚偽記載」が本質的な原因ではないのです。

僕のDVD(右フレームのリンクにあります)でも発言していることですが、

「多くは、失敗から遡ること直近のイベントをもって、失敗の原因としたがるが、失敗の本質はスタートアップに潜んでいる」

彼が、創業者から、その支配を受け継いだスタートアップに堤王国の崩壊の原因が仕込まれていたと言うわけです。

「有価証券報告書虚偽記載」は、ただのトリガーに過ぎず、その本質は、彼の独裁にあったと言うわけですね。

同グループに金があるうちは、政治献金も含め、西武グループの「利用価値」があったのでしょう。ですから、取り締まるべき当局も、見てみぬ振りをしていたのではないか・・・

数十年間の虚偽記載の事実は、西武グループの問題もさることながら、それを取り締まれなかった当局の「ご都合」にも、焦点を当てる必要があると思うのです。

「同グループに金が無くなった=同グループの利用価値が無くなった」のを期に今回の事態に発展した。と僕は理解します。

何か特殊なポジションの上に成り立つ便益は、その引き換えにあたるポジション維持のための総費用が総便益を上回ることによって、純便益は少なくとも長期ではマイナスになるのです。

それが今回、明らかになったに過ぎません。

ちょうど、企業が、会計上は増収増益でも、
ROIC -WACC = SPREADがマイナス(=資本コストが過大)であることによって、企業価値が破壊され、時価総額が低下するケースのように西武グループのケースも会計上では見えにくいわけですが・・・

2005年3月4日 板倉雄一郎

PS:
これまたメディアの報道の仕方に対するアドバイスですが・・・
有価証券報告書虚偽記載そのものも確かに大きな問題ですが、
それ以上に、
「どうして、そのような問題が起こったのか?」
「なぜ、それを当局は、数十年間放っておいたのか?」
という点にこそ焦点を当てて欲しいものです。





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