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KISS 第17号「騒動総括の再掲載」

朝からTVでは、「ライブドア」、「フジテレビ」、「ニッポン放送」のキーワードが飛び交っております。
この件については、昨日、一旦、中締めしたのですが、やはり民放TV局(TV東京を除く)は、しつこく、サッカーの「オフサイドルール」の説明ばかりです(笑)。
オフサイドラインを引き上げたのがまずいとか、どっちの選手がイエローカードだとかね。
ホントにアホですね。
注目すべきは、「手段」であるところの買収の成否ではなく、目的であるはず(?)のその後の経営の成否なのです。
最初から、その目的は、堀江君の中には、無かったように思います。
メディアの方々も、堀江君も、「価値」と「価格」の区別が出来ないのです。
しつこいですが、株式投資で成功するためには、
「支払った株価以上の、価値を手に入れる」に尽きます。
「どっちの見方?」なんて馬鹿馬鹿しい質問に答えているような「企業価値評価」の出来ない人にとって、株式投資は、単なる博打なのです。
理論的な企業価値評価と、経営者の能力を見る目のどちらが欠けても、投資で長期に稼ぐことは出来ません。

賢明な投資家は、賢明な経営者と事業に投資しましょう。
それを見つける方法は、
当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」セミナーで学んでください。
そういえば、すでに100名程度になる、セミナー卒業生間のメーリングでは、
「ライブドア」なんてキーワードは、全然出てきません。
皆さん、全うです。
と言うことで、以下は、昨日のエッセイの内容そのままです。
しばらく、これをさらしておこうと思います。

2005年2月27日エッセイ・・・・

さて、ライブドアは、この先、今見えるシナリオのどれに転がっても、失敗です。
なぜなら、そもそも支配と経営を目的にした企業買収が成功するには、被買収企業の従業員など被買収企業の利害関係者の賛同が必要になるからです。
この点、フジサンケイグループ企業の人間が、
「筆頭株主の堀江様が、こんな番組を欲しがっているのですから、作りなさい」なんて言われて、
「はい、首領様!」なぁ?んて、おいそれと従うわけ無いじゃないですか(笑)
メディアとは言うけれど、つまるところ「コンテンツ制作配信」なわけですから、そこで働く「人」を取ってしまったら、ただの電波使用権とスタジオ設備しか残らないのです。
電波使用権やスタジオ設備には、価値がありますが、価値創造は行わないのです。
堀江君は、「金で人の心も買える」と豪語しているらしいですが、
それで買えるのは、「買った時間の間の娼婦」だけです。
彼女たちは、売った時間については、本物の恋人以上に振舞います。
しかし、時間が切れたら、「お客様」と「娼婦」に戻るんです。
百歩譲って、人の労働力なら金で買えるとしましょうか・・・
この場合、堀江君の理論に基づき、堀江君の思い通りに、買収後の企業を経営するためには、
「従業員の給与を2倍とかにしなければならない」ってことです。
株式を手に入れるために大枚はたいたとしても、従業員の報酬には変化ないですからね。
ちなみに、従業員の給与を増やせば、企業価値は減少します。

法律や司法の問題ではないのです。
実体経済価値とは、あらゆる要素が組み合わさって生まれるものなのです。
適法だから、とか、判決がどうだからだとか、そういうことじゃないのです、経営ってのは。
アメリカ式だとか、日本式だとか、そういうことでもないのです。
アメリカだって、航空会社の買収の場合、買収そのものは成功しても、その後の経営は、その労働組合の反発で成功しない事例が多いのです。
彼ら欧米の企業人は、その辺、よーくわかっていて、買収後の実現性の高い戦略まで、しっかり具体的に練ってから、その「手段」として買収を開始するわけです。
その点、堀江君は、メディアも、ジャーナリズムも知らないと思うのです。

もしライブドアの買収が成功したら、フジサンケイグループ企業の優秀な人間だけ集めて、あたらしいメディアを始めてしまえばよいのです。
しばらくは、過去の遺産(著作権など)から生まれる恩恵を受けられない企業となりますが、そもそも、ネットの出現によって、メディアの構造が大きく変化する時期ですから、過去の遺産なんて、長期で見れば、大したモノじゃないわけです。
(ちなみに、民放TV局の番組著作権は、スポンサーなどの絡みが複雑極まりなく、直ちにネットで公開して換金するなんてことは、出来ないんです。)

それから「企業価値」だの「株主便益」だのが騒がれていますが・・・
そもそも、現時点での彼らの企業の株主って、どんな人?
少なくともバリュー投資家じゃないでしょ。
おそらく、両社の場合の一般株主のほとんどは、すでに個人「投機家」の集まりではないでしょうか。
彼らは、企業価値創造なんてどうでもよくて(そもそも、企業価値評価の方法なんて知らないわけですからね)、今日買って、明日売って、儲けられるかどうかだけしか考えてないわけです。
呆れた経営者には、呆れた投機家ばかりが集まるのですよ。
それだけで、(WACC上昇によって)企業価値は破壊されるのです。

もう一つのストーリーを書きましょうか・・・
ライブドアが、ちょうど良い頃に、手打ちをし、フジテレビのTOBに応じる。
実は、これがライブドアにとってベストなのですけど、それでも堀江を含めたライブドア株主の損失は大きいのです。
ニッポン放送の株式取引によるキャピタルゲインが「もし」出たところで、その代償として、多くの新株を発行するハメになったわけですからね。
つまりダイリューション(希薄化)を免れないということです。
何度も書いていることですが、経営や投資の成否を握るのは、
その資金の「運用側」ではなく、資金の「調達側」なのです。
(詳しくは、SMU第177号をご参照ください。)

それでは、各方面に対しての感想をまとめて、終わりにしましょう・・・

「堀江君」・・・
まず、あなたが金で買っている、ライブドアの取締役を替えましょうね。
あなたの助けには、なっていません。
(詳しくは、KISS第9号「不公平とは」をご参照ください。)
そして、ここは、一旦、手打ちをして引きましょう。
そうでなければ、泥沼です。
買収そのものが成功しても、ながぁ?い失敗の始まりになります。
もういいじゃないですか、十分日本経済のインチキさへの刺激になったのですからね。
その点は、高く評価します。
が、MSCB発行前の株主が、まだ残っていたとすれば、彼らに対する償いは相当大変です。

堀江君の言うところのネットとテレビの融合についてですが・・・
なんだか言っていることは、単にTVの通販化でしょ(笑)
それが、そんなに価値を生むなら、買収後の経営者を、
「ジャパネット高田社長」にしましょうね(笑)
あなたがやるより、ずっとうまく行きます。
そもそも、そんなもん「地上波デジタル」で、解決でしょ。
リーマンの話を避けようとするあたり・・・
そそのかされた自分に、気がつき始めているんじゃないかな。

うちの親父がいい事言ってましたよ。
「堀江は、お前のあの頃に、そっくりだ」ってね。

「フジサンケイグループ経営者」・・・・
あなたたちに限らず、お爺さん経営者は、マヌケです。
それでも経営が成り立ってきたのは、経営力ではなく、従業員と関連企業のコンテンツ製作能力なのです。
ただ、そのコンテンツ制作能力は、経営経済分野の番組には、通用しないようですが・・・

「民放TV局を中心としたメディア」・・・
「VS」という構図からは、大切なことが見えないのだから、もうちっとまともな番組の作り方をしましょうよ。製作能力の基本的なところは認めるけれど、経営や経済の話しになると、いきなりトンチンカンになってしまうんですよ。
いくらコメンテーターを連れてきても、
いくら経営者を連れてきても、ぶつける質問があれでは・・・・
彼らの番組のほとんどは、サッカーに例えれば・・・
「オフサイドルールの説明」ばかりです。
貴重な電波を使って、新株予約権だの、ダイリューションだのの説明ばっかりです。
もっと、本質的な議論をしないといけません。
特に田原総一郎は、まずいね。
経営経済は、彼にとって明らかに不得意分野なのだから、無理して司会しなくてもいいのに。

「リーマン&村上ファンド」・・・
さすがです(笑)
はなからデキレースですからね。
それも、最も面倒な買収行為そのものは、堀江君にやらせるわけだから、賢い。
でも、ケーキは、何度も配られるんだよ。
(KISS第12号をご参照ください。)
今回、大きなケーキ片を得たとしても、「もし」日本に賢明な投資家が増えれば、次からは、大きなケーキ片はいただけないと思います。
みぃ?んな、今回で「誰が一番得したか」は、しっかり理解した(?)はずですから。

村上ファンドにとってみれば、「ニッポン放送株」を買ったはいいが、どうやってキャピタルゲインを出すかという点で、悩んでいたのではないでしょうか?
そして、その答えを、同じビルにオフィスを構える若者を、そそのかすことに見出したように見えてなりません。
そして、百人力のキーワード「株主価値」を持ち出せば、一見「全うな投資家」に見えますからね。
でも、さすがです(笑)
勉強になりました。

「民主党」・・・
いよいよ民主党も、昔の社会党のように、
「とにかく、自民に反対意見を言えばよい」的になってきてしまいました。
手遅れになる前に、岡田代表を降ろさないとまずいですね。

「自民党」・・・
??????

「そして僕」・・・
「社長失格」のくせに、生意気ばっかり言って・・・
でも、「社長失格」だからこそ、彼らの愚かさ(昔の自分の愚かさ)が、良くわかるんですよ。

板倉雄一郎 2005年2月27日(休日バージョン)

PS:西武グループの問題の方が、はるかに重大な問題なのですよ。
彼らのやっていることは、商法だか、証券取引法だか知りませんが、
要するに「会社ぐるみの詐欺」以外の何者でもないのです。
西武グループの問題は、1985年あたりから、日経によって暴かれていたのにも関わらず、彼らの経営者も、取り締まるべき当局も、放置していたんですからね。
まあ、金があるうちは、当局も見てみぬ振りをしていたのでしょう。
でもって、彼らの金がなくなってきたのを機会に、動き出したのでしょう。
世の中、そんなものです。
そんなもんですが、そんなもんでは困るので、これをライブドア以上に取り上げて欲しいものです。
メディアよ、しっかりしてくれ!





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