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KISS 第120号「スクリーニングのための指標(1)」

「上場株式投資は、その取引において投資家のキャッシュが、企業へのキャッシュ流入にならないから、投資ではないのではないか?」
という意見を頂きました。
確かに、今日僕が上場株式を買ったとしても、そのキャッシュは、企業に入るのではなく、さっきまでその株式を保有していた者の手元に入るわけです。
しかし、これは明らかに投資です。

たとえば、工作機械を例に考えて見ましょう。
何かを工作機械によって加工する事業を営んでいる会社、およびその工作機械を販売する会社、そして製造する会社があったとします。
加工会社が、工作機械を購入し稼動させることを「投資」と表現することに違和感のある人はおそらく居ないでしょう。
しかしこの場合でも、加工会社が投資する対象は工作機械なのに、加工会社の投資キャッシュフローは、工作機械の製造会社に(少なくとも)直接流入するわけではなく、工作機械の販売会社に入るわけですよね。
加工会社が工作機械を購入する以前に、販売会社が製造会社から工作機械を購入し在庫し、その在庫が加工会社に売られるわけです。
この取引は、工作機械の「所有権」が製造会社から販売会社に、そして販売会社から加工会社に移転したということであり、その対価として価格が支払われることになります。
以上から、加工会社は、工作機械の開発や製造過程に、少なくとも直接資金を提供しているわけではないわけですが、以上の過程は、明らかに加工会社による設備投資となるわけです。
加工会社は、工作機械の開発、製造に直接関わっているわけではありませんが、製造会社は、加工会社の需要があるであろうと目論みが立つからこそ、製造会社は製造のリスクを取ることができるわけですから、加工会社の存在は、製造会社に影響を与えているといえます。

以上の取引過程は、それが原油であれ、食料であれ、部品であれ、原材料であれ、そして「企業」であれ、基本的には同じことです。
当該企業のスタートアップ段階に投資するエンジェル(=この場合、企業に対する資金流入を伴う)も、その投資によって得られた議決権を、その企業の価値がいずれ高まり、自分が投資したときより高い価格で買ってくれる人が現れると目論むか(=キャピタルゲイン)、または、その企業から配当などによって直接便益を得られると目論むからこそ、資金を提供できるわけです。
つまり、上場後に投資しようという人の存在は、当該企業のスタートアップ時に直接資金を提供しようとする者の投資判断にも影響を与えているということになります。

くどくど書きましたが、以上から、上場株式投資であっても、明らかに投資であるというわけです。
議決権が証券化されていることから、工作機械のように「認識しやすいカタチのあるモノ」ではなく、投資のイメージがリンクしないのでしょう。

以上を元に、「投資対象のスクリーニングのための指標のご紹介」に入るわけですが、時間がなくなったので、明日に先送りします。
ごめんなさい。

2005年9月13日 板倉雄一郎





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