板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  Keep it simple,stupid  > KISS 第105号「PER」

KISS 第105号「PER」

PER(=Price Earning Ratio)が投資判断において使い物にならないとは、何度か書いてきたことです。
今回は、その理由をまとめてみますね。

その前に、PERとは、株価を、一株当たり利益(=EPS)で割った指標です。
PER=Price/EPS

理由その1:単独期の指標であるから

これは、PERに限らず、単独期指標はそもそも投資判断において使い物になりません。
なぜなら、そもそも投資家から観た企業価値とは、当該企業の永続性を前提に、当該企業が将来生み出すであろう投資家に帰属するキャッシュフローを、当該企業の資本コストによって現在価値に割り引いた総和ですから、単独期の利益をベースにしたPERは、当たり前ですが投資判断において参考になりません。
たとえば、企業の成長期に、単独期の利益が翌期に5倍になることなど、割とよくあります。
この場合、仮にPERが50倍であったとしても、翌期の利益が5倍になり、その間に株価に変動が無ければ、PERは10倍に収まったりすることがあるからです。
PER50倍は、投資判断においてリスキーではありますが、当該企業の状態をよく調べ、その結果が翌期の利益が5倍になることが想定されれば、PERだけ見る限りリスキーではなくなります。
また、PERは、当該企業の本業の儲けパワーに直接関係の無い「特別損益」の影響を強く受けることも付け加えておきます。

参考エッセイ:KISS第82号「財務指標」

理由その2:有利子負債による資本レバレッジが見えないから

たとえば・・・
ある企業の投資家から観た企業価値が1000億円、
(有利子負債が無い場合の)営業利益が100億円だったとします。
また、特別損益は無いことにします。

(↑ただし、話を簡素にするために、市場が完全効率で、MM理論をベースに、資本レバレッジの如何に関わらず、税効果を無視した場合にWACCが一定とします。)

この企業の有利子負債がゼロの場合、株主価値は、企業価値とイコールになり、1000億円となり、税率を42%とすると、税引き後利益は58億円となります。
市場が完全に効率的であれば、時価総額は1000億円となり、PERは、およそ17倍(=時価総額/税引き後当期利益)になります。
一方、この企業の純有利子負債が500億円あった場合、株主価値は、企業価値?純有利子負債となり、500億円ということになります。
(正確には、有利子負債の支払利息による税効果をWACCに反映させなければならないので、企業価値は、1000億円より若干高くなりますが、今回は無視します。)
有利子負債コスト(=金利)を2%とすれば、支払い利息は10億円、税率を42%とすれば、税引き後当期利益はおよそ52億円=(営業利益?支払利息)*(1-税率)。
市場が完全に効率的であれば、時価総額は500億円となり、PERは、およそ9.6倍(=500億/52億円)となります。
有利子負債による資本レバレッジを効かせた後者の方が、資本レバレッジを効かせていない前者の場合より、PERは低くなりましたよね。
一般的に、PERが高いほど、投資リスクが高いと判断される傾向がありますが、この例の場合、明らかに後者の方が資本レバレッジを利かせている分だけ、投資リスクは高いわけです。
なのに、PERは、小さくなってしまうというわけです。
(よくわからない方は、KISS第35号「LBO」を読んでみてくださいね。)

すっきり、理論的ですよね。

でも、これじゃ、あまりにもPERと、それを信じて投資活動をしている人がかわいそうなので(笑)、敢えてPERの利点を書きましょう。
それは、PERを信じて、投資活動をする「なんちゃって投資家」などによって、少なくとも短期では株価が変動する傾向がある・・・よって、「全くあてにならない」ということではない。
で、いかがでしょうか?(笑)

つまり、投資活動におけるリスクやリターンを、そんな簡単に「一つの数値」にまとめることは出来ないってことです。
これは、「β(ベータ)」についても、同じことが言えます。
投資活動におけるリスクは、当該企業の有価証券報告書を何期にも渡って読み解き、当該企業を取り巻く環境をつぶさに観察する以外に無いのです。
経済専門誌においても、以上の矛盾を考慮せず、PERという文字が躍っています。
PERに騙されないように。

「僕は、短期トレードがメインだから、そんな暇は無い!」って?
だったら、短期トレードなんか、止めちまえばいいじゃないですか。
超短期トレードをしているあなたの資金は、365日*24時間の内、一体何パーセントぐらい、企業に投下されているのですか?
あなたの資金は、ほとんどの時間、証券会社の口座にあるわけでしょ?
そんなんで儲けようなんて・・・

それとも、PERをアンレバする計算式でも作りますか???
式自体は簡単に作れますけれど、単独期の指標には変わりありませんのであしからず。

2005年7月25日 板倉雄一郎

PS:
突然、テクニカルなエッセイを書いてしまいました。
こういうときは、基本的に、ネタ切れ(=書きたいことを既に過去のエッセイで書いてしまったことも含む)だと御考えください(苦笑)





エッセイカテゴリ

Keep it simple,stupidインデックス