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KISS 第71号「ファンドマネージャの憂鬱」

最近、ちょいと有名な投資信託を運営する企業の代表者と親しくなりました。
そのファンドのパフォーマンスは、この6年でおよそ6倍。
IRR(=内部収益率)をざっと計算すると、およそ35%前後。
運用額はけして多くはありませんが、悪くないパフォーマンスです。

その方の投資手法は、ボラティリティー(=価格変動)を読み取るためのある一定の法則によって、基本的には短期売買を実施しているらしいです。(すいません、詳しく聞いていません。)
トレンド転換点を見つけることにかけて、その方を知る人から、絶賛されているようです。

僕は、その方と週に一度程度、投資活動とはまったく別の、共通の「趣味(?)」の実践のために、お会いしているのですが、これまで投資や投機に関して、具体的に話し込んだことはありません。
「きっと、僕とは、大きく投資スタンスが違うだろうから、バリュー投資哲学を言い出した結果、折り合いのつかない議論に発展してしまうのではないか?」そんなリスクを僕は感じていたのでしょう。

それでも、僕がいつまでもそんな疑念を持ったまま人と付き合うことなど出来るはずもありません。僕は、恐る恐る、投資手法とその影響について、その概念を話し始めました。
僕が話した内容とは・・・結果的に・・・
KISS第31号「お金とは」
KISS第33号「お金の仕組みを教える理由」
KISS第2号「市場流動性」
SMU第178号「オンライン証券会社の増収は、株価の下げ圧力」
などの要約のようなことです。

その方の反応は、僕の予想とは全く別物でした。
以上のコンテンツのどれについても、その方は、僕がすべてを話し終わる前に、僕が主張したいことを先回りして、僕と同様の考えを持っていることを示してくれました。
正直、本質を見抜くことの出来る天才だと思いました。
(ちなみに、その方は、僕のブログを一切観ていません・・・と言っています。)

投資哲学や、資本主義の構造に関する理解についての合意が得られた段階で、最も聞きたかった質問をしようとしました。
その質問とは、「では、なぜ、短期売買によるゲインを求めるのか?」というものです。
その質問をしようとした瞬間、その方は、言い出しました。

「私のしたいことと、今の仕事には、矛盾がある・・・ファンドは終わりにしたい」

事実、その方は近い将来、ファンドを解散する予定だそうです。

上記の方の例ではなく、一般論として・・・
世の中を変えたい。
だから、まずは、適法の範囲であれば、何でもありで金を稼ぐ。
十分稼いだら、その金を「社会に対する投票権」として、社会に貢献する。
そんな考えを否定するつもりはありません。
ありませんが、根本的に間違っています。(←あら否定しているし)
社会を変えるための手段は、今この瞬間から実施できるからです。
多くの経済活動を営む人が、それぞれの経済的資源の範囲で、そのお金を「社会に対する投票権」と意識しながら経済活動を行えば、今日からでも、社会貢献を実施できます。
「金が出来たら、そうする」という発想は、無能な営業マンの「資料が無いから売れない」というイイワケに非常に良く似ています。
有能な営業マンは、たとえ半年先にならなければ完成しない商品でさえも、今日「ハンコ」をもらうことが出来ます。
それを積み上げていけば、何も「稼ぐ時期」と稼いだものを「行使する時期」を時系列で分ける必要など全くありません。

そもそも・・・
稼ぐ過程で、価値提供になっていなければ、まともな経済システムではないわけです。
価値提供に対して、十分な経済的恩恵を得られなければ、誰も価値提供などに感心を持たないでしょう。
ボラティリティーに対する投機という行為が、最も経済的に潤うのであれば、一体誰が価値提供など考えるでしょうか?
そのボラティリティーの根源である企業価値でさえ、根本的には、その企業で働く人が居て、初めて発生しているのです。

その方の発言・・・
「メーカーでまともに商品開発している人と、金融界の人のサラリーの違いは、結果として、メーカーのサラリーマンが、搾収されていることに等しい」とは、僕がKISS第33号で書いたことと全く同じです。

これで安心して、その方との「趣味」を継続できると言うわけです。
きっと、その方は、ファンド運営という手段でなくても、相当稼ぐことが出来るでしょう。
なぜなら、社会に対して提供できる価値を、相当に持っていますし、また、その価値を継続的に創造する能力も同時に備えているからです。

その方と僕の最も共通した考えは、
「とにかく、社会に対し、何らかの価値提供をし続けていれば、金は自然と入ってくる」ということ、そして、
「金は、使って初めて生きる」でした。

僕は、この方と一緒に、近い将来、何かを始めることになるでしょう。

2005年5月18日 板倉雄一郎

PS:
「エロ小説」に関して、今度は、「やめるなぁ?!」という読者からの声をたくさん頂いています。
で、今度は、読者からの「期待値」が非常に高いことを知り、正直ビビッて居ます(笑)
こまったなぁ?、考えさせてください。
(たくさん頂いた読者からの声に対するお答えは、これに代えさせていただきます。ありがとうございます。)





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