板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 第25号「日本企業の価値」

まずは、お知らせです。
昨日より、セミナー申込などのフォームにて、SSLによる暗号化通信に対応いたしました。
以上。

それにしても、僕は、
「ああでもない。こうでもない。そうでもない」って、
ホント、うるさいですよね(笑)
なんでだろぅ? って考えてみたんですが、僕がうるさい理由は、
僕の主張をきっかけに、皆さんに「経済について考えて欲しい」からなのです。
経済、経営そしてお金について、今の日本人は、本当に無頓着です。
「お金に関する教養」が低いというのは、国力の大きな損失です。
国力が衰えれば、その国に暮らす者の豊かさが奪われます。
なぁ~んて、ちょっと、いい子ぶってるかなぁ?(笑)
でも、ホントだよ。

話し変わります・・・

そろそろ当事務所のパートナーより、次回合宿セミナーで使用する個別企業のバリュエーション結果が、メールで届き始めています。
(その分析の苦労が、膨大なエクセルシート上に、数値として表現されています。数値は、その影の多くの努力を雄弁に語ります。)
今回の、講義用の分析対象企業、およびワークショップ用の分析対象企業は、大変面白いです。
片方の企業は、世界的にも有名な大企業で、もう片方は、ほとんど誰も知らない企業なのですが、どちらも、「すごい結果!」なんですよ(笑)
どのように、すごいかは、次回セミナーの受講生にバイアスを与えてしまうので、この場では書きません。
ですが、とにかく、すごい結果なんですよー。
受講申込いただいた方々は、楽しみにしていてくださいね!
(っていうか、すごい結果になるであろう企業を、選んでいるわけですけどね。)

それでは、本題「日本企業」です。

このところマスメディアで報道されているように、日本企業の時価企業価値(=時価総額+有利子負債の時価価値)は、欧米企業に比べ、非常に小さいわけです。
時価総額が小さいと、それの大きな欧米企業により、簡単に買収されちゃうんです。
彼らにしてみれば、現金を用意する必要の無い「株式交換」によって。

時価企業価値が小さい理由は、主に日本企業の収益力の低さにあります。
もっと具体的に書けば、一株辺りのキャッシュフローが少ないということです。
よって、日本企業の、その稼ぎに対しての時価企業価値は、欧米から比べて、不当に小さいわけではないのです。(そういう個別企業もありますけどね)
つまり、理論企業価値(=DCF法による企業価値)に比べ、時価企業価値が大幅に小さいというわけではないのです。
「ならば、不当に安く放置されているというわけではないのだから、
(株式交換による買収を仕掛けられても)仕方ないではないか」
となりそうですが、そうでもないのです。

何度も書いていることですが、理論的な企業価値とは、具体的に・・・
「当該企業が生み出すであろう将来キャッシュフローの割引現在価値の総和」です。
よって、日本企業の生み出すであろうキャッシュフローが、その資金回転率の低さから、小さく見積もられ、結果として時価企業価値は、小さく評価されているわけです。
この原因は、言うまでも無く、企業価値創造メカニズムを知らない経営者、そして単なる短期投機家に過ぎない「なんちゃって個人投資家」にあります。
(詳しくは、SMU第178号「オンライン証券会社の増収は、株価の下げ圧力」にて)

日本企業は、会計上には現れないが、(経営者が賢ければ)将来キャッシュフローにすぐさま変換できそうな「資産」を、たくさん保有しているのです。
たとえば、技術を背景にした特許などの知的所有権。
(会計上は、その特許出願費用程度しか資産計上されません。)
たとえば、町工場の職人技。
(会計上は、当たり前ですが、資産計上されません。)
たとえば、有効利用されていない土地。
(収益還元法をベースにした地価算定の場合、未開発の土地の簿価は小さいわけです。)
しかし、これらに、投資家の企業を見抜く洞察力や、その資産を効率よく運用できる経営者が伴えさえすれば、明らかに将来キャッシュフローの増大に結びつくわけです。
結果、理論企業価値は増大し、時価企業価値は、(長期では)理論企業価値に近づきます。
つまり、現時点での経営者の能力では、これらの資産を効率よく現金に変換できないというだけで、実は経営次第で「金のなる木」に変貌する資産がたくさんあるというわけです。
(ウォーレンバフェット氏が、ウォルトディズニー社に投資した理由として、簿価に現れない資産=著作権に目をつけたことは、有名です。
PER(株価収益率=株価/一株当たり利益(EPS)=会計上の利益と株価の関係)や、
PBR(株価純資産倍率)に踊らされているのでは、投資とは言えませんからね。)

だから、現時点の経営者の能力では、現時点での時価企業価値に見合う程度の低い収益性しか実現できない日本企業を、欧米の企業は、「欲しがる」のです。
彼らには、資産を効率よく運用し、現金に変える術があるからです。

「日本の経営者よ、企業家よ、目覚めよ!」ってことなのです。
マネーゲームに踊らされること無く、我々の本質的な資産価値を、我々の手で、経済価値に変換できなければ、すべては彼らのものになり、我々は、安い賃金で雇われる労働者の集団になってしまいます。
そうなってしまえば、いつまでも、年金の心配をする愚かな国民のままです。
そうなってしまえば、いつまでも、豊かさを得ることができないのです。

経営者も、そうでない人も、フィナンシャルリテラシーの向上がまず大切なのです。
お金の仕組み、経済の仕組み、そして投資について、皆が学ばなければならない時期なのです。
多くの人が、経済や経営に興味を持ち、その仕組みを理解し、真の企業価値を見抜くことが出来るようになれば、日本企業が、安い値段で持っていかれてしまう可能性は低くなります。
中でも投資は非常に重要です。
なぜなら、投資資金の行方次第で、どの商品、どの企業、どの経営者、どの哲学を「伸ばすか」を決定できるからです。
「詰め将棋」の観戦で、喜んでいる場合ではないのです。

2005年3月9日 板倉雄一郎 

PS:
世の中で、最も経営力の無い集団って、わかりますか?
他でもない、銀行さんです(笑)
なぜなら、彼らが不良債権などで、今苦しんでいるのは、彼らが彼らの判断で融資を決め、彼らの内部の人間が経営にあたった、彼らの大口融資先がうまく行かなかったからです。
それも、極めて低い資本コスト(=ほとんど有利子負債のコスト=我々の預金金利=事実上ゼロ)でも、収益力が低いのですからね。
笑うしかないですよね。
今の銀行に、日本企業の真の価値を見抜く目は、期待できません。
彼らに企業の資金調達を依存していたら、日本企業は駄目になります。
ならば、投資家が、真の企業価値を見抜き、企業に資金を提供しようではありませんか!

PS2:
ところで、堀江君の札幌講演での発言が、メディアで取り上げられています。
「私の知り合いに、倒産経験を持つ人が居るが、今は、ニコニコ暮らしている。
 失敗を恐れる必要は無い。」
って、誰のことを指しているんでしょうかねぇ?
僕も、そのニコニコ暮らしている一人ではありますが、僕の場合、確かに失敗し、多くの方に損害を与えましたが、少なくとも会社のヴィジョンを、常に「具体的に」示していましたよ。
まあ、結果が失敗ですから、何を言っても無駄かもしれませんケレド・・・
堀江君は、今のうちに、フジサンケイグループと手打ちをして、ライブドアの組織体制と資本構造を立て直せば、僕のようにならないで済むのに・・・





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