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KISS 第122号「スクリーニングのための指標(3)」

スクリーニング指標に関するエッセイは、(2)でお終いのつもりでしたが、読者の方からいくつか質問を頂いたので、(3)ってことです。

=[営業CF+投資CF]/[時価総額+有利子負債?現金および現金同等物]

この指標の「取り扱い注意事項」についてです。

1、 異常値

いくつかの企業の場合、この計算式の分母が「マイナス」になる場合があります。
これは、すなわち・・・
「時価総額より現預金が多い(しかも有利子負債がゼロか、もしくは保有する現預金から有利子負債を差し引いても、現預金が有り余る)ということを示します。
実際に、いくつかの上場企業では、事業価値以前に、保有する現預金より時価総額が小さい場合があります。
もし、あなたが、このような企業の株式すべてを買収できる条件(=時価総額相当の現金の調達、および、現株主から時価によって株式を譲り受ける)を満すことができ、且つ、買収後に当該企業を「分解バラバラ」にすることができれば、間違いなく儲けることが出来ます。
(一種のいわゆる「資本のねじれ」です。
参考エッセイKISS第59号「資本のねじれ」)

たとえば、時価総額が100億円、現金および現金等同物が130億円の場合、上記の条件が整えば、100億円の投資に対して、あっという間に30億円の利益を得ることができます。
(投資家としての投下資本利益率30%)
つまり、割安ってことです。
また、上記の条件が満たされなくても、「たった一株であってもその一部」を得ることができれば、少なくとも理論的には、利益が得られます。
その場合、「いつごろまでに価値と価格の差が市場によって埋められるか」を考える必要があります。
また同時に、「時価総額<現金および現金同等物」の場合、もしかしたら「事業がマイナス評価されている」場合がありますので、やはり「事業価値」について考察する必要があります。

2、 単独期の指標

これは、注意書きにも書きましたが、単独期のFCF(=フリーキャッシュフロー=営業CF+投資CF)では、「その期だけの特殊な要因」によって、大きく指標が変化しますので、可能であれば、最低3期分の平均値などを分子に利用することをお勧めします。
ちなみに、FCFがマイナス(=分子がマイナス)で、かつ、分母がマイナスの場合、計算結果は、「プラス」になってしまいますので、このあたりも注意が必要です。

3、 成長段階の企業の場合

これも注意書きに書きましたが、成長期の企業の場合、営業CFを超える投資CFの場合があり、よって、FCFはマイナス(=分子がマイナス)になる可能性があります。
この場合、この指標はあまり役に立ちません。
このような成長期の企業の場合、しっかり10年分ぐらいの詳細分析を行って、DCFによる価値算定をした上で、時価総額と株主価値の比較が必要です。

以上、思いつく範囲で、
=[営業CF+投資CF]/[時価総額+有利子負債?現金および現金同等物]
の注意事項を書いてみました。

あくまで、スクリーニングのための指標とご理解ください。

2005年9月18日 板倉雄一郎

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