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KISS 第73号「あなたの財産は?」

「あなたの財産は?」と聞かれて、皆さんは何を思い浮かべますか?
株式の持ち高?
国債などの債券?
銀行預金?
純金や不動産?
子供?
人によって様々ですよね。
ただ、間違っても、住宅ローンで購入した住宅とは、答えないでくださいね(笑)。
その住宅のローン残高分は、あなたの財産ではなく、債権者(=銀行など)の財産ですからね。

僕の場合、1998年に一度経済的に「リセット」した割には、それなりに財産を持っています。
しかし、僕にとって、「持つこと」は、それ自体がストレスの原因になります。
なぜなら、減らさないように、失わないように、相当の神経を使う必要があるからです。
ところが、誰にも奪われず、失うことの無い財産があります。
それは、「知識と経験」です。

魔法使いに「三つのお願いを叶えてあげる」と言われれば、僕は間違いなく、
「お願いは、一つで十分です。僕を魔法使いにしてください。」と答えるとは、既に何度か書いたことです。
魔法使いを持ち出すと、非現実的な話に感じるかもしれませんが、僕の場合、この魔法使い理論をほぼ生活のすべての面で応用しています。

たとえば、投資先企業を探そうとするとき、PBR(Price Book-value Ratio=株価純資産倍率)が1.0倍以下の企業を探し出し、裁定による益だしを狙うようなことは、(絶対にしないわけではありませんが)ほとんどやりません。
このような投資活動は、「支払った株価以上の価値を手に入れる」という投資の王道としての必要条件を満たすことができますが十分条件ではありません。
もしその企業が価値創造を行わない(=長期で、投下資本利益率が資本コストを上回らないと予想される)場合、裁定に時間がかかればかかるほど、利回りは低下してしまうからです。
市場がつける「価格」とのにらめっこが常に必要というわけです。

一方、当該企業が価値創造を効率的に行う(=長期で、投下資本利益率が資本コストを「相当に」上回ると予想される)場合、仮にPBRが10倍であったとしても、投資します。

このケースの場合、
前者は、単に「財産を安く手に入れる」ということであり、
後者は、「財産を増やしてくれる企業の一部を所有する」と言うことになります。
僕は、後者が大好きです。
なぜなら、一度そのような企業を見つけてしまえば、適当な株価のタイミングを見計らって投資を実行し、後はほったらかし(とは言い過ぎですが)でOKだからです。
空いた時間は、インカムを稼ぐための仕事(=社会に対する価値提供)に使うことが出来ます。

さて、この場合の「価値創造を行う企業の一部を所有する」ということが、魔法そのものではないことは、おわかりですよね。
この場合の魔法とは、すなわち、「価値創造を行うであろう企業を見抜く『能力』」のことを指すと言うわけです。

(ここは、余談です・・・
資産運用のように、経済合理性だけで判断できるものは、以上の例で示した通りですが、趣味や嗜好による判断が経済合理性を上回るような「投資対象」・・・たとえば、車、住宅、衣類、食べ物のような場合、判断は、途端に難しくなります。
このような投資対象の場合、生み出される価値とは、心の満足であるとかのように、必ずしも経済価値に直結しない場合もあるわけです。
このような場合、投資判断に困ると、「とにかくこれが欲しいのだ!」ってことで、えいやぁ?と買ってしまったりする場合が多いと思いますが、このような場合も、まずは経済的にどのような意味があるのか?を、考え(=計算し)、それが経済損失の場合、「経済的損失=自分の欲求を満たすコスト」と捉え、投資判断をすべきだと、僕は思います。
すべての判断は、経済合理性に従うべきと言っているのではありませんからね。
あくまで、その欲求を経済価値に置き換えた場合、どれほどなのかを知った上で投資判断をすべきだと言っているわけです。
以上、余談でした。)

たとえば、魔法使いにおねだりして、手元に100億のキャッシュを得られたとします。
それをすぐに消費に使うわけではないですよね。
すると、手元の100億が現時点で持っている価値(=現時点で引き換えることの出来る現物価値)を維持しなければならなくなります。
将来のインフレに対する対処だとか、どこにどれほどを置いておくかなど、様々な思考と行動が、「価値の維持」のためだけでも、相当に必要になります。
ところが、そのとき必要な金を、その都度稼げる『能力』を持つことができれば、そんな心配は要らないわけです。せいぜい、その能力が錆びる頃(=老後)のために、多少の貯蓄があれば十分です。

つまり、将来に対する(少なくとも経済的な)不安を打ち消すためには、「たくさんの財産」を持つことではなく、「稼げる能力」を持つことが合理的というわけです。

以上の考えの下では・・・・
「投資情報」を買うのではなく、「ビジネスモデルの分析能力」を持つこと、
「価格変動」に注目するのではなく、「価値変動」に注目すること、
「高価な自動車」を持つことより、車を100%楽しめる「運転技術」を持つこと、
「素敵な異性を独り占め」することより、「素敵な異性をゲットできる能力」を持つこと
(また、これは、非難の対象になりそうな・・・(笑))
つまり、持つべきものは、他の誰にも奪われる心配の無い「能力」ということです。

その昔「石油王」の優雅な生活をテーマにした米製のドラマを観ていた頃、
「僕の家の庭を掘ったら石油が出てこないかなぁ?」などと思っていたことがあります。
その気持ちは、今でも変わりません。
ただ、油田発掘が、能力開発に変わっただけのことです。

<日本経済新聞から>

企業の利益・・・

「利益」がどうとか、騒ぎすぎです。
大切なことは、
1、 その利益を得るために、どれほどの投下資本を必要としたのか?
2、 その企業が現時点で「一体何に投資しているか?」
ですよ。
足元の利益が、企業価値の源泉ではありません。
企業価値は、当該企業が「将来生み出すであろうキャッシュフロー」が担保しています。
つまり、企業が投資している対象の、予想されるROIC(投下資本利益率)が、現時点の当該企業のROICより大きいか小さいかを見るべきです。
そんなこと、全然書いていません(笑)

そう思っていたら、本日(2005年5月23日)の本紙朝刊トップで、
「設備投資2ケタ増続く・・・」という記事。
企業の将来キャッシュフローを予測する上で「資本的支出」は非常に重要です。
ですが、やはり、その結果として、どれほどのROICが予想されるのかについては、どこにも書いていません。
だから、投資家自身が、それぞれの企業の資本的支出の「結果」を予測するしかないわけです。
やはり、能力が求められるというわけです。

2005年5月23日 板倉雄一郎

PS:
今週は、後半に地方講演と合宿セミナー、さらにメディアの取材などが重なり、今から体調が気になります。
能力の入れ物は、「肉体」ですから、ちゃんとケアしないといけませんよね。
でも、ちょいと風邪気味です。トホホ。





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