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KISS 第125号「顧客を大切に」

全うな経営者であれば、自社の商品開発にあたって、顧客の要望を考慮しますよね。
顧客に満足を与えられる商品を提供できなければ、事業を続けることが出来ないですから。
しかし、自社の「議決権(および将来生み出すであろう投資家に帰属するキャッシュフロー)」を売る(=資本調達)時には、どうして商品を売るときほど、顧客(=株主)の要望を考慮できないのでしょうか?
僕はとっても不思議です。

商品と株式では、違うって?
いえいえ、同じですよ。
顧客は、商品を受け取る代わりに対価(=企業にとっては売上)を支払い、その後、商品によってもたらされる便益を評価します。
その結果、支払った価格以上の便益を得られれば、次の機会にも当該企業の商品を購入するでしょう。

株主は、当該企業の株主価値を受け取る代わりに株価(=企業にとっては資本)を支払い、その後、株主価値の増大によってもたらされる便益(=キャピタルゲインまたはインカムゲイン)を評価します。
その結果、支払った価格以上の便益を得られれば、同社の株式を保有し続けるでしょう。

えっ? 株式はホイホイ売り買いできるって?
いえいえ、商品だって、購入後、ホイホイ売り買いできますよ。

商品のリセール「プライス」(=中古相場ってところですか)は、商品マーケットが決めます。
もちろん、一時的なその商品の「ブーム」などによって、リセールプライスが高くなることもあれば、また逆もあります。
商品の場合の、リセール「バリュー」は、顧客それぞれによって違う場合が多いです。
そうでなければ、「ヤフーオークション」さえ成り立ちません。

株式のリセールプライス(=相場)は、資本マーケットが決めます。
もちろん、一時的なその株式の「ブーム」などによって、リセールプライスが高くなることもあれば、また逆もあります。
株式の場合の、リセール「バリュー」は、株主それぞれによって違う場合が多いです。
そうでなければ、市場の取引は成立しません。

どちらの場合も、「支払った価格以上の価値を手に入れる」ことは、とても大切なことです。
つまり自分にとっての価値算定が大切です。

ところで、昨日まで100円で売っていた商品と価値に違いの無い商品が、今日、突然半額で売られていたら、昨日買った顧客は、損した気分になりますよね。
それが、市場の需給によってのみ半額になるのなら、「自分が焦ったからだ」と、顧客も思えるかもしれません。
しかし、当該企業の都合によって「のみ」半額になったとしたら、どうですか?
「この会社の商品を買うのをもう少し待てば、きっと安くしてくるだろう」と言うことで、買い控えませんか?
もっと極端に言えば、「こんな会社の商品は、信用できない」と思ったりもしますよね。

株式の場合も、これと全く同じです。
昨日まで100円で取引されていた株式が、市場の需給によって「のみ」半額になるのなら、「自分のタイミングが悪かった」と株主も思えるかもしれません。
しかし、当該企業の都合によって「のみ」半額になったとしたら、どうですか?
「この会社の株価は、経営者のご都合によってもっと安くなるかもしれないから、やめとこ」ってなりませんか?

(もちろん、生鮮食品のように、「時間と共に価値が減少する」商品の場合には、急速な価値の減少と共に、価格が低下しても問題ありませんが、株式の場合には、そもそも株主価値の増大が株主の得られる商品価値ですから、当然ながら、時間と共に価値が減少したのでは、御話しになりません=投資する意味がありません。)

たとえば、MSCBなどの有利発行は、市場が決めるのではありません。
資本市場を自分の財布と勘違いした経営者のご都合で、ある日突然、それまでと「全く同じ価値」の株主価値を、「特定の人に対して割り引いて」販売するというわけです。
(おそらく、引き受け証券会社が、手数料獲得のために当該企業の経営者をそそのかすのでしょう)
こういう会社の株式が欲しいですか?
仮に、今日現在の株主価値と株価に裁定余地があったとしても、経営者のご都合によって、突然価格が変更されるかもしれないのです。
僕なら、裁定余地があったとしても買いません。

えっ? いずれ株価が上昇するなら問題ないって?
冗談でしょ・・・たとえば、MSCBの発行が発表される前日に買った株主と、MSCBを引き受けた(主に証券会社)事実上の株主と、あなただったらどっちになりたいですか?
もちろん、後者ですよね。
いずれ株価が上昇したとしても、後者の利回りの方が明らかに大きいわけです。
しかし、どちらも受け取った株主価値は、「全く同じ」なのです。

えっ? 商品でも、株式でも、それを「大量に買ってくれるなら、安くして当然だ」ですか?
「売れない商品なら、それもアリでしょう」
あくまで、「売れない商品」ならの場合ですがね。
株式が売れないと言うことは、その会社に価格ほどの価値が無いってことです。
経営者が、自分が経営する企業に、「市場がつけている価格ほどの価値が無い」と思うわけですから、イイカゲンにしろ!って思いますよね。
それとも、「そんな価格で昨日までに買った株主がアホ」と言うことですか?
それとも、「株価は、市場が勝手につけるのだから、知るもんか」ってことですか?
いずれにしても、そんな経営者の経営による企業の一部または全部を欲しいとは、少なくとも僕は思いません。

経営者は、顧客と同様、従業員にも、取引先にも、そして株主にも、同様に「価値創造に参加してくれる利害関係者の便益」を考慮してしかるべきです。
これこそが、ゴーイングコンサーンなのです。

消費者として、商品の(自分にとっての)価値を見抜くことは大切ですよね。
投資家として、株式の(自分にとっての)価値を見抜くことも、同様に(自分にとって)大切ではないでしょうか?
そして、経営者は、「投資家の立場」を、「消費者の立場」と同等程度に理解すべきです。
ファイナンスと価値創造に関する理解を求めない経営者が多すぎます。
(あれっ、そういう人って、「経営者」とは、呼べませんね(笑))

顧客も、株主も、しっかり「価値」を見極める目を持つべきです。
「鶏と卵」は、そのどちらも全うでなければ、全うな鶏も、全うな卵も、存在できないのです。

ウォーレンバフェット氏の投資家としての成功は、まさに以上の考えに基づいています。
彼にとって、投資先企業は、彼の資本を増大させてくれる大切な顧客であり、
彼にとって、彼の会社の株主は、彼に資本を供給してくれる大切な顧客なのです。
彼は、顧客を大切にします。
それが永続的な成功の秘訣です。

2005年9月27日 板倉雄一郎

PS:
おーい、10月分の合宿セミナーの募集をしていますから、申し込んでくださいね。
僕は、顧客を大切にしますよ。
支払っていただく価格以上の価値を提供するために、最大限の努力をしますよ。
そして、早期に顧客になっていただいた方々(=現在の卒業生)が、「もっと待ってから受講した方が良かった」なんて思うようなこと(=たとえば、ある日突然、合理的な理由無くセミナー価格を下げる)は、絶対にいたしません。
仮に、セミナーの需要が無ければ、セミナー自体を止めるだけです。
セミナーの需要がある限り、僕は続けます。
マジですよ。

ただし、時間経過と共に、多くの方にとってセミナーの(現時点での)コンテンツが「当たり前」の内容になった場合=セミナーの内容が陳腐化した場合=セミナーの価値が相対的に低下した場合には、価格の下方修正をする可能性があります。
その逆に、インフレが加速し、通貨価値が減少した場合には、セミナーの価値に変動が無くても、価格の上方修正をする場合もあります。

いや、別に、申込が無いわけではないのです。もっともっとたくさんの方に、価値評価の目を持っていただきたいだけなのです・・・いや、それだけじゃないな、僕自身も顧客に提供した価値相応の価格を頂きたいのです。(こういうことを、正直に表現せず、「あなたにとって価値があります」だけを表現する企業の商品はいただけないのですよ。)

合宿セミナーは、少なくとも僕にとって、楽しくってたまらないのです。
この楽しさを、多くの人とシェアしたいのです。





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