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KISS 第40号「シナジーの成功例」

***臨時アップデート***

テレビ朝日さんは、朝から「ホリエモン特需」をやっています(笑)
ですが、ご出演中の弁護士さんのコメントはいかがなものでしょうか?
「(ライブドアの)1000億円の返済」だとさ(笑)
もうとっくに、大部分は、株式に転換されていますし、そもそもゼロクーポン債を持ち続ける人など、居る分けないのですけどねぇ。
さらに、「この1000億円の調達方法が見えないからなんともいえない」と。
情けなくて、情けなくて・・・ライブドアは「曲がりなりにも」上場企業ですから、EDINETで有価証券臨時報告書を見れば、MSCBの条件は、すべて書いてあります。
さらに、ニュースリリースで、MSCBを引き受けた、リーマンブラザース証券が、どのくらいの株価で、どれほど株式に転換したのかも、わかります。

そして、焦点は、「返済」ではなく、「株主資本コスト」なのです。
ちょっと難しいですけど、コメンテーターは、ホントずっこけすぎです。

実は、僕にも責任があります。
と言うのも、この番組の出演依頼を「生じゃなくちゃダメ!」って、僕断っちゃったから・・・・

話し変わります・・・

しつこいようですが、SBIは、名前に「ソフトバンク」と付いていますが、ソフトバンクの連結子会社ではありませんからね。

堀江君に「退場してもらうために、ニッポン放送株との引き換えに、誰かがライブドアに支払った金」を、SBIのファンドへ出資してもらうと言うことになるのでは?
そうなれば、一件落着です。

ただ、堀江君が、いつまでもへそ曲げていると、この解決もできなくなります。
その場合の結果は・・・・考えたくも無いです。

でも、ネットとの融合と言う点においては、フジテレビより、ポニーキャニオンの方が、遥かに価値が高いんですけどねぇ・・・だって、過去のテレビ番組より、ポニーの持っている版権の方が、遥かに権利関係シンプルでしょ。

***以上、臨時アップデートでした***

僕が、「反シナジー論者」だと、勘違いされている方がいらっしゃるかもしれないので、今日は、シナジーの成功例を書いてみたいと思います。

企業買収(M&A)の成功例・・・シナジーの発生・・・コンドームと浣腸。

もうご存知の方も多いとは思いますが、つい最近・・・
「オカモト(コンドーム)が、イチジク製薬(浣腸)を買収」という事例があります。
どちらも、日本人なら、よく知っている「有名企業(?)」ですよね。

これ、完璧なM&A=シナジーの発生となるのです。

コンドーム、および、浣腸の「一般的」な利用目的は、わざわざ説明する必要は無いと思います。
いずれの商品も、それを購入するのは一般消費者ですから、
KISS第36号「夫婦物語」で、シナジーが発生する条件であるところの、
「買収後に、第三者からの収入が得られる場合」に属します。
よって、買収行為における費用が過大でなければ、
「1+1>2」となりえるわけです。

しかぁ?し!
この買収には、もっと「隠されたシナジー効果」があるのです。

それは、すなわち、「特殊な趣味の方々」の存在です。
ここでは、はっきり書きませんが(笑)、その特殊な趣味の方々にとって、
「コンドーム」と、「浣腸」は、どういうわけか(笑)、どちらも必要なのです。
つまり、特殊な趣味の方々にとっては・・・
自動車に、最初から、タイヤが付いている方が良かったり、
ボールペンとノートが、セットで安く売っていた方が良かったり、
プリンターとコピー用紙が一緒に売っていた方が良かったり、
するように、
「コンドーム」と「浣腸」が、その提供企業の合併によって、どちらも安く提供されることは、非常に都合が良いわけです。

そもそも、様々な「便秘対策薬」が市場に溢れているわけですから、この状況では、もはや「浣腸」の商品価値は、「特殊な趣味の方々の需要以外」は、どんどん低下しているわけです。
そんな中で、「オカモト」と、「イチジク製薬」の合併は、完璧なM&Aと言うわけです。

お分かりいただけましたか?

シナジー効果とは、
買収企業の価値=1、被買収企業の価値=1、とした場合、
買収後の企業価値>1+1+買収手数料
となった場合に、初めて実現するわけです。

しかし、現実には、そうならない場合が多いのです。
多くの買収は、経営者の自己実現のために行われることが多く、
「ライブドア=ニッポン放送」の失敗例を出すまでも無く、
米では既に、「AOL=Time Warner」の失敗例が示しているように、
多くの場合、「総費用<総便益」とはならないのです。

「ライブドア=ニッポン放送&フジテレビ」が失敗するであろう理論は、
KISS第36号「夫婦物語」をご参照ください。
また、シナジーそのものについては、
KISS第5号「シナジー効果」をご参照ください。

2005年3月29日 板倉雄一郎 (Japanese by Nature) 

PS:以下、好評を頂いておりますKISS第36号「夫婦物語」の再掲載です。

===夫婦物語===

保険の販売代理店として仕事をしている貴文君は、ある日恋に落ちました。
お相手は、女性としては珍しく「個人タクシーの運転手」をしている富士子さんです。
貴文君は、保険の営業で、もっともっと稼ごうと、がんばっていましたが、何せお客さんを訪問するための移動が大変だったのです。
そこで、貴文君は思いつきました。

「そっか、富士子さんは個人タクシーの運転手だ。
彼女と結婚すれば、タクシー乗り放題ってことだよな!
それに、富士子さんは、不動産も持っているって噂だし。
こりゃがんばるしかない!」

貴文君は、いろんな手を使って、富士子さんを口説きました。
自分で持っているお金が底を付けば、サラ金から高利の金を借りてまで、富士子さんを口説くことに使いました。おかげで貴文君は借金だらけです。
でも、貴文君は、こう思っていました。
「大丈夫、いくらお金借りたって、富士子さんと結婚できれば、
タクシーは乗り放題だし、富士子さんの不動産だって手に入る。」

貴文君の富士子さんを口説く様子は、近所で有名な事件となっていました。
貴文君のやり方は、夜討ち朝駆けなんてのは、当たり前でしたから、
富士子さんも警察に「ストーカー犯罪」で助けを求めたりもしました。
しかし、富士子さんの思いは、警察にわかってもらえなかったのです。
貴文君のやり方は、ストーカー犯罪と認められる範囲ではなかったからです。
そんなある日、貴文君は、半ば強引に「婚姻届」を提出してしまったのです。
さすがの富士子さんも、あきらめました。
そして、二人の結婚生活が始まったのです。

始めの頃は、富士子さんの個人タクシーによる収入が、毎月50万円。
貴文君の保険営業による収入が、毎月50万円。
家計は、100万円の収入がありました。
しかし、生活は決して楽ではありませんでした。
貴文君が、富士子さんを口説くために作ったサラ金からの借金の利払いと返済が、家計を苦しめていたのです。
それでも、貴文君は、結婚生活に自信満々でした。
貴文君が富士子さんと結婚した、そもそもの理由は、貴文君の営業活動のために、富士子さんの個人タクシーをただで利用するということでしたから、貴文君は富士子さんにただ乗りを迫ります。
妻になった富士子さんも仕方なく、貴文君の意向を受け入れ、いつも貴文君の営業のお手伝いとしてタクシーを運転する日々が始まりました。
貴文君の努力の甲斐もあって、貴文君の営業収入は、毎月50万円から75万円に、なんと50%も増えたのです。さらに移動のために使っていたタクシー代もなくなりましたから、これで問題解決!なぁ?んて思っていたのです。
ところが、一方で、富士子さんは、貴文君にただ乗りされてばかりでしたから、営業収入はゼロです。いや、一応、貴文君から、お手当てを頂いてはいましたが、家計内での取引ですから、家計には、何の役にも立ちません。
貴文君がただ乗りを始める前は、月に100万円あった家計の収入は、現在貴文君の75万円だけになってしまいました。
貴文君にこき使われ、富士子さんもボロボロです。
貴文君も目論見が外れ、借金の支払いに困り、ついに富士子さんが持っていた不動産までも、売りに出すハメになりました。
富士子さんは、貴文さんの下から、去っていきました。
そして、最後には、何も残りませんでした。
近所の人は、貴文君に聞きました。
「富士子さんが居なくなっちゃって、大丈夫?」
すると貴文君は、答えました。
「大丈夫です。想定内ですから。」

===以上物語でした===

以下は、フジテレビ(または、ニッポン放送)の、放送事業に直接関係のない不動産事業などを無視し、放送事業に関する部分だけについて、書きます。

<基礎編・・・民放テレビ局の本業の価値と収入>

民放テレビ局の収入は、(放送事業に限定すれば)「広告料売上」が、ほぼ100%です。
彼らは、視聴者が喜ぶ番組を製作&放映する代わりに、番組中にコマーシャルを流し、スポンサーからお金を頂いているというわけです。
これを、民放テレビ局のビジネスモデルと表現します。
つまり、「リーチ=告知力」を得るための、コスト(=番組制作&放映)を、スポンサーからの広告料で賄うというわけですね。
余った分が彼らの利益と言うわけです。

<ライブドアによるフジテレビの買収とは?>

めでたく、ライブドアのフジテレビ(または、ニッポン放送)の買収が成功したとしましょう。
このとき、当たり前ですが、フジテレビは、ライブドアの子会社となるわけです。
子会社になると言うことは、会計上「連結子会社」となるわけです。
つまり一つのグループ企業ということです。
すると、ライブドア=フジテレビ間の取引は、すべて「内部取引」となり、グループ「外」企業との取引ではなくなるため、企業グループとしての利益は、この取引に関しては、全く発生しなくなります。
新生ライブドアグループの株主の立場から見れば、わかりやすいですよね。
同じ株主による2つの企業間の取引それ自体は、全く何の利益も生み出しません。
しつこいようですが、企業内の「営業部門」と「広告宣伝部門」の取引は・・・もお、ええちゅうねん。

<シナジー効果>

以上でお分かりの通り、シナジーが生まれるためには、
買収企業と被買収企業が、それぞれ第三者からの売上に依存していて、かつ買収によって付加価値の高い商品を生み出すことができる場合、もしくは、
買収前から、被買収企業の売上の大部分を買収企業が担っている場合に限ります。
前者は、シナジーが生まれるかもしれませんし、後者はグループ全体としてのコスト削減になりえます。

企業の株主が、キャピタルゲイン(=株価上昇益)や、インカムゲイン(=配当)を得るのは、第三者(=グループ外企業)からの収益があって始めて達成されるわけです。
この点では、グループ内取引ばかりを行っている西武グループの方が、ホテルや鉄道など、第三者からの売上を持っているので、遥かにマシですよね。
ライブドアがフジテレビの告知力を利用すると言うことは、ライブドアが、フジテレビのコストのすべて、または一部をグループ内で負担するということです。
よって、告知力を得るためのコスト以上を、第三者から、得なければ、新生ライブドアグループの付加価値創造は、起こりえません。
ちなみに、フジテレビの告知力を利用すると言うことは、一般的に、番組のスポンサーになることで十分に達成できます。つまり、買収など必要ないと言うことです。
ジャパネット高田は賢いのです。
彼らは、必要な告知力を、必要なときに、必要な時間だけ、スポンサーになることによって、買うだけです。
余計な固定費を抱えなくて済んでいます。

つまり、
「フジテレビの収益力を求めた買収」なら、資本コストさえ安ければ、合理的ですが、
「フジテレビの告知力を求めた買収」は、結局、フジテレビの番組スポンサーになることと大差ないわけです。
よって、「告知力を求めた買収」は、ほとんど意味がありません。

その上、僕が散々言っている、現時点でのライブドアの高い資本コストが、グループ全体の負担(=ライブドアの株主の負担)になります。

(注意:
以上の話は、かなり大雑把な計算に基づいています。
フジテレビの広告枠が100%売り切れて居なければ、その部分をライブドアグループ企業で利用することも出来るなど、細かい部分での「ライブドアグループの得」は、無くはないです。
たとえば、「箱根彫刻の森美術館」の宣伝が、「ライブドアのポータルサイト」に変わると言うわけです(爆)
が、その程度で、ライブドアの資本コストは、まず賄えないでしょう。
フジテレビの番組の多くが、ライブドア関連ばかりになちゃったら、総務省に怒られるぞ(笑)

僕の足りない脳みそでは、どう考えても、ライブドアの成功はありえないのです。
やはり、堀江君は、僕の脳みそなど、遥かに超えた「天才!」なのでしょう(笑)
まさか、以上のようなことに気がついていないわけ無いですからね・・・
だって、東京大学でしょ。
僕、学歴的には、「高卒」ですからぁ?残念。

最後に、最も大切な考察を一つ・・・

ウォーレンバフェット氏の経営によるバークシャーハザウェイ社のポートフォリオ(投資先企業)は、ぱっと見ても、相互の取引など発生するはずも無い、全く関係のない分野の企業群です。
コカコーラ、P&G、ウォルトディズニー・・・・
バフェットのポートフォリオの作り方の基礎が、よーくわかりました。
ありがとう、堀江君。
あなたのおかげで、バフェットマジックのさらに一つが解明されました。

しかし、なんでまた、こんな簡単なことに、誰も気がつかないのでしょうか?
ぱっと見て、感覚的に、「なんかおかしい感じがする」という「勘」を信じて、僕は考えます。
右脳で感じ、左脳で表現する僕の手法です。
しっかし、以上の点に気がついたら、今メディアで騒がれていることって、ほとんど、何の意味もありませんよね(爆笑)
ホリエモン騒動なんかに、貴重なメディア枠を使うより、もっと大切な問題がたくさんあるだろうに・・・
メディアも、政治も、国民のリテラシーを超えられないということでしょうか。
それにしても、司法って、酷ですよね。
今回、ライブドアに軍配を上げたことで、堀江君の長がぁ?い、失敗が始まるんじゃないでしょうか?
それをとめてあげればよかったのに・・・でも、司法は司法、仕方ないですね。





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