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KISS 第60号「人生資源」

2005年4月23日(土曜日)は、とんでもない日でした。
オープンセミナーを翌日に控え、講義用の資料の確認やら、当事務所スタッフとの連絡メールの処理やら、やらなければならないことがたくさんあったと言うのに・・・
「僕は、ウィルスバスターのユーザなのでぇ?す!」
後は、ご想像にお任せします(笑)
(土日のこのWEBへのアクセスが異常に少なかったのは、もしかしたら、これが原因?)
パソコンオタクの友人と、また別の友人からの情報によって、解決にこぎつけ、結果、セミナーに影響はありませんでしたが、それにしても・・・・

「僕らが、暗黙のうちに信じていることって、本当なのか?」

今朝の、電車の事故も、「電車は安全」という思い込みが、如何に危ういことかを思い知らされました。
経済学的には、すべては、「確率」で考えなければならないということになります。
結局、「運」なのです。
しかし、「どうせ運なのだから、努力しても仕方がない」という考えは、根本的に間違っています。
なぜなら、細かい理屈ではなく、「努力しても仕方がない」と言うことなら、生きていることが、とんでもなく「つまらないこと」になってしまうからです。
僕は、人生を楽しみたいのです。

それでは、本題「人生資源」です。

「経営資源」といえば・・・人・モノ・金、といわれ、最近では、これらに加え、「情報」という資源が大切ということになります。
しかし、以上の資源より、遥かに重要な資源が存在します。
「時間」です。
経営における「時間」という資源は、損益計算書を持ち出すまでもなく、
「一定期間に生まれる利益」であるとか、
「開発にかける時間」であるとか、
「効率的なマーケティングのための、商品投入タイミング」であるとか、
それは、とても客観的に、ビジネスの資源として捉えることができます。
また、企業そのものの「時間」は、基本的に「永遠」を前提にして考えます。
たとえば、企業価値評価を行う際にも、当該企業の将来キャッシュフローの予測は、それを「永遠」と考えて価値計算を行います。
ただし、将来キャッシュフローの割引率(=当該企業の資本コスト)がある以上、どれほど永遠に将来キャッシュフローを予測しても、遠い将来になればなるほど割引率が増加し、いずれ将来キャッシュフローの現在価値は、ゼロに収束します。
話しそれますが、以上から「資本コスト」は、企業価値評価の上で、最も重要な因数なのです。

「人生資源」の中で、最も重要なのは、やはり「時間」です。
しかし、人生の場合の「時間」は、当たり前ですが、「永遠」ではありません。
事故や病気で死ぬことを想定しなくても、それには限りがあります。
それを、昨日、思い知らされました。

昨日の「オープンセミナー」の懇親会で、セミナーに参加いただいたある女性に、僕は捕まりました。
着物姿の美人の彼女は、どこかその表情に「影」を含んでいました。
僕は、講演会や懇親会などでは、通常、なるべく多くの方と接することが出来るように、手短な会話を心がけていますし、相手にもそれを求めています。(生意気ですいません。)
しかし、彼女の「10分話を聴いてください」という訴えは、僕をして、その態度を改めるのに十分でした。
彼女の訴えは、良くある「当社のビジネスモデルに意見を頂きたい」という類の、調子の良いご都合主義に基づくものではないな・・・そう思ったのです。
彼女の話し方から予測するに、「これは長い話しになりそうだ」という予感はしました。よって、他の方との一期一会を多少犠牲にする機会損失も覚悟して、僕は彼女の話を聞くことにしました。

彼女は、彼女自身と、彼女のご主人のことについて、ゆっくり話し始めました。
彼女のご主人は、15年ほど前から、いわゆるITビジネスを起業され、経営者として仕事をされていたそうです。
そのビジネスそのものについては、彼女も多くを語りませんでしたし、僕も多くを質問しませんでした。
しかし、彼女の話を聴く限り、彼女のご主人の会社は、彼女とご主人に多くの経済的資産を残すことが出来たようでした。
今から数年ほど前、彼女のご主人は、僕の著書「社長失格」を読まれたそうです。
彼女のご主人は、僕にその感想を、どうしても伝えたかったのだそうです。
ここまで話した彼女は、その瞳に、涙を浮かべ始めました。
その涙は、僕をして、ストーリーの先を予測するのに十分でした。
僕は、会場の騒がしさから、離脱し、彼女の話に吸い込まれていきました。

今から1年半ほど前、彼女のご主人は、「社長失格」の著者である僕に、あることをどうしても伝えたいと彼女に言い残し、病との格闘の末、他界されました。
彼女は、彼女のご主人が僕に伝えたかったことを、今は亡きご主人の代わりに、僕に伝えるためだけに、このセミナーにいらしていただいたのです。

自らの人生の時間に、はっきりと「カウントダウン」を告げられた病床の彼女のご主人が、僕に伝えたかったこととは・・・

「たとえビジネスで失敗しても、あなたには、まだ時間がある。」

僕の失敗は、もう8年も前のことになります。
いくら時間が経っても、その経験と、他人に与えた損害は、消えて無くなるわけではありません。
それでも僕は、「今やれることをやるしかない」という思いで、生きてきました。
この8年間、僕は、過去の失敗を自分なりに背負いながらも、挑戦を続けてきました。
そして今、彼女のご主人が彼女に託された言葉を聴いて、こう思いました。
「人生を続けていて良かった。
彼女のご主人の言葉を受け止めることが出来てよかった。」

今目の前にある、「やるべきこと」を、生のある限り、続ける。

「人の一生は重荷を背負いて遠き道を行くが如し,急ぐべからず.
不自由を常と思えば不足なし.」by徳川家康

僕は、なにか辛いことがあったとき、いつもこの言葉を思い出します。

2005年4月25日 板倉雄一郎 

PS:
5月開催の次回「実践・企業価値評価・合宿セミナー」へのお申込を、既に20名ほど頂いております。(どのほとんどが、昨日のセミナー受講者です。)
ご興味のある方は、お早めに・・・とは言っても、30名で締め切ります。





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