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KISS 第70号「所得配分」

「高額納税者」が発表になりました。
多くの方が、このリストの「金額、職業、人物」に興味を持つことでしょう。

ある人は、「どんなビジネスが儲かるのか?」と思考をめぐらせ、
ある人は、知人を発見し、電話やメールで「すごいじゃん!」と伝えつつ、嫉妬していたり、
ある人は、「こいつら節税が下手だな」と思い、
ある人は、「あいつが載っていないのはおかしい」と思い、
ある人は、「多くは、インチキビジネスばかりじゃないか」と思い、
ある人は、税を納めるという一つの社会貢献を賞賛したり・・・
人それぞれ、思うところがあるでしょう。

僕は、毎年このリストを見るにつけ、「金の回り方」に思いをめぐらせます。

「一体どのような価値を提供した見返りとして、金を頂いたのか?」
「その収益は、価値創造と同等なのか?
それとも、誰かの金が移動しただけなのか?」
もし価値提供を伴わない資金移動であれば、税金が全うに使われていない現状とあわせて考えれば、あまねく人の便益が損なわれることに他なりません。
資金が移動しただけで、納税しなければなりませんから。
(徳川幕府までの時代、「年貢」は常に、米の生産という価値提供を伴っていました。)

僕自身、思うところはたくさんあります。
しかし僕は、上場企業の経営に文句は付けますが、個人の収益に文句を付ける立場ではありません。
主張すべきは、「税制」であり、
大した価値を提供しているとは思えない人に、金を支払っている人が存在するということです。

西武グループの例を出すまでも無く、税制は、その国の経済活動(=つまり金の流れ)を方向付ける、非常に重要な制度です。
たとえば、原価償却年数の短いモノを設定すれば、節税効果を目当てにした高額所得者から、そのモノを提供する者に金が集まり、
たとえば、キャピタルゲインの税率を下げれば、貯蓄は投資に移動し、同時に短期のゲインを目的とする者が増え、さらにそれらの人から金を吸い上げようとするものが現れます。

「だれが稼いだのか?」に注目するより、
「現在の税制が、社会に対してどのような効果をもたらす税制なのか?」を考えるための良い機会ではないでしょうか。

現代の経済システムでは、価値提供に対する見返りとしての資金移動より、「どれほど他人を騙す術を持っているか」(=他人を魅了すると言うことも含め、必ずしも否定的な意味ばかりではありません)または、「どれほど、ルールの穴を見つける能力を持っているか」による資金移動の方が、圧倒的に大きいのです。

「金が儲かれば、それでよい。大切なのは使い方だ」という考えもあるでしょうし、
「使い方も稼ぎ方も、どちらも同時に大切だ」という考えもあるでしょうし、
「弱肉強食の資本主義社会の中で、んなこと関係ねぇ! ひたすら勝つだけだ!」という考えもあるでしょうし、
そもそも「金は、食えるだけあればよい」という考えもあるでしょう。
明らかなことは、これら様々な考えが作用し、市場を形成し、資金が移動しているということであり、つまり現実だということです。

最も重要なことは、
「自分自身が、市場を形成している一つの要素である」という意識を持つことです。
高収入者を、高収入者としている所以は、彼らに価格を支払う人が存在すると言うことを忘れてはなりません。その「支払う人」とは、他ならぬ一般消費者なのですから。

渋滞を作っているのは、自分自身です。

面白いことに、いわゆるバリュー投資家は、高額納税者リストには現れません。
利益確定しませんから、資産が増えても納税無しです。

僕の場合は、
自らが社会に対して価値提供した見返りであるところの所得を、
所得配分を政府に任せる行為である「納税」より、
自らの信じる商品に対する消費や、
自らが育って欲しいと思う企業に対する投資という手段によって、
所得配分をする方法を選んでいます。

なぁ?んて、実は大した収入が無いだけだったりします(笑)

最後になりますが・・・
「Adam Smith said the best outcome for the group comes from everyone trying to do what's best for himself. Incorrect. The best outcome results from everyone trying to do what's best for himself and the group」
これは、ノーベル経済学賞を受賞した、ジョンナッシュの言葉(=「ナッシュ均衡」)です。

2005年5月17日 板倉雄一郎

PS:
ところで、高額納税者の個人情報を公表する制度って、もう止めた方が良いですよ。
「リストに載りたくない」という理由で、価値提供を惜しむ価値ある人って、実はたくさん居ますから。
公表するなら、多くの人が、「あの人なら、それだけ得ていて当然だ」と思えるような税制が前提ではないでしょうか。
僕個人としては、アーティストの収入が多いところは、とても納得するのですが・・・・

現在の税制の上での「納税順位の公表」は、多くの人をミスリードする可能性を感じます。
いや、「大した社会に対する価値提供をしていないのだから、その分、税を納めて当然だ」ということなのかもしれません。
つまり、「納税が馬鹿馬鹿しいことである」と思わせるのは、税金の使い方に問題ありということに他なりません。

PS^2:
「短編エロ小説」は、読者からの不評により、やっぱり止めます。
僕は、人の「心」を描きたかっただけなのです。
なぜなら経済は、「人の心」が動かすからです。
「エロ」という表現がまずかったですね。
僕は、よく、誤解を招く言葉を、確信犯的に使うことがあります。
考え直します。





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