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KISS 第50号「粉飾決算など」

本日は、日本経済新聞ネタよりいくつか・・・

<カネボウ粉飾決算2000億円>

手口などは、そこらへんの情報を参照してください。
注目すべきは、この企業の監査を手がけた監査法人がどこであるか?です。
(記事に、ちゃんと書いてありますけどね)

この件に限らず、監査法人の実態は、
「監査料をたくさんいただければ、ある程度経営者の意向に沿った監査コメントを付ける」という慣習があるということです。
いずれは、米エンロンや、ワールドコムのような大問題が、この国でも複数発生するでしょう。
我々個人投資家は、投資先企業からの発表(=有価証券報告書など)を信用するしかありません。
しかし、この情報が、そもそも「インチキ」であるとすれば、資本市場そのものが「ただの博打場」となってしまうでしょう。
これは、由々しき問題です。
彼らのインチキをけん制するのは、我々個人投資家の権利であると同時に、責務です。

一つ、会計上のインチキを見分ける方法を書きましょう。
「会計上の利益と、キャッシュフロー計算書の数字の乖離が大きい会社」は、ダメです。
企業のビジネスモデルにも依存しますが、たとえば、5期以上の増収増益を会計上は維持していても、キャッシュフロー計算書では、営業キャッシュフローが、この期間一度も「プラス」になっていないような企業は、ほぼ間違いなく、「粉飾決算」をしている企業です。
上場企業でも、いくつか簡単に見つけることが出来ます。
このような企業には、「絶対に」投資してはいけません。
多くの投資家が、このようなインチキ企業に投資しないことによって、初めてインチキを排除できるというわけです。

<配当による株高>

これは、馬鹿馬鹿しいにも程があります。
配当は、ダイレクトに、
株主価値(=企業価値?純有利子負債≒時価総額=株価*株数)を
下落させます。
(ただし、配当目当ての投機家の買いによって、株価は「一時的に」は、上昇する傾向があります。)
資金使途の決まっていない余剰資金を配当するということには、経済合理性があります。
しかし、この場合でも、株主価値は、変化が無いか、もしくは、下落します。
シンプルに考えてください・・・
配当によって、株主価値(≒時価総額)が上昇するのなら、企業の資金がからっけすになるまで配当したらいいじゃないですか(笑)・・・この場合でも、株価が上昇するとでも思いますか?
配当が合理的であるのは、企業の成長ステージが、成熟期以降(=成熟期?衰退期)で、且つ余剰資金が潤沢にある場合です。
この場合も、株主価値は、決して上昇しません。
余剰資金は、(純有利子負債がゼロ以下である場合)そもそも株主価値の一部です。
それを引き出すわけですから、引き出された分、株主価値は下落するのです。
当たり前のコンコンチキです。
ただし、将来キャッシュフローに与える影響は、確かにあります。
詳しくは、KISS第39号「配当と株主価値」をご一読ください。

企業が株主に対する便益を提供する方法は、インカムゲイン(=配当)または、キャピタルゲイン(=株価上昇益)です。
この両社は、トレードオフの関係にあるのです。
インカムゲインを発生させた「分」、キャピタルゲインは減少するのです。
しつこいようですが、企業内部で「遊んでいるお金」を、株主に対して配当や自社株買いで「還元」することは、正しい経営手法です。
配当が悪だといっているのではありません。
ですが、配当による株主還元では、株主価値は上昇しませんし、
また、(実体経済価値と同程度の株価による)自社株買いは、株主価値に変動が無くても、流通株式数の減少によって、「株価」は、上昇します。
どちらも、株主に対する資金の還元ですが・・・
配当は、
「すべての株主に対して余剰資金を還元する」という行為であり、
自社株買いは、
「一部の株主の株式を、他の株主全体で買い取る」という行為です。

関連エッセイは、
KISS第39号「配当と株主価値」
KISS第11号「おめでたい経営者」
SMU第112号「急成長企業の配当」

今日は、こんなところで。

2005年4月13日 板倉雄一郎 (Japanese by Nature)





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