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KISS 第94号「将来業績予測(その2)」

気が向いたので、KISS第83号に続き、将来業績予測(その2)です。

しつこいようですが、投資家から観た企業価値を決定するのは、当該企業の将来キャッシュフロー(=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー)と、それを現在価値に割り引くためのWACC(=加重平均資本コスト=割引率)です。
この二つの因数によって、投資家から観た企業価値は決定されます。
今回は、投資家に帰属する将来フリーキャッシュフローの予測についてです。

将来キャッシュフローを予測するためには、大まかに、事業の効率(=過去からの投下資本利益率の推移)を知らなければなりません。(この部分は、KISS第83号に詳しく書きました)
過去からの投下資本利益率(以下ROIC)推移を参考にしながら、当該企業の資本的支出(=投資キャッシュフロー)および、その新規の支出における投下資本利益率を予測することにより、将来キャッシュフローを割り出します。

どの程度の新規の資本的支出によって、どの程度のROICが得られるのかを予測する「主な」因数は、当該企業の提供する商品のマーケットサイズ、および、そのマーケットにおける当該企業の「事業効率=競争優位性」です。
事業効率は、結果的にROICとして現れますが、その源泉は、当該企業の「ビジネスモデル=競争の武器」にあります。

「ビジネスモデル」と言葉では、一言で表現できますが、多くの方は、ビジネスモデルと商品モデルを混同している傾向が見られます。
ビジネスモデルとは、当該企業が経済価値創造を行うための根幹のモデルです。
そのモデルを考えるとき、そもそもその企業は「何業?」であるかを突き止めなければなりません。
たとえば、「セブンイレブン」は何業でしょうか?



は、






す。
(この「考える時間」をふっ飛ばし、さっさと答えを得ようとしたあなたは、投資に向いていません。
自ら考える行為が、投資活動には重要です。)

「流通業」と思いましたか?
それとも、「サービス業」と思いましたか?
どちらも間違いではありませんが、将来の事業効率を予測する上では、これらの答えは、役所への各種届出以外には、ほとんどなんの役にも立ちません。

「だって、店舗があるじゃないか!」
確かに店舗が無くては、彼らの商売は成り立ちません。
しかし、彼らの店舗は、少なくとも彼らの資本的支出によって成り立っているわけではありません。
彼らの店舗は、彼らのビジネスモデルに参加したフランチャイジーの資本的支出であって、セブンイレブン本体の資本的支出ではありません。
(この点で、フランチャイズビジネスとは、他人資本による資本レバレッジを得ていると解釈できます。)

「いや、やっぱり流通業だし、トラックで商品を輸送しているじゃないか!」
確かに、物流が伴わなければ、彼らの商売は成り立ちません。
しかし、「セブンイレブン」の大きなロゴが表示されたトラックは、やはりセブンイレブンの資本的支出によるものではなく、彼らが長期契約した地域の運送会社の資本的支出によるものです。

「やっぱ、店に並んだ商品が肝でしょ!」
確かに、顧客の需要にこたえる商品郡を陳列しなければ、商売になりません。
が、この商品郡は、商品を提供した企業に対して、その対価を支払うまでは、セブンイレブンの所有物ではなく、商品を提供した取引先企業のモノです。

「じゃあ、なんなんだよ!」ということになりますよね(笑)

しつこいようですが、ビジネスモデルとは、当該企業が経済価値創造を行うための根幹のモデルです。
この視点でセブンイレブンを捉えたとき、少なくとも僕は、セブンイレブンを「IT産業」であると思います。

彼らの利益の根幹を支えるのは、POSシステムです。
POSシステムのおかげで、「売れ筋商品」を把握し、「死に筋商品」を排除することにより、販売のチャンスを最大化し、同時に在庫リスクを低減することが出来るわけです。
また、同時に、セブンイレブンに訪れる顧客の評価も高まり、顧客から観たブランド価値の最大化につながります。
つまり、セブンイレブンからPOSシステムと、そのシステムから得られた情報を分析するノウハウを取ってしまったら、ただの小売店の集合に過ぎず、ビジネスモデルとしては、ほとんど何も残りません。
加盟しようとするフランチャイジーも現れませんし、そもそもブランド価値など生まれないというわけです。

当該企業の利益の根源であるビジネスモデルは一体なんであるか?
これをつかめなければ、将来業績予測などほとんど不可能です。
当該企業のビジネスモデルを把握することにより、彼らが今後、どのような資本的支出を行い、その支出に対する投下資本利益率を予測することが可能になります。

たとえば、「新規の店舗を増やす」ことと、「POSデータの分析によって得られた売れ筋商品を新規に投入すること」のどちらが、彼らの投下資本利益率を上昇させるでしょうか?
当たり前ですが、投下資本利益率という視点では、後者のほうが前者より、それを上昇させる可能性が高いわけです。
前者の場合、売上や利益の絶対額は確かに上昇しますが、コンビニ店舗が飽和している国内では、店舗の増加だけでは、少なくとも投下資本利益率は、さほど上昇しません。
彼らの投下資本利益率を向上させるためには、今あるインフラ(=店舗+流通システム+サプライチェーン+POSシステム)を利用して、如何に売れ筋の商品を提供できるか?がポイントというわけです。

ここから先、ビジネスモデルを具体的な業績予測に落とし込む作業に関しては、この場で文章によって表現するのは、結構大変(笑)なので、割愛させていただきます。
が、少なくとも、ビジネスモデルのその意味と、それが企業の業績の根幹であることは、お分かりいただけたのではないでしょうか?

ビジネスモデルを見抜く!は、とても大切です。
さて、それでは、トヨタ自動車のビジネスモデルは一体なんでしょうか?
間違っても、「自動車製造&販売」などという回答はしないでくださいね(笑)
ご自身で考えてみてください。

将来を予測する上で、「答え」は、常に確定していません。
現在の義務教育における最大の問題は、「答えがあることしか教えない」ということです。
現在の義務教育の犠牲者は、安易に「答え」を求めます。
しかし、人生に答えなんてありえないのです。
不確定な将来に対する予測を、自分自身で企て、それを信じること以外にありません。
自分の企てや予測を信じるためには、学習と、それに基づいた経験あるのみです。

2005年7月5日 板倉雄一郎

PS:
先週末は、
「日経ビジネス」で開始される僕の連載に関する打ち合わせと取材、
当事務所が製作&販売元になるDVDの収録(とは言っても、僕のインタビューですが)、
そして、当事務所パートナーとのオフミなど、楽しかったです。
僕の周りに居る方々は、どういうわけか、サラリーマンを止めてしまいます。
僕の周りに居る経営者は、どういうわけか、既存のビジネスの軌道修正を考えるようです。
今回のパートナーオフミでは、2名のパートナーがサラリーマンを卒業し、自らのバリューに基づいた「社会に対する価値提供」への移行のお祝いを兼ねました。
組織や他人のブランドに依存しない個人の価値に基づいた経済活動は、それ自体が、個人の社会における価値を高めます。
「金」が欲しければ、自分自身の社会に対する価値を高める以外に方法はありません。

PS^2
ある女性からの電話を待っていたら、こんな時間になってしまいました。
(↑「ひろし」風ね)
僕にも、こんな部分があるのだなぁ?と、ちょっと嬉しくなってしまいます(笑)





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