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KISS 第59号「資本のねじれ?」

資本市場では、「資本のねじれ」が話題になっています。
僕は、この「ねじれ」という言葉が、どのような定義で使われているのか、正直良くわからないのです(笑)。

おそらく、世で言う「ねじれ」とは、たとえば・・・
ある企業A(=親会社)が、ある企業B(=子会社)の発行済み株式の51%を持っていたとします。
会計的には、連結対象企業ということになります。
簡素に説明するために、まずは、どちらの企業も、純有利子負債をゼロとします。
(純有利子負債=有利子負債?現金および現金同等物)
つまり、企業価値=株主価値とします。
B社の時価総額が、およそ1000億円のとき、A社は、そのうちの51%を持っているわけですから、A社の時価総額は、B社の510億円分を含んでいると考えられます。
このとき、A社の時価総額が、700億円だったりすると、
「子会社の時価総額の方が、親会社より大きい」ということになり、
この状態を「資本のねじれ」と表現する「らしい」です。

さて、この状態の一体どこか「ねじれ」ているのでしょうか?
上記の例の場合、単純に、A社のB社株の保有分以外の、「事業価値」が、たまたま190億円と見積もられ、その結果、A社の時価総額が(190億円+510億円=)700億円になっているだけ、ということも考えられるわけです。
人によっては、51%の株式保有は、支配を意味するから、49%分もカウントできると言いますが、僕は賛成できません。
なぜなら、51%の株式保有は、「議決権」として持っているわけですから、仮にB社を明日分解バラバラにすることも不可能ではありません。
しかし、仮に分解バラバラが議決され、それが実施されても、49%を保有(これを少数株主持分と表現します)している株主にも、ちゃんと分け前を渡さなければならない「はず」だからです。

もっと「ねじれ」っぽい数字にして見ましょう。
上記の例で、A社の時価総額が、400億円だったとしましょう。
この場合、明らかに「ねじれ」ているように見えます。
なぜなら、A社は、時価総額1000億円の企業の51%を持っているわけですから、それだけで、510億円以上には、なりそうだからです。
しかし、この場合も、A社のB社株の保有分以外の、「事業価値」が、たまたま将来性がなく、赤字垂れ流し(もしくは、株主資本コストが高く、赤字でなくても)で「マイナス」110億円と見積もられている・・・のかもしれないのです。
(もちろん、この場合「分解バラバラ戦略」を取ることができれば、確かに儲かりますけれど。)

以上のシンプルな例でも、僕は、一体どのような親子状態のことを「ねじれ」と表現するのか、さっぱりわかりません。
市場が評価を間違っていると仮定して、「ねじれ」と観る人が居るわけですが、もしかしたら、市場は正しくて、「ねじれ」だと思い込んでいるだけなのかもしれません。
ほら、ずうっと前から、「ニッポン放送」持っていて、なかなか彼の思うところの「裁定」が行われなくて、しびれ切らした人もいるでしょ(笑)

さらに、話を現実的にしていきましょう・・・
上記の例では、話を簡単にするために、純有利子負債を、親子ともどもゼロとしましたが、現実には、そのような会社はあまり見かけません。
仮に、子会社Bの純有利子負債をゼロ。
親会社Aが高い資本レバレッジだったとしましょう。
たとえば、親会社Aに600億円の純有利子負債があったとします。
また、A社のB社の保有分以外の事業価値が、プラス600億円だったとしましょう。
このとき、B社のA社による持分510億円と、A社の事業価値600億円を足して、A社の「企業価値」は、1110億円ということになります。
しかし、1110億円は、株主価値ではなく、あくまで企業価値ですから、株主価値を割り出すには、企業価値から純有利子負債を差し引く必要があります。
結果、株主価値(≒時価総額)は、(1110億円?600億円=)510億円となり、この場合も、「子会社より時価総額の小さい親会社」ということになり、多くの「深く考えない方」にとっては、「ねじれ」ってことになるのでしょう。
でも、これって全然「ねじれ」じゃないですよ(笑)。

つまり、「ねじれだ!」ってことで、大量に資本を投入して、大騒ぎする人(=誰かを特定しているわけではないですよ(笑))って、以上の「可能性」について、十分わかっているのでしょうか?
僕には、「ねじれ」の定義が、全然わかりませんケレド・・・

「ねじれなどありえない」と、書いているのではないです。
どの状態のことを「ねじれ」と表現するのか、僕にはわからないと言うことです。

「資本のねじれ」を頼りにした投資活動(たとえば、PBR=株価純資産倍率が1以下の企業をスクリーニングし、時価と簿価の差をチェックするなど)というのは、歴史的に観れば、「ベンジャミン・グレアム流」の「古い手法」です。
(こんな手法を、8万4000円も支払って聞く方が100名も居ることが信じられません(笑)←なんのことでしょう?)
ベンジャミン・グレアム氏は、その時代背景を考えれば、確かに「賢明なる投資家」ではあったとおもいます。
しかし、現在、企業の価値創造を前提にしない投資では、大したパフォーマンスは得られないでしょう。
なぜなら、(すくなくとも長期では)世界最高のパフォーマンスを実現しているウォーレンバフェット氏による投資手法は、企業の価値創造に着目した上に成り立っているからです。
ちなみに、バフェット氏は、ベンジャミン・グレアム氏に教わった経験を元に、その理論を発展させたのです。
よって、投資活動によって長期で成功を収めるための最も効率的な方法は、価値創造を継続できるであろう企業を見つけ、その企業の株価が、大幅に下落するときを「ひたすら待つ」ということになります。
(キャピタルゲイン課税も忘れずに!・・・今は、安いですけどね。)

2005年4月23日 板倉雄一郎 

PS:
明日は、オープンセミナーなので、エッセイはお休みです。





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