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KISS 第19号「パートナーシップ」

以下のフレーズに何を感じますか?

「企業にとって、サイレントシェアホルダーが多いほうがやりやすい」
(サイレントシェアホルダー=物言わぬ株主)

おそらく、以下のような、意見を持つ方が多いのではないでしょうか・・・

「それじゃ、コーポレートガバナンスが働かないではないか!」とか、
「経営者が、やりたい放題で、株主の便益を損ねる!」とか、
「経営などわかっていないのに、うるさいだけの株主よりはマシだ!」とか。
もっと、違った意見をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

感覚的に捉える前に、ちょいとじっくり考えてみて欲しいのです。
最初のフレーズは、曖昧な表現を許す日本語において、文法的には、間違っていないと思います。
文法がおかしくなくても、よーく考えてみると、何かおかしな文章だとは思いませんか?

「企業」という言葉が、このフレーズの主語です。
なんとなく聞いたり、読んだりしていると、気がつかないのですが・・・
そもそも「企業」とは、何を指すのか?
「やりやすい」とは、誰が何をする上で「やりやすい」のか?
という点に問題があります。

「企業」とは、経営者のことを指すのか、
従業員を指すのか、
債権者を指すのか、
取引先や得意先も含まれるのか、
その所有者であるところの、株主を指すのか・・・
商法上の「法人格」を指すとするのが、最も無難な答えだとは思いますが、この場合、「やりやすい」という表現が当てはまらなくなってしまいます。
「法人格」が、「やりやすい」と感じるわけ無いですからね。

企業の所有権は、確かに株主にありますし、株主は経営者を選択することが出来ます。
よって、「株主の便益を損ねる」とは、変な話で、株主が(第三者から観て)株主自身の便益を損ねる者を経営者として認めているわけですから、ステークホルダー以外の人間が、
「あの企業はどうだ、こうだ」と指摘することは、そもそもおかしな話ですよね。
(僕も、そのおかしな人間の一人です。)
もし、経営が気に入らないという大株主が居れば、経営者を交代させればよいわけですし、
もし、経営が気に入らないという少数株主が居れば、その企業の株式を売り払えばよいわけです。

また、従業員においても、経営者が気に入らなければ、上司や経営者に対して、意見を述べればよいわけですし、それでも意見が通らなければ、終身雇用を前提にしなくなった現代では、転職すればよいわけです。
さらに、債権者にとっては、その契約時における約束に基づいて、司法に訴えればよいわけです。

つまり、我々は、「企業」という言葉を、それが「誰」を意味しているのか、明確な定義が無いまま、議論をしているように思うわけです。
この結果、「VS」や「敵対的買収」というわけのわからない(=主語の無い)構図や言葉が飛び出してくるわけです。

僕は、企業の意味するところは、その企業に関わるステークホルダー(利害関係者)すべてを指して、企業と表現するのではないかと思うのです。
株主がどれほど法人格としての企業を所有しようが、そこに従業員が居なければ、価値創造は行われません。
経営者がどれほど価値創造戦略において優秀であっても、株主や従業員の理解が得られなければ、価値創造は行われません。
どれほど優れた(と、経営者や従業員や株主が思うところの)商品を開発できたとしても、客が居なければ、価値創造は行われません。
以上のすべてが満足できたとしても、原材料を納入する取引先が無ければ、何も生み出せません。

経営者とは、「企業」が企業として、継続的に価値創造を行うために、そのステークホルダーの利害を最も効率よく調整するための存在なのです。
その上で、「経営とは、株主資本の管理である」という言葉は、極めて合理的です。
この言葉を聴いて、「株主の立場しか見ていない」と誤解される方も多いのではないかと思います。
しかし、株主が株主の便益を合理的に得ようと思えば、従業員、債権者、取引先、得意先など、その企業が企業であるためのステークホルダーすべてを大切にするはずです。
もし、以上とは違い、一時の利益を重視する投機家が株主の大半を占めるようなことがあれば、企業の価値は破壊される・・・と、僕がしつこく書いていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

世界一、投資家としての実績の高い、ウォーレンバフェット氏は、以下の言葉を何度も使っています。

「パートナーシップ」

彼にとって、バークシャーハザウェイ(バフェット氏が会長を勤める企業)に関わるすべてのステークホルダーは、彼も含めて、同社の価値創造を目的にしたパートナーなのでしょう。

2005年3月2日 板倉雄一郎 

PS:
ライブドア関係は、もうええわ(笑)
だって、僕は、ライブドアの株主じゃないしね。





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