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KISS 第35号「LBO」

今日は、LBO(=Leveraged Buy-Out)についてです。
それにしても、ホリエモンは、次々と、日本人に勉強の機会を与えてくれますね。
エッセイのネタに困りません。・・・ホリエモン様さまです。
(なお、以下の文章は、ライブドアによるLBOが実施された場合という仮定に基づいています。)

それでは、本題「LBO」です・・・

「LBO」なんて、かっこつけなくても、このように書けばよいのです。
「借金した金で、企業を買収する。ただし、買収予定先企業を担保に。」
ただ、それだけのことです。
日本人なら、ほとんどの方が、LBOを実際にやっています。
「えっ?」って思いましたか?
ほら、住宅を購入するとき、わずかな自己資金を元に、購入する住宅を担保に金借りるでしょ?
これとLBOの違いは、住宅は自分で住む限りにおいてキャッシュを生まないけれど、企業はキャッシュを生むし、経営者がまともであれば、生まれるキャッシュは、複利で(経営者が再投資することによって)増えると言う点です。
言葉に惑わされてはいけません。
手段は、ローンで住宅を買うことと、なんら変わりません。
これを「効果の側面」から見ると、自己資本に対して「テコの原理が働く」ので、レバレッジという言葉が使われているに過ぎません。

(ここから先は、エッセイKISS第32号「企業価値とは」を読んで理解してからお読みください。KISS32号を理解した読者を前提に書いています。)

<基礎編・レバレッジって、なあに?>

株式の信用取引を経験している人なら、説明するまでもありませんが、一応説明しますね。

まず、Aさんと、Bさんが、株式投資を始めようとしています。
Aさんも、Bさんも、元金は、100万円だとしましょう。
そして、両者とも、同じ企業に投資するとします。
ただし、Aさんは、現物株に投資し、
Bさんは、信用取引を利用して投資することにしましょう。

投資対象企業Cの現在の株価は、一株100万円だとしましょう。
Aさんは、元金の100万円で、C社の株を一株購入します。(現物取引)
Bさんは、信用取引のおかげで、預託金(100万円)の3倍まで、株式投資が出来ると言うことにしましょう。(一般的に、オンライン証券会社の信用取引は、預託金に対しておよそ3倍です。)
Bさんは、C社の株式3株を、300万円で購入できると言うわけです。(信用取引)

ちなみに、なぜ信用取引を利用すると、こんなことが出来るかといえば・・・
信用取引とは、証券会社などから、足りない分を「借金」して、投資するということだからです。
Bさんの場合、200万円を借金し、元本(=以下「自己資本」)の100万円とあわせて、300万円分の株式が購入できると言うわけです。

一ヶ月後、C社の株価が10%上昇し、110万円になったとしましょう。
このとき、Aさんは、10万円の株価上昇益(=キャピタルゲイン)を得ます。
しかし、Bさんは、300万円分(=3株)持っていますから、
Bさんの儲けは、30万円と言うことになります。
(100万円*3株*110%=330万円)
Aさんも、Bさんも、「自己資本」は、同じ100万円なのに、Bさんは、信用取引を利用した関係で、自己資本に対して、Aさんよりも、多くの儲けを出すことが出来ました。
株式投資における「投下資本利益率」は、Aさんも、Bさんも、同じく10%ですが、「自己資本に対する利益率」は、Bさんの場合、30%になるわけです。
これが有利子負債によるレバレッジ効果と言うわけです。

Bさんの投下資本利益率は、その分子の利益が3倍になっても、同様に分母の投下資本が3倍(自己資本100万円+有利子負債200万円=300万円の投下資本)になるので、Aさんと同じく10%です。

もちろん、Bさんは、その期間中の200万円に対する金利を別途支払う必要があります。

さてここで、もし、C社の株価が、予想に反して10%下落した場合はどうなるでしょうか?
もうお分かりですよね・・・
Aさん、Bさん、共に投下資本利益率は、マイナス10%ですが、
自己資本に対する利益率は、Bさんの場合、「レバレッジ効果」のおかげで、マイナス30%と言うことになります。
Aさんは、自己資本に対して、10万円の損失で済みますが、Bさんは、自己資本に対して、30万円の損失になるというわけです。
ちなみに、Bさんは、レバレッジをフルに(3倍で)利用していますから、このとき、Bさんのレバレッジは、C社の株価が下落したことによって、3倍より大きくなり、これを3倍に戻すため、証券会社から「追証」といわれる、追加の預託現金を請求されてしまうわけです。
怖いですねぇ?!

つまり、株式信用取引(=借金によるレバレッジ)とは、予想通りに株価が動けば、サイコーの手段ですが、予想を外れた場合、大変な損失につながると言うわけです。

最近話題の「外国為替証拠金取引」の場合、このレバレッジが、3倍どころではなく、最大50倍!ですからね。つまり、100万円の証拠金で、5000万円の取引が出来ると言うわけです。
いいときはいいですよ、でも、目論見が外れたら、大変なことになります。
事実、「外国為替証拠金取引」で、破産した人などたくさん居ます。
単なる博打です。

<応用編・LBOの実施における資本コストはどうなる?>

一般的に、
「株主資本コスト」 > 「有利子負債コスト」
ですから、
それぞれの額による企業全体の加重平均資本コスト(WACC)は、
有利子負債比率が大きいほうが、低下すると言われています(笑)。


一般的に言われている、「借金が多い会社は駄目」というのは、間違いですが、ビジネススクールで教えているDE比率調整によって、WACCが低下するというのも、根本的に間違っています。
DE比率調整によるWACC低下は、「支払利息による節税効果」が主なものです。
いわゆる「MM理論」です。
しかし、MM理論は、多くの仮説によって成り立っていて、客観的に「株主資本コスト」を算出する手法を含んでいないので、頭の良い方々から、文句を言われるわけです。
現在のCAPMが、βをはじめとするインチキ因数で構成されているので、MM理論は認められないのです。
僕は、現在のCAPMに代わる「株主資本コスト」を算出する手法を持っています。
近いうちに、すべてを解決する理論を発表しますね。
この理論の結果は、MM理論と近似しますが、全く同一にはなりません。
おそらく、このWEB上ではないところで、発表することになると思いますけれど。
それにしても、ビジネススクールのファイナンスって、なんでまた、「DE比率によるWACC調整」だとか、「CAPM」だとか、トンチンカンなことばかり教えているのでしょうかねぇ?(笑)
かく言う僕も、ちょっとの間、騙されていましたけれど(笑)

「なぁ?んだ、じゃあ、今回、ライブドアがやるかもしれないLBOは、ライブドアの資本コストを押し下げるんじゃないか!」
と早合点しないでくださいね。

確かに、時価総額2000億円の企業が、2000億円もの借入を実施すれば、見かけ上、WACCは、低下します。
(もちろん、借入の利率如何ですが)
しかし、上記のAさんBさんの例でお分かりの通り、レバレッジが効いた分だけ、自己資本(=株主資本)におけるリスクは、上昇してしまうわけです。
株主資本のリスクが大きくなると言うことは、効率的市場を前提にすれば、すなわち株主の「リスク認識」が上昇するということであり、それは自己資本部分の資本コストを押し上げることになります。
資本に占める有利子負債比率の上昇によって、WACCは低下するように見えますが、一方で、株主資本コストは、上昇してしまうと言うわけです。
もちろん、ライブドア全体の資本コストは、
その時点でのDE比率(=株主資本と有利子負債の比率)と、
それぞれの資本コストに依存します。

一般的に、有利子負債によるレバレッジを効かせる合理的な条件とは、
「事業の利回りは小さい(=薄利)が、同時にリスクも少ない場合」に限ります。
このような場合に限り、有利子負債比率を上げ(=自己資本比率を下げ)た資本構成を作ることによって、株主資本に対するリターンを上昇させることが可能というわけです。
最初の信用取引のケースでおわかりの通り、もし、レバレッジを効かせた上に、ハイリスクハイリターンのビジネスをするのでは、株主資本部分のリスクは、ほとんど博打になってしまいます。
(ハイパーネット社は、これが原因で、倒産しました・・・経験に基づく理論です。株式信用取引でも、それを利用する場合、株価変動リスクの少ない企業への投資の場合で、且つ適度なレバレッジでやるものです。)

以上をまとめると・・・
ライブドアによる、LBOを使ったフジテレビの買収と、その後の経営が「うまく行く」と仮定するならば、ライブドアの株主にとっては、恩恵のあるオペレーションでしょう。
幸い、フジサンケイグループ企業は、概ね業績も安定していますし、そもそも(堀江君や村上ファンドが目をつけた理由であるところの)多くの資産を持っている企業群ですから、LBOによる買収そのものは、悪い手ではありません。
しかし、もし、フジテレビの従業員の反発などの要因で、買収後に視聴者が喜ぶような番組作りを続けることが出来なかった場合、ライブドアの株主は、大きな損失を被るということです。
この逆に、「優秀な従業員が残り、窓際族だけ辞めてしまう」のであれば、すばらしい結果になるでしょう。
どちらに転ぶか、僕にはわかりません。

ライブドアの今後の資本コストを、LBOを前提に考える上でのポイントは、
「LBOの借金の利率(=借金部分の資本コスト)」および、
その時点での、有利子負債と株主資本の比率(=DE比率)と言うことになります。

参考までに、ソフトバンクが昨年実施した、「ユーロ建て社債、およそ500万ユーロ」の金利は、なんと9.375%!です。まあ、ソフトバンクの格付けが、「BB?(ダブルBマイナス)」ですから、仕方ないですけど。

僕は、企業買収そのそのものを否定しているわけではありませんし、
今回の買収劇の発端は、フジサンケイグループ「経営陣の怠慢」が原因です。
ただし、堀江君によるライブドアの株主を犠牲にした過去の資金調達や、
「ビジネスプラン」や「ビジネスモデル」を具体的に提示できないままの買収では、世間はともかく、フジサンケイグループ企業の従業員が、不安を抱くだけです。
もし、堀江君が、買収後の「ビジネスプラン」や「ビジネスモデル」を持っているのなら、可能な限り早く、それを世間に対して提示すべきです。(具体的プランなど、持っていないことが推測されますが)
そのビジネスプランに、すべてのステークホルダーが納得すれば、ライブドアの資本コストは自然と低下し、フジサンケイグループ企業の従業員は安心してコンテンツ作りを継続することができ、結果として、買収そのものも、その後、新しく生まれるライブドアグループの企業価値創造も、可能になる「かもしれない」ということです。

最後になりますが、ライブドアのこれまでの、株式分割マジックや、MSCBによる既存株主の犠牲の上に成り立った資金調達方法に「比べれば」、LBOは合理的です。
なぜなら、フジサンケイグループ企業は、多くの含み資産を持っていますから。
ただし、LBOによる買収は、結局、ライブドアを、堀江君をはじめとする同社株主の手から、債権者の手に、移転すると言うことを意味しますが。

2005年3月23日 板倉雄一郎 

PS:
4月予定のセミナーは、「公開・企業価値評価基礎セミナー」になる予定です。
詳細が決まりましたら、この場でお知らせしますね。
もう、少々お待ちくださいませ。





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