板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 第124号「ゼロサム」

セミナーの受講生は、僕にとって、大切な顧客であり、大切な仲間であり、大切な友人であると思っています。
そして、許されるなら、末永く御付き合いしたい方々です。

合宿セミナー全6コマ(+補助セミナー2コマ)の中で、僕は3コマを担当していますが、セミナー全過程終了後、最後のコメントも毎回行っています。
今回のコメントで、僕が最も注意深く、最後に発言した言葉です。

「(卒業生の)皆さん同士での、(経済価値の)奪い合いにならないことを、最後にお願いしておきます。」

合宿セミナー6コマ目で行う、受講生によるワークショップで取り上げた、今回のバリュエーション対象企業は、少なくとも我々の価値算定では、価格(=時価総額・・・株価)に対して、3倍ほどの価値のある企業です。
つまり、価値と価格の裁定余地の十分にある企業です。
しかしながら、この企業の「出来高」は非常に小さく、よって、短期間に価値と価格の裁定が市場によって行われるかどうかは、定かではありません。
もし、今回の受講生が、今回のセミナーでのバリュエーション結果に基づいて、(投資の時間的スタンスを無視して)この企業への投資に走れば、おそらく、「卒業生の買い」によって、株価が上昇するでしょう。
一方、卒業生は、この企業の「(今日現在の)あるべき妥当な株価」を知っていますから、、価値と価格の裁定に「のみ」興味を示す(=長期保有により、裁定後も当該企業の価値創造に乗ることを「好まない」)のであれば、この価格に株価が近づけば、卒業生は、利益確定を行うでしょう。

結果、当事務所にとって大切な友人である「卒業生同士のババ抜き」になる可能性があります。

(当該企業のFCFは、間違いなく投資家に便益をもたらしますから、市場がつける価格「=ミスターマーケットが付ける価格」より、価値そのものを重視する者ばかりが市場を占めていれば、価値と価格が均衡した時点での利益確定そのものは、「ババ抜き」には当たりません。)

もし、価値を無視し、価格変動によってのみ収益が得られる短期の投機手法を教えるセミナーであれば、セミナー受講生同士の「価値の奪い合い」に結果的になってしまいます。
少なくとも、僕は、我々のセミナーに期待し、時間と価格を消費しながら学習した者同志が、ゼロサムゲームを演じるようなセミナーなら、そんなセミナーは絶対にしたくありません。

企業が経済価値創造を行うためには、当該企業のあらゆる利害関係者による価値提供と、その価値を経営手腕によって「増幅させる=創造する」ことが前提です。
受講生同士のゼロサムを演じて欲しくないことは当然ですが、同時に、投資対象の企業から、「自分だけ」、自分が提供した価値(=投資の場合は、投資金額と投資した時間)以上の経済価値を奪い取ろうとするような手法を教えることは、今後も一切行わないでしょう。
価値と価格の裁定による利益は、バリュー投資の「オマケ」に過ぎません。

2005年9月26日 板倉雄一郎

PS:
先週末は、当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーの第8回目を行いました。
毎度のことですが、
「ひたすら楽しかった。」
出会い、そして共に学び、知的興奮を共に味わうこの「場」は、僕にとって、とても貴重な時間です。

僕は、合宿第一日目の2コマ、計6時間を(昼食をはさんで)ぶっ通しで講義し、さらに懇親会、引き続き会場ホテルのロビーにて2次会・・・そして2日目の講義の開始ということで、全過程終了後の打ち上げの頃には、「へとへと」なのですが、不思議なことに、「早く家に帰ってベッドにもぐりこみたい」とは、全然思わないのです。

打ち上げ会場の店の閉店時間が近づき、明日の仕事のために店を去る卒業生がちらほら現れる時間になると、どんなに疲れていても、「できることなら、受講生、卒業生そしてパートナーと共に、このままこの場に居たい」と、思うのです。
しかし現実には、「また次回の合宿セミナーでお会いしましょう!」と、それぞれがそれぞれを惜しむように別れてゆきます。
残念なことではありますが、仕方の無いことです。
なので・・・
僕は、受講希望者がこの世にいる限り、このセミナーを続けて行きます。

今回も、合宿セミナーにいらしていただいた卒業生の皆さん、そして今回始めて受講され、既に卒業生になられた皆さんに、この場を借りて、お礼を申し上げます。
楽しい時間を共有させていただき、ありがとうございました。
今後とも、末永い御付き合いを。

今回の受講生の顔ぶれは・・・
サラリーマン、OL(今回は残念ながら御一人だけ(笑))、ベンチャー経営者、個人投資家、そして某大手金融機関のファンドマネージャー、そして、某有名バリュー投資家、そんな方々に参加いただき、(少なくとも僕自身が彼らに受講後の感想を聞いた限りでは)大変満足頂いたようです。
何しろ、わずか2日間のセミナーながら、受講生によるワークショップでは、当該企業の「理論株価」の算出までこぎつけることが出来るわけですから、すんばらしいです。
今回のワークショップは、全部で6チーム。
これらのチームはがはじきだした理論株価は、概ね打倒な範囲に収まるわけですからね。
(とはいっても、今回は、1チームだけ、ずっこけ株価になりましたが(笑))

僕は、うれしいのです。
何がうれしいのかと言うと、投資や経営を仕事として行っている方(=つまり、いわゆるプロ)にも、これから個人投資家として投資を始めようとする方(=つまり、初心者)にも、同等に満足頂いていることがうれしいのです。
人の能力に差は無いと思っています。
差があるとすれば、知識や人生の価値に対する「欲」です。
ただし、この「欲」は、間違っても「カネだけ」の欲ではありません。
自分と社会が幸せになってほしいと思う「欲」なのです。

PS^2:
皆さんにご支持いただいた、このエッセイKISSも、今週中に最終回となります。
最終回になる理由は、最終回のKISSでお知らせします。

PS^3:
10月開催の合宿セミナーの募集を行っています。
多くの読者の方に、この興奮と感動、そして人生の糧の共有を体験していただきたいと思います。
読者の皆様の参加をパートナー一同、楽しみにしています。
(あのー、楽しいだけじゃなくて、しっかりファイナンスと市場メカニズムについての知識も得られますので、あしからず。)





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