板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 第1号「急がば回れ」

JASDAQ』が止まっちゃってます。(笑)

これで焦るような短期投資は、やっぱりいけてません。

バフェットが言うように、
「もし、明日から数年間取引が止まっても全く問題ありません」
そんな投資をしたいものですね。

ところでニッポン放送ですが、最も儲かったのは、村上さんですね。

ライブドアは、MSCBの発行によって、更なるダイリューションということでしょう。何故なら、ライブドアがニッポン放送に出資するならば、投資家は直接ニッポン放送株をを買います。

わざわざライブドアを経由するまでもなく。って思いません?僕は、そう思うなあ~。

そのイイワケが「シナジー」なんでしょうけど、シナジーってホントあまり現実にならないのですよ。(まぁ、裁定が狙いなのでしょうけれど)

以上、臨時アップデートでした。

以下、エッセイです。

なんだ、エッセイの名前が変わっただけじゃないかよ!と怒らないでくださいね。

ちゃんとシンプルに(しかし文章量は多いのですが)書くようにしますから。物事、難しそうなことでも、実は単純にできているものなのです。

ならば、最初から、単純化して考えればいいじゃないか!
ということで、Keep it simple , stupid = KISS のスタートです。

今後とも、よろしくです。

早速、第1号「急がば回れ」です。
(長いですから、時間のあるときに、読んでくださいね)

資金を年率「10%」で調達した場合、その資金を運用して儲けるためには、10%より大きな運用利回りが得られれば良いわけです。

仮に、年率「12%」の運用利回りだとしましょう。
(株式投資でも不動産投資でも債券でもご自身の事業でも、何でもOKです)

すると、12% - 10% = 2% の儲け幅ということになります。

100万円を調達し全てを運用すれば、年間20,000円の儲けが出ます。

もし、資金を年率3%で調達できた場合、3%より大きな投資利回りを得られれば良いわけです。

仮に、年率「5%」の運用利回りだとしましょう。

すると、5% - 3% = 2% の儲け幅ということになります。

調達額および投資額が前者と同じだとすれば、儲けそのものは、前者のケースと全く同じになります。

この両者を比較した際、前者は「12%」の運用利回りを実現しなければならず、後者は「5%」の運用利回りで、前者と同じ儲けを得ることができることになります。

さて、どちらの方が簡単でしょうか?

当たり前ですが、12%の運用利回りの投資対象を見つけることより、5%の運用利回りの投資対象を見つけることの方がより簡単です。

つまり、後者の方が、前者と同じ儲けを得るために、リスクの低い運用が可能になるということです。よって、儲けを得るためには「資金調達コストを如何に下げられるか」が重要だということになります。

ここまでは、簡単ですよね。

ところで、これまた当たり前の話ですが、急いで目先の運用チャンスに飛びつこうとすれば、外部からの資金調達が必要になります。

外部からの資金調達は、自前のお金(=自分が生み出すキャッシュフロー)より高くつきます。

更に、外部からの資金調達を「あるレベル」を超えてまで調達すれば、資本コストは、急上昇します。何故なら、危なっかしさが増すからです。(自己資本比率の低下によるデフォルトリスクの上昇)

つまり、外部からの資金調達を多くすればするほど、資本コストは、上昇してしまいます。それでも、チャンスを生かすことを優先すれば、多少資本コストが上昇しても、運用利回りが高ければ問題ありません。

但し、「運用利回りが高い」ということは、同時に「リスクも高い」ということになりますが。。

企業の場合、急いでチャンスを生かす最も簡単な方法の一つに、「価格破壊による新規参入」があります。

しかし、これは結果的に将来の運用利回りの下げ圧力を自分自身で作り出してしまうことにつながります。

結果、急いでやれば、資本コストは上昇し(価格破壊による新規参入の場合は)将来の運用利回りは低下してしまうことになるわけです。

よって、「儲け幅」は、自ずと減少してしまいます。

つまり、金儲けのためには、「急がば回れ」ということです。

ただし、いつまでものんびりやっていたのでは、それこそチャンスを逃しっぱなしになりますから、儲けることはできません。つまり、スピードのバランスが大切というわけです。

さて、以上をベースに具体的なケースに移りましょう。

今回取り上げるのは、(またかよ)「ソフトバンク」です。(笑)

最初に断っておきますが、僕は、過去の関係から、孫さんを好きではありませんので、そのバイアスによって以下の文章が書かれていることを否定しません。

僕が彼を好きではない理由は、彼がハイパーネットを救ってくれなかったからではありません。彼にハイパーネットの買収提案を直接したときに、彼はこう言いました・・・

「断るときにも、僕から直接話したほうがいいね」

この言葉を聴いて、僕は「さすが、孫正義だ!」と思ったものです。青かったのですよ(笑)しかし、とても残念なことにこの三日後、孫さんではない人物がハイパーネットを訪れ「NO」を伝えてきました。

電話一本で済むことなのに、彼は自分で言い出した約束を果たしませんでした。よって、僕は彼が好きではありませんし、彼の言葉を信用していません。

最初に、既知のことについて幾つか書きましょう。

1、 市場の評価

大雑把に計算すると、ソフトバンクの企業価値は、主にヤフーをはじめとする連結企業の所有分(含み資産)が主なものです。

実際、彼らの含み資産から彼らの純有利子負債を引いた結果は、現在のソフトバンクの時価総額を上回ります。つまり、投資会社としては価値があるが、事業価値はマイナス評価ということになります。

これは、僕が言っているのではなく、市場が言っていることですので悪しからず。

2、 市場の活性化という効果

SMUでも表現した通り、消費者にとって、彼の事業の価格破壊効果は絶大です。但し、全国民にとっては、マイナスの部分も実はあります。

何故なら、彼の活動によって、NTTの企業価値は、低下する可能性が大きいからです。NTTの株主は、主に政府ですから、よって国民全体ということになります。

ちなみに、NTTの株主価値は 6.7兆円。財務大臣持分は 45.9%(前期末)です。
とすると、国民持分は 3.1兆円。

国民一人当たりの持分は約26,000円ですが、戸数あたりの持分は約77,000円です。

格安サービスによる利用者のコスト低減効果と、それに伴うNTTの価値低下による国民負担の増加のどちらが多いのかについては、検証が非常に難しく複雑なため排除します。

なぜなら、それこそソフトバンクの功罪というより、NTTの経営の問題だからであり、我々は共産主義国家に住んでいるわけではないからです。つまり、ソフトバンクの活動は、国民にとってプラスに働くということにします。

3、 ソフトバンクのシナジー戦略

ゴールドラッシュにたとえれば、ソフトバンクの戦略は、格安高速鉄道(たとえば、Yahoo!BB)を自らの負担で敷設することにより、自らが持つホテル(たとえば、ポータルサイトとしてのYahoo!)が儲かるはずだから、OKということなのでしょう。

以上をベースに話を展開します。

ソフトバンクはご存知のとおり、「急いで」ビジネスを展開しています。自らが生み出すキャッシュフロー以上の投資をする場合、当然ですが外部からの資金調達が必要になります。

結果、資本コストは上昇します。言うまでもありません。

事実、彼らは、増える資本コストを抑えるため、自己資本比率を下げ(=有利子負債によるレバレッジを効かせることにより)WACC調整を行っています。

これはこれで、賢い方法ではあります。
(まあ、それでもレバレッジの割には、WACC高いですけど)

資本コストが上昇しても、運用利回りが高ければ問題ないことは既に書きました。ところが、先にも書いたように、彼らの戦略は、「価格破壊による新規参入」ですからその効果は、ソフトバンク自身の将来の運用利回りを、自ら小さくする効果になっています。

つまり、急いだ結果、資本コストが上昇し、運用利回りが低下するというわけです。将来においても「ROIC-WACC=SPREAD」が小さくなるやり方です。

ですが、マイナスになるなどと言っているわけではありません。
もちろん足元では、マイナスですけれど。

この指摘をすると、以下のような意見が出てきます。

意見A:「いや、新しい技術(回線交換ではなくパケット交換)による設備だから、大丈夫さ」
意見B:「いや、シェアを取れば、いずれ儲かるから大丈夫さ」
意見C:「いや、鉄道が儲からなくても、そのおかげでホテルが儲かるから大丈夫さ」
意見D:「いや、何か一つでも彼らのポートフォリオが成功すれば、大丈夫さ」
意見E:「いや、ソフトバンクのおかげで、ブロードバンドが普及したんだからOKなんだよ」

などなど。

ひとつ一つ解いていきましょう。

「意見A」について・・・

これは、確かに、既存競合他社に比べ投下資本を小さくする効果は絶大です。彼らが、自らの戦略に自信を持っている最も重要な根拠でしょう。

この意見を否定しませんが、資本コストが上昇した分以上に、投下資本を減らせるのかどうか・・・僕にはわかりません。

「意見B」について・・・

SMUにて何度も書いたように Get Share at First , Profit Later は、ベンチャーの常套手段です。しかし、これが通用するのは、コモディティー(ありふれた)商品ではなく、排他的商品の場合に限ります。

ちなみにブロードバンドなど明らかにコモディティー商品です。

そのブランドを使う感覚を利用者が得るのは、毎月の請求書を見るときだけです。(だから利用者が、他者のサービスに乗り換えるのは面倒という排他性は否定しません)

つまり、ブロードバンドとは価格競争以外の何者でもなく、利幅は薄いというわけです。さらに、電線ネットの登場がすでに騒がれているように、おそらく将来にわたって、新しい技術が次々に登場するでしょうから、いつまでも投資額を減らすことができないと思います。

「意見C」について・・・

確かに、鉄道(ブロードバンド)のおかげで、ホテルは儲かるようになりました。

しかし、そのホテルは、必ずしもソフトバンクグループとは限りません。アメリカでは、既にGoogleがYahoo!のシェアを上回っています。

つまり、ソフトバンクによる格安高速鉄道の効果は、彼らのグループ企業以外にも提供してしまっているわけです。

さてここで、(ホテルよりは)儲からない鉄道の敷設費用を負担をしているソフトバンクと、ホテルだけを経営するその他の企業の場合、どちらが資本コスおよび運用利回りで有利でしょうか?

これは考えるまでもありません。

もし、ソフトバンクが、ソフトバンクの鉄道を利用している人にだけ、何らかのコンテンツを提供するとなれば(即ち、商品の垂直統合)、今、彼らが消費者を味方につけ、価格破壊を起こしている根本的なイイワケ(NTTによる独占)が通用しなくなってしまいます。

「意見D」について・・・

確かに大当たりするものが出てくる可能性はあります。ですが、ほとんど博打の世界ですよね。

彼らが、博打に頼らなければならなくなったのは、彼らの資本コストが高いからに他なりません。そして、その資本コストが高い理由は、「急ぎすぎる」からです。

「意見E」について・・・

これについては、何も申しません(笑)

結果、いつまでもソフトバンクによる日本経済の活性化を続けていただくためには、もうちょっとゆっくりやってもらう必要があるってことになるわけです。

僕は、孫正義を好きではありませんが、だからと言って、彼らに失敗して欲しいわけではありません。

最後に思いついた、ソフトバンクの大成功シナリオを一つ・・・・

もし、政府が国債費を支払うために、お札の印刷を大量に行ったとしたら、ハイパーインフレを起こします。

あらゆる人の長期固定金利の円建て借金は、事実上チャラになります。
(変動金利の人は、チャラになりませんよ、ハイパーインフレによって、金利高騰しますから)

そして、在外資産(海外にある資産)を持っている人は、チョ~!オカネモチになります。

なるほどぉ~、ソフトバンクは、在外資産をたくさん持っています。

その危機が目の前にやってきたら、ソフトバンクへの投資で、事実上のキャピタルフライトできますね(笑)

一人で納得して終わります。

2005年2月9日 板倉雄一郎

PS:
もう一つ、フィクションを・・・(これ本当に、フィクションですからね)

影のドン:「何とかタンス預金とアングラマネーをあぶりだす方法は無いものか?」
ドンの秘書:「新札だけしか強制流通できないように、しますか?」
ドン:「ばか者、そんなことしたら、大騒ぎになるぞ」
秘書:「それじゃ、偽札事件を起こしますか」
ドン:「それはどういう意味だ」
秘書:「いや、旧札は新札に比べて偽造が簡単ですから、旧札の偽札事件を起こして世間を騒がせます」
ドン:「なるほど、それで?」
秘書:「そうすれば、偽札防止策として、旧札の流通を止めるという言い方が出来るじゃないですか」
ドン:「確かにそうだなぁ」
秘書:「やりますか?」
ドン:「バレないように出来るか?」
秘書:「何とかなりますよ」
ドン:「でもそれって俺のタンス預金も、吐き出さなければならないってことなのか?」
秘書:「そういうことになりますねぇ」
ドン:「大馬鹿ものぉ~っ!」
秘書:「す、すいませ~ん。僕は、もう「金」に代えているものですからぁ~つい…」

(しつこいようですが、本当に、思いつきの作り話ですからね。)





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