板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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KISS 第114号「鶏と卵」

「株式を上場する以上、株主の便益を考慮できる経営者になる必要がある」
なんて主張は、あまり役に立たない・・・と、最近思うようになった。

なぜなら、その「おめでたい経営者」を選んでいるのは、他ならぬその企業の株主だからだ。
当該企業の支配的株主であれば、当然、経営者を実質的に選択することが出来るし、
少数株主であっても、投資先企業の経営者が「おめでたい経営者」であることに気が付けば、さっさとその企業の株式を売却し、「全うな経営者の経営する企業」への投資に切り替えればよい。
ただ、それだけのことだ。

つまり、経営者を批判したり、教育したりするより、投資家がファイナンスの知識を持つほうが、結果として「全うな経営者」が生き残り、「おめでたい経営者」が市場から去ることになるであろうということだ。

このところ、当事務所のセミナー卒業生からの個別相談には、ある共通点がある。
ベンチャー企業に転職した卒業生のある女性は・・・
「うちの会社の社長と一度会っていただいて、板倉さんの評価を聞きたい」
また、別の卒業生の女性の方は・・・
「うちの社長、IPOだけが目的のようで、その意味がわかっていないような気がします。
継続可能な価値配分のバランスなんてわかっていないように思います。」
このような相談が、最近急増(?)しています。
また、多くの卒業生の感想に・・・
「セミナーを受講したら、企業価値評価ができるようになったが、それ以上に、世の中の見方が変わった・・・TV広告を見ていても、企業の決算発表を見ていても、普段の生活をしていても、一つ一つ経済的側面を考えるようになった」

つまり、投資家や従業員が、ファイナンスの知識を身につけることが出来れば、「おめでたい経営者」は、おめでたいままでは居られないってことだ。

不思議なことに、(上場企業を含む)経営者に、(個別指導を含む)セミナー受講を勧めても、多くの場合、「そのうちね」って反応。
もちろん、僕が直接会話し、「知識不足」を感じた場合にセミナーを勧めるわけですが、彼らは積極的ではない。
案の定、そのような経営者は、おめでたいオペレーションを繰り返している。
最近も、また一つ、(ゼロクーポンの)MSCBによる資金調達によって、M&Aを実施した企業が目にとまった。
友人の経営による企業である。
時価発行増資だって十分に可能な経営状態なのに・・・・
詳しく書こうかと思ったが、以上の理由から、書くのを止めた。

政治についても同じことが言える。
批判すべきは、政治家そのものではない。
彼らを選んでいる有権者自身の問題だ。

何度も書いていることですが・・・
税は、今現在の国民に対する負担であり、
国債は、将来の国民の負担。
国の借金(=国債)は、一般歳出を賄うほどの税収が無いから積みあがる。
つまり国の借金が積みあがったのは、これまでの納税者(=有権者)が、増税を嫌がり、増税を行わないと主張する候補者を選択した結果である。
(もちろん、無駄遣いを止めるなんて事は、当たり前だ)
そして、国債の債権者の多くは、過去の「増税反対者(=必要な税負担を将来の国民に押し付けてきた人」だったりもする。
これ以上は、表現を慎みますが、何を言いたいのかお分かりですよね?

要するに、
国家財政の危機的状況においても、有権者の経済的なリテラシーの不足が招いた結果であり、
株式投資が「博打化」したのは、投資家の経済的なリテラシーの不足が招いた結果である、ということだ。

「インチキ金儲け」や、「インチキ政治屋」を根本的に排除するためには、国民全体のフィナンシャルリテラシーの向上が必須である。
僕は、地道に、今の活動を続ける。
小さな力ではあるけれど、いずれバイラル的にその効果が広まるであろう・・・僕はそう信じている。

経営者と株主、または従業員のどちらが鶏で、どちらが卵かわからない。
有権者と政治家、どちらが鶏で、どちらが卵かわからない。
しかし、傲慢で自己実現だけが目的の人間に、「俺の話を聞けぇ?っ」って言うほど意味の無いことはない。
その知識が、自分自身のために必要だ、と思う人に伝えればよい。
そう思うようになった。

2005年8月29日 板倉雄一郎

PS:
8月27日(土曜日)は、当事務所主催「オープンセミナー」でした。
いらしていただいた方は、肌で感じることが出来たと思いますが、今回も満員御礼。
そして、懇親会もこれまで最多の人数。
多くの方に、お会いし、会話し、とても楽しかった。
セミナーに参加いただいた方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。
「ありがとうございました。皆様自身の生活のために今回の知識を是非生かしてください。」

PS^2:
尾骶骨の怪我は、ようやく収まりました。
今週より、「ほぼ」毎日のエッセイ更新をいたします。
よろしくです。

PS^3:
「実践・企業価値評価シリーズ」の次回合宿セミナーは、9月24?25日です。
まだ席は空いております。
ご興味のある方は、是非御申込ください。
皆さんにお会いし、2日間を共に過ごすのを楽しみにしています。





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