板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  Keep it simple,stupid  > KISS 第93号「リスクとリターン」

KISS 第93号「リスクとリターン」

本日(6月30日)は、一年の折り返し日ですね。
皆さんの、この半年間はいかがでしたか?
僕の場合は、表面的な表現方法としてのバリュエーションセミナーと、それに関連する活動に明け暮れました。
ですが、本質的には、日本の教育制度に対する批判と、その代替としての活動でした。
批判ばかりでは意味が無いですよね、批判の上で、「だからこうすればよいと思う」を自ら実践することに価値があるのだと、勝手に思っています。

<人間の脳の効率>

人が何かを学習するためには、「繰り返しやるか」、「痛い思いをするか」のどちらかが必要ではないかと、思うわけです。
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」とは、良くいわれますが、(もちろん僕の場合、後者ですが)前者になるためには、既知のことについて、繰り返し学習することによって、同じ事を、「経験した状態」に近づけるのではないかと思うのです。
ただし、他人に何かを説得するのは、経験を持っている人に軍配が上がるとは思います。
「経験者は語る」とか「経験のなせる業」との言葉があるように、人は、経験を尊重する傾向にありますよね。

この部分だけ見ると、人間の脳って、結構効率悪いんですよね。
たとえば、くだらん事と思ってしまったことに対しては、それを記憶することが必要だとわかっていても、なかなか覚えられないじゃないですか・・・たとえば、歴史の教科書に出てくる「年号」などは、少なくとも僕の場合、「くだらんこと覚えさせやがって」って思うわけです。
でもいわゆる現在の教育制度の下での「学歴」のためには、そのくだらんことが必要ですよね。
でも、覚えられないか、または、覚えるために、いろいろ苦労するわけです。

僕は、年号ばかり暗記させる歴史の授業と試験が大嫌いでした。
歴史について重要なことは、年号ではなく、「ストーリー」なのだと思います。
人と人、人と自然が干渉しあった結果のストーリーを教えてくれるのであれば、興味深く知りたいと思いますよね。

実は、人間の脳って、生きていくために本当に必要なことに関しては、実は効率的なのだと思うのです。
上記の年号の例は、生きていく上での価値判断として「くだらん」と思うことに、大切なメモリーを消費しなくて良いという効果もあります。
メモリーすることが、メモリーの消費ではないとしても、「雑音」ばかりが頭の中を占めてしまえば、もしかしたら、重要な判断を間違える可能性がありますよね。
感情とか感覚という、人の脳の優れた処理結果を信じることを、雑音が邪魔するのではないかと思うのです。

仮に以上のことが正しいとすれば、問題は、何を「くだらん(=興味がない)」と判断したり、何を「価値がある(=興味がある)」と判断するかという価値観ではないでしょうか。
自らがハッピーな人生を送るために必要な価値観は、自らの精神から生まれると思うのです。
絶対的な解は無いでしょう。
人それぞれですからね。
ただ、雑音に翻弄されたくはないと、僕は思います。

「学習すると良いことがある」なんて教え方じゃ、学習が嫌いになりますよ。
学習しようとする対象そのものに興味が無ければ、学習は続きません。

<リスクとリターン>

たとえば、バリュエーションにおいても、極稀にではありますが、「これを学ぶと、いくら儲かるのか?」って質問を受けることがあります。
このような質問には、「学習の度合いも、儲けも、あなた次第です」って答えています。
さらに、僕の場合、いわなくてもいいことを言ってしまうのです・・・「あなたにはバリュエーションの学習は向いていないかもしれない」と。
つまり、「儲けよう」という動機だけでは、バリュエーションは学習できないのです。
(また同じように、「儲け」にだけ興味があるから、「沈没船の引き上げ」なんてインチキ話に、金を出す人がたくさん現れるのです。)
企業の経済価値創造そのものに興味を持ち、知ることそのものに達成感を感じなければ、本質を知ることは出来ないのです。
物事の本質を得られなければ、自分の生きている意味さえわからないと思うのです。
企業価値創造メカニズムを学習するなんて事は、世の中の仕組みを知る上での「導入」に過ぎません。この導入から、人生にとって重要な示唆が得られるというわけです。
もちろん、株式投資にも直接生かせますが、そんな「部分」ではなく、全体が良く見えてくるのです。

だから、我々のセミナーでは、僕自身やパートナー、そして卒業生のパフォーマンス(=投資利回り実績)を公表して、セミナーの「ちょうちん」にするようなことはしていません。
(そもそも、バリュー投資における短期でのパフォーマンスは、「運が良かった短期トレーダー」のそれには及びません。バリュー投資は、複利の効果が最大の利点です。)
そもそも、本質的に、パフォーマンスとは、「どれほどのリスクを取った結果なのか」という因数が無ければ、評価のしようがありません。
宝くじで当選すれば、900円(前後賞含むので3口)の投資に対して3億円のリターンですから、ずば抜けたパフォーマンスですよね。
でも期待値45%(=宝くじは、買った瞬間に投資額の55%を失います)の過大なリスクを取った結果であることを忘れてはなりません。
世の中、リスクとリターンは表裏一体です。
ただし、「リスク =< リターン」とするためには、学習するしかないのです。
学習無しでは、本人が「リスク = リターン」だと思っていても、
多くの場合、「リスク > リターン」なのです。

2005年6月30日 板倉雄一郎

PS:
7月開催の合宿セミナーは、あと10席ほどの空きがあります。
8月の合宿セミナーは予定していません。
ご興味のある方は、この機会に是非。





エッセイカテゴリ

Keep it simple,stupidインデックス