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KISS 第83号「将来業績予測(その1)」

将来業績予測と資本コストの算定ほど難しいものは無く、同時に投資家から見た企業価値に、これほど大きなインパクトを与えるものはありません。
っていうか、将来業績予測と資本コストの推計が、企業価値のすべてとって言っても過言ではありません。
しかし、このどちらの因数も、非常に多肢にわたる考察によって、初めて算出できます。
算出できたとしても、それが「当たり」かどうかは、時間の経過を待つまでわからないのです。

さて、手始めに何をやるか・・・というか最低これだけはやらないとね・・・とは・・・
「温故知新」です。

スタートアップしたばかりのベンチャーならともかく、企業業績は、「ある日突然劇的に変化する」なんてことは、ほとんどありません。
仮に、会計上の利益が、ある期、または、ある月から、突然変化したとしても、それには、それなりの原因が必ずあります。
たとえば、過去に行った資本的支出なり、経営改革なりが原因として考えられます。
もちろん、当該企業を取り巻く資本市場や商品市場の環境の変化も考えられます。
これらをつぶさに見ていくことは、将来業績を占う上で、非常に大切なことですが、同時に非常に難しいことです。
よって、最低限やるべきことは、当該企業の過去の業績の「推移」を見ることです。
過去の業績の「推移」は、既に起こってしまったことなので、割と簡単に算出できますし、同時に、将来業績を占う上で、非常に参考になります。
しつこいようですが、すべての結果には、間違いなくその原因が潜んでいます。
その原因の一つが、過去の業績推移と言うわけです。

過去の業績分析において、僕が最も重要視するのは、「資金回転率」です。
「投下資本利益率」とも表現することが出来ます。
どちらも、本質的な意味は全く同じです。
投下資本利益率(=以下ROIC=[営業利益*(1?税率)]/投下資本、投下資本=株主資本+有利子負債)は、当該企業のビジネスモデルの効能を如実に表現する数値です。
たとえば、インフラ事業のように、比較的投下資本の大きなビジネスモデルの場合、当然ながら、ROICの分母が大きくなりますから、ROICは低下します。
また、コピーライトが利益を生むようなビジネスの場合、商品需要さえ大きければ、投下資本が一定で、営業利益が増大しますから、ROICは上昇します。
異業種を、単純にROICで比較することによって、どちらの企業が優れた「儲けパワー」を持っているかを判定することは出来ませんが、同じ商品郡を提供する企業の比較の場合、ROICはとても重要です。
また、仮に減収減益基調であったとしても、その減益以上に投下資本が減少していれば、ROICが向上する場合もあります。
当該企業が、その成長ステージ(スアートアップ?成長期?成熟期?衰退期)のどこに位置するのか、はたまた当該企業の属する産業分野そのものが、どの成長ステージに位置するのかによっても、ROICの判断は変わってきます。
ROICとは、つまり、「その利益を得るために、どれほどの元手が必要だったのか」を示す指標です。
同じ利益を得るために、より小さな投下資本で得たほうが、良いですよね。言うまでもありません。

いずれにしても、同分野の複数企業の過去のROIC「推移」を見ることは、どの企業が最も強力な「儲けパワー」を持っているのかを探る上で、非常に大切です。

たとえば、KDDIを見てみましょう。
この企業の場合、過去5年間ほど、そのB/Sは、毎年小さくなっています。
つまり、投下資本は、減少しています。
一方、営業利益は、過去5年間ほど、上昇を続けています。
ROICを算出する分母が小さくなり、分子が大きくなっていると言うわけです。
当然ながら、ROICは急速に上昇しています。
投下資本が小さくなる場合、市場占有率が低下したり、そもそもその市場から逃げ出そうとする場合も考えられますが、この企業の場合、投下資本が小さくなっている割に、ケータイの市場占有率の変化を図る「純増数」は、業界トップだったりします。
また、商品そのものが、投下資本が減少したことによって、「つまんねぇ?商品」になっているとは、少なくとも僕は思いません。
つまり、この企業の「儲けパワー」は、他のケータイキャリアより、非常に力強いと思います。
皆さんも、是非、KDDIの過去業績分析をやってみてください。
エクセルを使って、グラフなんかにしてみると、その「推移」が非常によく判ると思います。
一方、株価は、このところ下げ続けています。
株価が下がれば、株価が下がる前の時点で予測した将来業績と大きな違いが生まれないと予測する投資家にとっては、リスク認識は同じなのに、利回りは増える可能性があります。
つまり、投下資本利益率は上昇し、市場占有率も徐々にではありますが上昇していると言うわけです。
後は、環境の大きな変化・・・新規参入およびナンバーポータビリティーというトリガーがどのように企業業績に影響するかがポイントとなります。

あのー断っておきますが、だから直ちに「買い」ということではありません。
ROICが高い、または、上昇傾向にあるということは、当該企業が経済価値創造を行う上で、プラスに働くと言うことであって、現時点での時価総額が「割安」ということを直接示すものではありません。
投資チャンスを見極めるためには、当該企業が生み出すであろう将来キャッシュフローを(たとえばROICと資本的支出、たとえば市場規模と市場占有率、たとえば競争優位性などによって)予測し、その結果を当該企業の資本コストで現在価値に割引き、さらに純有利子負債を差し引いた「理論株主価値」と時価総額の比較を行う必要があるわけです。
ただし、これは、あくまで「投資チャンス」を見るためのもので、投資チャンスを見る必要のある企業を見つけ出すために、過去のROIC推移が重要であると言うわけです。
(いくら割安と判定できても、当該企業のROICが極端に低ければ、裁定余地があるだけで、その後の株価上昇は期待できません。)

御時間があれば、KDDIとその競合、または、これから競合になろうとする企業の過去のROIC推移をざっくり見てみることをお勧めします。
結構びっくりするぐらいの差がありますよ(笑)

ということで、「将来業績予測シリーズ」は、また気が向いたときに第二段を書いてみますね。

今日は、このあたりで。

2005年6月9日 板倉雄一郎

PS:
6月25?26日開催の「実践・企業価値評価シリーズ・合宿セミナー」は、あと数席の空きがあります。
ご興味のある方は、この機会に是非。
ディスカウントキャッシュフローである以上、可能な限り早い時期に習得することが、他の何よりも重要だったりします。
脅かすわけですが(笑)、卒業生の多くは、「今まで、よくもまぁ、投資だの経営だのしていたものだ」と感想を述べられています。





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