まずは、臨時アップデートです。
このところ、メディアから「ライブドア vs フジサンケイグループ」事件に対する、コメントを求められる機会が多いです。
ですが、そのほとんどをお断りしております。
なぜなら、そもそも「ライブドア」や「フジサンケイグループ」などという主体は、この世に存在せず、あるとすれば、それぞれの「株主」という主体です。
それと「従業員」という主体も存在します。
が、経営者は株主の代表ですから「株主」という主体の中に含まれてしかるべきです。
よって、そもそも「ライブドア vs フジサンケイグループ」という前提がオカシイわけで、その上でのコメントなどしようがありません。
大切なことは、それぞれの株主に対する便益をその経営者がどれだけ重視しているかどうかということです。
詳しくは、企業買収に関するエッセイをご参照ください。
⇒ SMU 第137号「誰と誰が敵?」
それでは、以下本題です。
「不毛な議論」を避けるために、最初にお断りしておきます・・・。
これから書く文章は、「シナジー効果などありえない」という主張ではなく、「企業買収時における、高額な“のれん代”や調達資本のコスト増の根拠としての『シナジー効果』は、合理的な範囲に収まらないケースが多い」と主張したものです。
つまり経済学の言葉を利用すれば・・・
純便益 = 総便益 - 総費用
であるときに、現在煩雑に実行されているM&Aは、果たして「総費用」以上の「総便益」を得られているのか?
という問題です。
もう一つ、最初に書いておきますが・・・
(ライブドアの“運用サイド”の話しです。)
ライブドアによるニッポン放送の買収が成功した場合、ライブドアとフジサンケイグループ企業のシナジー効果が全く発生しなかったとしても、リーズナブルです。
なぜなら、(村上ファンドが最初に実行に移したように)ニッポン放送は、その保有資産に比較して割安だからです。この点だけを見れば、堀江貴文の戦略は、そのイイワケとして彼が言うところの「ネットと既存メディアとのシナジー効果」など、言う必要もないということです。
(但し、しつこいようですがライブドアの“調達サイド”には、
KISS 第4号「株価と資本政策(ライブドア)」でも書いた通り、重大な問題がありますし、そもそも、フジサンケイグループに対する投下資本利益率がライブドアの資本コストを上回るのかどうかが、価値創造の点において重要です)
一方、ニッポン放送の経営陣は、このM&A時代の幕開けに、「ぼけぇ~」としていたんでしょう。(笑)
自業自得です。(メディアの経営者がなぜアホなのかについては、次回書きます。)
それでは、基本部分からです・・・・
まず、「企業買収(M&A)」とは、その言葉からイメージされることと、その実態は、ずいぶんと違うものなのです。
企業買収を、その実態で表現すれば・・・
「何かを手に入れるために、何か他のものを失う」ということに他なりません。例えば、現金による買収の場合、被買収企業を手に入れる代わりに、買収企業は現金を失うわけです。
また、(増資を伴う)株式交換による買収の場合、被買収企業を手に入れる代わりに、買収企業の既存株主のシェアが低下(=ダイリューション)するというわけです。
仮に、ダイリューションを打ち消す程度の投下資本利益率の向上が生まれたとしても、資本調達の時点で、資本コストが上昇している場合、その上昇分を更に上回る投下資本利益率が必要になります。
もし、買収手数料= 0.5、企業価値=1の企業が、企業価値=1の企業を買収する場合、その結果が、1+1= 2.0であれば、買収による純便益は「-0.5」となりますから、買収行為は意味がありません。
その結果、1+1= 2.5であるとすれば、このとき新たに生まれる価値部分「0.5」が、いわゆる「シナジー効果」というわけです。
が、このM&Aの場合、純便益=0 ですから、(裁定効果以外は)ほとんど意味がありません。
(これに意味があるというのであれば、日本企業は「株式持合い解消」などしなければ良かったわけです。)
1+1=3であるとすれば、このとき初めて、新しく生まれるシナジー効果「1」が、買収手数料= 0.5を上回ることが出来るので、買収の経済的価値が生まれます。
が、この場合の買収による純便益は、あくまで「0.5」に過ぎません。
総便益 = シナジー+被買収企業の買収前の実体経済価値 が、
総費用 = 買収価格(の資本コスト)+諸費用(投資銀行のフィー) を大きく上回るケースはほとんどありません。
つまり、概ね、当事者の予想より純便益は小さく、
多くの場合、1+1=2より少しだけ大きい程度というわけです。
(中には、1+1<2の場合もあります・・・。)
楽天のように、シナジーを得る具体的手段が、単なる「ポイント相互乗り入れ(=フライトマイルと商品購入時のポイントの相互乗り入れ等)」であるとすれば、買収による総費用は、その総便益に比べて実に割高です。
なぜなら、単に「ポイント相互乗り入れ」であれば、「アライアンス(提携)」で十分に実現できますし、提携の場合の総費用は、買収に比べて遥かに割安だからです。
さて、ライブドアによるフジサンケイグループの買収は(それが成功したとして)、果たして買収による総費用を上回る総便益を得られるのでしょうか?
読者の方には、申し訳ありませんが、こればかりは「分かりません」(笑)
感覚的には、ほとんどシナジーは起こらないのだと思います。
なぜなら、航空会社の買収が、労働組合の妨げにより成功しないのと同様に、メディアの製作者は、航空会社のそれ以上に、強烈な個性があるからです。
なんだかんだ言ったところで、飲食店は「味が命」ですし、メディアは「コンテンツが命」ですし、あまねく経営者の仕事は、「株主資本の管理」なのです。
2005年2月14日 板倉雄一郎
PS:
これまた、面白「フィクション」です・・・
ライブドアによるニッポン放送の買収騒ぎの影で、ライブドアを買い進めている人が居たら、おもろいですよね。(笑)
もし仮に、ライブドアのニッポン放送持分に村上ファンドからのニッポン放送株の譲渡が含まれていたとしたら、尚更面白いです。
村上ファンドが、この取引で得たお金で、ライブドアを買い進める。
もしくは、ライブドアによるMSCB発行によって、ライブドアの株価が下落したときに、村上ファンドが、ライフドアを買い進めたら、面白すぎます。(笑)
いや、村上ファンドは、フジテレビを買い進んでいたりして・・・これも面白いですねぇ。
以上、PS部分は、僕の勝手な思いつきの、デッチ上げですからね。