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KISS 第16号「騒動総括」

週末は、エッセイお休みのはずなのに、書いてしまいます。
ただ、これにて「ライブドア関連」は、よほどのことが無い限り、お終いってことです。

僕が、この件を、ケーススタディーの面白い例として書いてきた主な理由は・・・
1、 メディアの番組組み立てと、コメンテーターがアホ過ぎることによって、視聴者がミスリードされる心配。
2、 堀江のような者に、若き起業家がミスリードされる心配。
3、 折角の機会なので、ケースとして利用して、読者のフィナンシャルインテリジェンスの向上を狙う。

という理由からでした。
ですが・・・
1、については、ようやくマスメディアが「我々ではどうにも判断できない」と思ってくれたらしく、そこそこまともなコメンテーターが画面に出るようになったので、もうそろそろええかってことです。
(未だに「VS」という構図から離れられないで居るのは、問題ですけどね。)
2、については、何も僕がここで騒がなくても、彼の失敗は明らかですから、もうええです。
(彼が失敗すると言う理由は、後述)
3、これは、この数週間で、十分進んだと思うので、OK。(後は、セミナーで深く知る)

なので、今回のエッセイで、一旦中締めってことで・・・

さて、ライブドアは、この先、今見えるシナリオのどれに転がっても、失敗です。
なぜなら、そもそも支配と経営を目的にした企業買収が成功するには、被買収企業の従業員の賛同が必要になるからです。
この点、フジサンケイグループ企業の人間が、
「筆頭株主の堀江様が、こんな番組を欲しがっているのですから、作りなさい」なんて言われて、
「はい、首領様!」なぁ?んて、おいそれと従うわけ無いじゃないですか(笑)
メディアとは言うけれど、つまるところ「コンテンツ制作配信」なわけですから、そこで働く「人」を取ってしまったら、ただの電波使用権とスタジオ設備しか残らないのですよ。
電波使用権やスタジオ設備には、価値がありますが、価値創造は行わないのですよ。
堀江は、「金で人の心も買える」と豪語しているらしいですが、
それで買えるのは、「買った時間の間の娼婦」だけなのよ。
彼女たちは、売った時間については、本物の恋人以上に振舞いますよ。
しかし、時間が切れたら、「お客様」と「娼婦」に戻るんですよ。
百歩譲って、人の労働力なら金で買えるとしましょうか・・・
この場合、堀江君の思い通りに、買収後の企業を経営するためには、
「従業員の給与を2倍とかにしなければならない」ってことですよ。
株式を手に入れるために大枚はたいたとしても、従業員の報酬には変化ないですからね。
ちなみに、従業員の給与を増やせば、企業価値は減少します(笑)

法律や司法の問題ではないのです。
実体経済価値とは、あらゆる要素が組み合わさって生まれるものなのです。
適法だから、とか、判決がどうだからだとか、そういうことじゃないのですよ、経営ってのは。
アメリカ式だとか、日本式だとか、そういうことでもないのですよ。
アメリカだって、航空会社の買収の場合、買収そのものは成功しても、その後の経営は、その労働組合の反発で成功しない事例が多いのですよ。
彼らは、その辺、よーくわかっていて、買収後の実現性の高い戦略まで、しっかり具体的に練ってから、その「手段」として買収を開始するわけですよ。
堀江君のような、メディアも、ジャーナリズムも知らない人間が、思いつきでやっても、うまく行くはずないのです。

もしライブドアの買収が成功したら、フジサンケイグループ企業の優秀な人間だけ集めて、あたらしいメディアを始めてしまえばよいのです。
しばらくは、過去の遺産(著作権など)から生まれる恩恵を受けられない企業となりますが、そもそも、ネットの出現によって、メディアの構造が大きく変化する時期ですから、過去の遺産なんて、長期で見れば、大したモノじゃないわけですよ。
(ちなみに、民放TV局の番組著作権は、スポンサーなどの絡みが複雑極まりなく、直ちにネットで公開して換金するなんてことは、出来ないんですよ。)

それから「企業価値」だの「株主便益」だのが騒がれていますが・・・
そもそも、現時点での彼らの企業の株主って、どんな人?
少なくともバリュー投資家じゃないでしょ。
おそらく、両社の場合の一般株主のほとんどは、すでに個人「投機家」の集まりじゃないの?
彼らは、企業価値創造なんてどうでもよくて(そもそも、企業価値評価の方法なんて知らないわけですからね)、今日買って、明日売って、儲けられるかどうかだけしか考えてないでしょ(笑)
呆れた経営者には、呆れた投機家ばかりが集まるのですよ。
それだけで、(WACC上昇によって)企業価値は破壊されるのですよ。

もう一つのストーリーを書きましょうか・・・
ライブドアが、ちょうど良い頃に、手打ちをし、フジテレビのTOBに応じる。
実は、これがライブドアにとってベストなのですけど、それでも堀江君を含めたライブドア株主の損失は大きいのです。
ニッポン放送の株式取引によるキャピタルゲインが出たところで、その代償として、多くの新株を発行するハメになったわけですからね。
つまりダイリューション(希薄化)を免れないということです。
何度も書いていることですが、経営や投資の成否を握るのは、
その資金の「運用側」ではなく、資金の「調達側」なのです。
(詳しくは、SMU第177号をご参照ください。)

それでは、各方面に対しての感想をまとめて、終わりにしましょう・・・

「堀江君」・・・
まず、あなたが金で買っている、ライブドアの取締役を替えましょうね。
あなたの助けには、なっていません。
(詳しくは、KISS第9号「不公平とは」をご参照ください。)
そして、ここは、一旦、手打ちをして引きましょう。
そうでなければ、泥沼ですよ。
買収そのものが成功しても、ながぁ?い失敗の始まりになるよ。
もういいじゃないですか、十分日本経済のインチキさへの刺激になったのですからね。
その点は、高く評価します。
が、MSCB発行前の株主が、まだ残っていたとすれば、彼らに対する償いは相当大変ですよ。

堀江君の言うところのネットとテレビの融合についてですが・・・
なんだか言っていることは、単にTVの通販化でしょ(笑)
それが、そんなに価値を生むなら、買収後の経営者を、
「ジャパネット高田社長」にしましょうね(笑)
あなたがやるより、ずっとうまく行きますよ。
そもそも、そんなもん「地上波デジタル」で、解決でしょ。

うちの親父がいい事言ってましたよ。
「堀江は、お前のあの頃に、そっくりだ」ってね。

「フジサンケイグループ経営者」・・・・
あなたたち限らず、お爺さん経営者は、マヌケだよ。
それでも経営が成り立ってきたのは、経営力じゃないんだよ、従業員と関連企業のコンテンツ製作能力なんだよね。
ただ、そのコンテンツ制作能力は、経営経済分野の番組には、通用しないようですが・・・

「民放TV局を中心としたメディア」・・・
「VS」という構図からは、大切なことが見えないのだから、もうちっとまともな番組の作り方をしましょうよ。製作能力の基本的なところは認めるけど、経営や経済の話しになると、いきなりトンチンカンになるんだよね。
いくらコメンテーターを連れてきても、
いくら経営者を連れてきても、ぶつける質問があれじゃぁ?ねぇ?。
彼らの番組のほとんどは、サッカーに例えれば・・・
「オフサイドルールの説明」(爆)ばかりだよ。
貴重な電波を使って、新株予約権だの、ダイリューションだのの説明ばっかりだよ。
もっと、本質的な議論をしないとね。
特に田原総一郎は、まずいね。
不得意分野なのだから、無理して司会しなくてもいいのにねぇ。

「リーマン&村上ファンド」・・・
さすがです(笑)
はなからデキレースですからね。
それも、最も面倒な買収行為そのものは、堀江君にやらせるわけだから、賢いよ。
でも、ケーキは、何度も配られるんだよ。
(KISS第12号をご参照ください。)
今回、大きなケーキ片を得たとしても、「もし」日本に賢明な投資家が増えれば、次からは、大きなケーキ片はいただけないよ。
みぃ?んな、今回で「誰が一番得したか」は、しっかり理解した(?)はずですから。

村上ファンドにとってみれば、「ニッポン放送株」を買ったはいいが、どうやってキャピタルゲインを出すかという点で、悩んでいたのでしょう。
そして、その答えを、同じビルにオフィスを構える若者を、そそのかすことに見出したのではないでしょうか。
そして、百人力のキーワード「株主価値」を持ち出せば、一見「全うな投資家」に見えますからね。
単なる投機家なのにね。
でも、さすがです(笑)
勉強になりました。

「民主党」・・・
いよいよ民主党も、昔の社会党のように、
「とにかく、自民に反対意見を言えばよい」的になってきてしまいました。
手遅れになる前に、岡田代表を降ろさないとまずいですね。

「自民党」・・・
??????

「そして僕」・・・
「社長失格」のくせに、生意気ばっかり言って・・・
でも、「社長失格」だからこそ、彼らの愚かさ(昔の自分の愚かさ)が、良くわかるんですよ。

板倉雄一郎 2005年2月27日(休日バージョン)

PS:西武グループの問題の方が、はるかに重大な問題なのですよ。
彼らのやっていることは、商法だか、証券取引法だか知りませんが、
要するに「会社ぐるみの詐欺」以外の何者でもないでしょ。
西武グループの問題は、1985年あたりから、日経によって暴かれていたのにも関わらず、彼らの経営者も、取り締まるべき当局も、放置していたんですからね。
まあ、金があるうちは、当局も見てみぬ振りをしていたのでしょう。
でもって、彼らの金がなくなってきたのを機会に、動き出したのでしょう。
世の中、そんなもんです。
そんなもんですが、そんなもんでは困るので、これをライブドア以上に取り上げて欲しいものです。
メディアよ、しっかりしてくれ!





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