板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  Keep it simple,stupid  > KISS 第87号「投資すべき会社とは?」

KISS 第87号「投資すべき会社とは?」

その昔(いや、今もかな?)、「自分が(消費者として)良い商品を提供していると思う企業の株を買いなさい」なぁ?んて、「株式投資の教え(?)」がありました。
結論から書いてしまいますが、これ、嘘っぱちです。

「良い商品」の定義にもよりますが、この表現には、「良い商品を安く」という意味が含まれて居ます。
なぜなら、どんなに便利で、どんなに優れた商品でも、それが価値に対して相当に高価であれば、「良い商品」には成りえないからです。
少なくとも消費者から見た良い商品とは、その価値に対して「安い価格」が付けられている商品の場合が多いですよね。

ところで、「価値に対して相当に安い商品」を提供するということは、企業の仕組みから考えて、どのような効果があるでしょうか?

KISS第48号「会社は誰のもの」にて書いたように、企業は「モノ」ではなく、「仕組み」です。
あまねくステークホルダーが、それぞれの持てる価値を企業に提供し、企業という仕組みの中で経済価値創造を行い、その結果得られた経済価値を、提供した価値に応じて分配する仕組みです。
従業員は、労働力を提供する見返りに、賃金を得、
取引先は、原材料を提供する見返りに、売上を得、
債権者は、資金を融資する見返りに、金利を得、
投資家は、資金を投資する見返りに、キャピタルゲインやインカムゲインを得るという仕組みです。
この視点では、「顧客」も、その例外ではありません。
顧客に、「安く商品を提供する」ということは、当該企業による「顧客への配分」が大きいということに他なりません。
たとえば、100円程度が打倒な商品を、50円で販売する場合、顧客は100円相当の価値を手に入れるのに、50円しか払わなくて良いわけですから、顧客は50円分の「配分を受けている」ということになります。
つまり、他のステークホルダーが、本来受けるべき経済的配分を減らして、顧客に配分したということに他なりません。
多くの場合、このツケは、株主に回ってきます。
なぜなら、
従業員など債権者は、その配分の条件を契約書にて約束されていますから、少なくとも短期では、そのツケは回ってきません。(もちろん、長期では、従業員の場合、首を切られるというカタチで、そのツケが回ってくる場合がありますが、少なくとも既に行った労働に対する債権は保証されます。)
取引先は、無理やり安い値段で原材料を提供せざるを得ない場合がありますが、この場合も、回帰的に「取引先の株主」にツケが回ってくるわけです。
(もちろん、この逆に、企業の経済的付加価値が増えれば、株主に多くの経済価値が配分されます)

以上の文章で誤解されることを恐れ、一応書いておきますが・・・
当該企業の経営努力により、生産効率が競合他社より優れている結果として、安くて良い商品を提供できている場合は、顧客が不当に多くの配分を受けているということには直結しません。
また、この場合、「安くてよい商品」のおかげで、市場占有率が上昇し、企業価値が高まり、少なくとも長期では、株主に対する経済価値の配分は増える場合があります。

さらに、「じゃあ、高い商品の値段をつける企業の株が買いなのか?!」と早合点されても困ります。
ブランドなり、特殊な技術なりが「高い商品の値段を維持する根拠」である場合は、確かに「高い商品の値段」を継続できる場合がありますが、何の根拠も無く「ただ高い商品」では、そもそも売れないですから、話しになりません。

以上の話から、不思議と「経営者の仕事」が明確になります。
つまり、経営者の仕事とは・・・
1、 必要な経営資源(人、モノ、金、情報、時間)を、打倒な価格で調達し、
(この調達の時点で、配分は既に始まっているということです)
2、 調達した資源を基に経済価値創造(生産活動)を行い、
3、 得られた経済価値を、ステークホルダーに配分する。
という繰り返しを、「如何にバランスよく実施するか」ということになります。

ここで言う「バランス」とは、何に対するバランスなのかといえば・・・
「継続可能なバランス」ということに他なりません。
たとえば、
不当に安い商品の値段を設定すれば、一時的には商品が売れるでしょう。
しかし、他のステークホルダーの配分を削った結果ですから、長続きはしません。
特定のステークホルダー対して、過度な配分を行えば、長続きしないということです。
つまり、
「株主ばかり見ている経営者」もNG。
「従業員ばかり見ている経営者」もNG。
「顧客ばかり見ている経営者」もNG。
ということです。

ましてや、顧客に対する具体的な商品の構想が無く、従業員を納得させる具体的な事業プランも無い状態で、資本市場を自分の財布と勘違いし、既存株主の犠牲を強いるMSCBのような資金調達を行うような経営者は、まさに「自分ばかり見ている経営者」といえるでしょう。
御話しになりません。
(ちなみに、MSCBの発行による資金調達は、その引き受けを行う証券会社に対する既存株主からの「不当な配分」ということに他なりません。しかも、その引き受け手は、一時的なステークホルダーであって、継続的な付き合いではないですからね)

話は、やっとこさ、最初に戻ります・・・

どんな企業に投資すべきか?
それはつまり、
「経済価値創造を継続して行えるバランス感覚を持った経営者の経営する企業」
ということになります。
そのような企業には、優良な顧客が集まり、優良な従業員が集まり、優良な取引先が集まり、そして優良な株主が集まります。
優良な株主とは、企業が生み出す経済価値以上に、短期でサヤを抜こうとする投機家ではなく、企業の価値創造と共に、「それなり」のゲインを得ようとする投資家のことを指します。
このような投資家が、当該企業の株主の大部分であるとすれば、もうお分かりの通り、当該企業の企業価値に大きなインパクトを与える「株主資本コスト=投資家の期待収益率=リスク認識」が適度な状態を保つことができ、企業の経済価値創造が継続されるというわけです。

ついでなので、書いてしまいますが・・・
商法的には、「株主が経営者を選ぶ」ことになっています。
しかし実態は、「経営者が、その振る舞いによって、同種の株主を引き寄せる」のです。

株式投資は、やはり、経営者を総合的に評価することが大切なのです。
いうまでもないことですが。

(もっと、いい会社教えちゃいましょうか・・・それは、
「どんな馬鹿が経営をしても、継続的に価値創造が出来そうな会社」ですよ。)

2005年6月16日 板倉雄一郎

PS:
自動車評論家の「福野礼一郎」という方、すばらしいです。
この方、「真の自動車評論家」です。
あまりにも「本当のこと」を書きすぎるので、自動車業界から、ほかされているという噂もあるらしいです。
僕は、このような方を、応援したいです。
(とは言っても、本を買うぐらいしか出来ませんが)
応援したい理由は、「まるで自分のようだから」です。
この方の書籍「自動車ロン」(双葉社)や「最後の自動車ロン」(双葉社)が、自動車評論の本当の話なら、
僕の発売予定の「おりこうさん と おばかさん」は、生活経済の本当の話。
本当の話を書くことによる「信頼と印税」の引き換えに、ほかされるんだよ(笑)
僕も、そのうちほかされるね、きっと(笑)
でも、いくら業界(ってどんな?)からほかされても、上場企業への投資は実施できるもんね!





エッセイカテゴリ

Keep it simple,stupidインデックス