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KISS 第86号「ミイラ取りがミイラに?」

東京証券取引所の上場に関して議論があります。
議論の内容に関しては、適当にメディアを探ってみてください。
要するに、株式上場審査を行う側の東証自身が上場することの条件循環に関する議論が主なものです。

東京証券取引所の上場そのものの是非を論ずる前に、そもそも株式上場とは何を意味するのかについて、「上場しなくても良い企業」という角度から考えてみたいと思います。

株式新規上場と、上場後の企業運営は、非上場企業に比べ、IRや財務会計などの作業も、コストもけして少なくありません。そのコスト以上の便益を、当該企業のステークホルダーすべてが得られる場合に限り、株式上場という「手段」が合理的ということになります。

上場しなくても良い(=しないほうが良い)企業・・・それは、儲かっている企業です。
これ、ホントです。
もっと具体的に表現すれば、当該企業が経済価値創造をするために必要な新規投資額(=資本的支出=投資キャッシュフロー)が、自らの事業が生み出すキャッシュフロー(=営業キャッシュフロー)を上回らない限り、つまり、自らの事業が生み出すキャッシュの範囲で、十分な投資が行える企業の場合、少なくとも財務的には、上場の意味はありません。
株式を上場するということは、(少なくとも財務的には)広く一般から資本を調達する代わりに、株主総会の議決権を譲渡するということに他なりません。
もっと簡単に言えば、
「資金を出してもらう代わりに、儲けの配分の一部を譲渡する」ということです。
外部からの資金調達の必要が無い者が、わざわざ資金調達して、その代わりに儲けの配分を渡そうとは思わないですよね。

たとえば、ある有名なファーストフードの日本法人の場合、「十分なキャッシュフロー」を自らの事業が生み出している間、この企業は、上場基準を十分に満たしていたにもかかわらず、上場しませんでした。その後、商品市場が飽和したころ(=成長の頭打ちが見えた頃)、「創業者や初期の投資家が利益を確定するため」に、上場を果たしたというケースがあります。
このケースでも、「儲かっている間は、その儲けを他人に渡すことなど馬鹿馬鹿しい」という判断が良くわかります。
「勝てば官軍」だそうです(笑・・・僕の最も軽蔑する考え方です)

たとえば、十分に稼いでいる企業の親会社が上場企業の場合も、子会社上場の合理的意味はありません。
十分に稼いでいる子会社の株式を、親会社が100%保有しているということは、子会社の生み出す投資家に帰属するキャッシュフローのすべてが親会社に帰属するということですから、わざわざ他人にその儲けを受け渡すような「子会社の上場」をする必要はありません。
(断っておきますが、以上の「たとえ」は、あくまで、投資C/Fを賄える営業C/Fを得ているという条件ですからね)

ところが、多くの企業は、以上のような「上場する合理性」が無いにも関わらず上場します。
その理由の多く(であって、すべてではありません)は、創業者や、創業時期からの投資家の「利益確定」にあります。
異論反論噴出しそうですが(笑)、まあ簡単な話、「てめえの儲けのために、資本市場を利用する」ってことです。
もちろん、「てめえの儲け」と、「資本市場の儲け」が同時に適うなら、どちらにとっても合理的です。
しかし、「てめえの儲けのために、資本市場を利用する」人は、その後も、てめえの儲けや自己実現のために、資本市場を、へーきで犠牲にします。
その証拠に、このところ新興上場企業の経営者は、既存株主の犠牲の上に成り立つMSCB(や、実質MSCB)を乱発しています。

で、彼ら「インチキ経営者」の常套台詞は・・・
「(株式を)買う人が、勝手に値段つけてるんだから、自己責任だ!しらねぇ?」というわけです。
つまり、てめえの儲けを、てめえの経営する会社の株式を第三者に「高値掴み」させることによって、得ているケースがあるというわけです。
挙句の果てには・・・
「違法じゃないでしょ!」となるわけです。

そういえば、僕が「朝まで生テレビ!」に出演したときも、ライブドアの資金調達に関して、「適法だから問題ない」的な発言が出ていましたよね。
あの瞬間、僕は、こう思いました・・・「ここは法廷かぁ?!」と(笑)。

つまり、企業経営、とりわけ上場企業の経営について論ずるとき、それが「適法か否か」なんて「低レベル」の話をしているのでは、御話しになりません。
上場企業の使命は、あまねくステークホルダーの経済価値を高めることにあるわけで、「適法なオペレーション」など、最低限の条件に過ぎないのです。

さて、東京証券取引所は、果たして同社の「営業キャッシュフロー」を上回る「投資キャッシュフロー」を必要としているのでしょうか?
もし、客観的に見て、その必要が無いとすれば・・・
「一体誰のための上場なのでしょうかねぇ???」
その答えは、東京証券取引所の既存株主が「誰であるか?」を調査すれば、簡単にわかります。

ミイラ取りが、ミイラになるのでしょうか?

2005年6月15日 板倉雄一郎

PS:
以上の文章は、「敢えて批判的に書いた」のであって、
当該企業のNPV(現在価値)相当の株価によって、市場流動性が高まること(=既存株主の持ち株の流動性を得ること)自体に対する批判ではありませんので、あしからず。
つまり、大株主や経営者による、恣意的な「高値を付けさせ売却する」や、「既存株主の犠牲を承知した上での資金調達」についての批判です。





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