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KISS 第4号「株価と資本政策(ライブドア)」

最初にお知らせです。
2月19日?20日実施の当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ」合宿セミナーの受付は、2月14日月曜日が申し込み期限です。ご興味のある方は、是非。
企業の仕組み、価値創造のメカニズム、価値算定の手法は、デイトレ情報のように、その場だけの情報ではなく、一生モノですからね。

以下、本題です。

サンデープロジェクト拝見しましたよ、ホリエモン。
あのぉ?、あなた自身が「穴熊」に見えるのは、僕だけでしょうか?
もしくは、村上さんに、そそのかされて、ウンコ踏んじゃったのでは?
それにしても、堀江君自身の自己実現のための「命がけ」は結構ですが、
あなたの会社の一般株主は、あなたの会社への投資で「命がけ」ではないはずですよ。
彼らは、自分の資産を増やしたいわけですよ。
それがうっとおしいなら、ライブドアの株式を、全部堀江君が買って、上場廃止にすればよいのです。
さすれば、何をやってもOKですよ。
戦国時代の「軍隊」と、現代の「上場会社経営」をごちゃ混ぜにしちゃ駄目だよ。
経営者の仕事ってのは、「株主資本の管理」が最重要なんだよ。

しかし、田原総一郎では、突っ込み無理ですね。
彼は、経済、経営、100%音痴ですからね。

ということで、まずは、基礎から・・・・・

話題の堀江貴文の経営によるライブドアについての報道を見ても、
ウォーレン・バフェット氏の経営によるバークシャーハサウェイの成功を分析する書籍に関しても、増収増益企業に飛びつく個人投機家の行動にしても、ある愚かな共通点があります。

それは、資本の「運用側」ばかりに注目し、それより遥かに重要な資本の「調達側」を軽視する傾向があるということです。

(ここまでで、わからない方は、
KISS第1号「急がば回れ」の前半部分、または、
SMU(スタートミーアップ)第177号「安く仕入れて(調達して)高く売る(運用する)」をご一読ください。)

今回のライブドアの場合・・・
「運用側」とは、すなわち「フジサンケイグループ(ニッポン放送)の買収」であり、
「調達側」とは、2月に発行した800億円のMSCB(転換価格下方修正付き転換社債)のことです。
どういうわけか、このMSCBに関する話題が、経済ニュース関連でも、あまり報道されていません。
ですが、これ、とても重要なのです。
(マイナーな日経金融新聞には、僕と同様の意見に基づく記事を見つけました。)

市場は、常に効率的ではありません。
よって、いくら経営者が努力し、企業価値を高めようとして、実際に高めていたとしても、そのとおりに株価は(少なくとも短期では)動いてくれません。
これをもってインチキ経営者は、
「市場が勝手に売買した結果だから、仕方ないよ」というわけです。
まあ、これについては、今回は、百歩譲って、よしとしましょう。
(本当は、全然「よし」ではないですけど、これは、また別の機会に)
しかし、経営者は、増資や自社株買いなどのタイミングを計ることによって、株主の便益を増やすことも、減らすことも出来るわけです。
たとえば・・・・
実体経済価値に比べて、株価が相当に低ければ、自社株買いを実施することはリーズナブルです。
当たり前ですが、自社であれ、他社であれ、
「支払った株価以上の価値を手に入れる」ことが出来るわけですからね。
また、
実体経済価値とほぼ同程度の株価での増資もまた、リーズナブルです。
新しく増資を引き受けた株主も、これまでの株主と同等の価格で、同等の株式を手に入れることが出来るわけですからね。
すなわちこれぞ「イクイティー・ファイナンス」というわけです。
しかし・・・
実体経済価値より相当に高い株価のときに、増資を実施すると、
それまでの株主にとっては好都合でも、増資を引き受けた新しい株主には、損です。
まあ、それがわからない新しい株主が悪いのですけどね。
また、
実体経済価値より相当に高い株価のときに「自社株買い」を行う経営者は、
ほとんど、いかれているとしか言いようがありません。
さらに、
実体経済価値に対して、株価がどうであれ、
同じ価値の普通株式を、特定の人にだけ、割り引いて売る場合、
その特定の人が、昨日までの当該企業に対する関与度合いに無関係であるとすれば、
(つまり、事実上の有利発行)
それがインチキでなくて、一体何なのでしょうか?
(既存株主がどういう影響を受けるのかピンと来ない方は、
KISS第2号「市場流動性」を参照ください)

ライブドアの今回のMSCBは・・・・
(ライブドアの発行したMSCBの概要は、KISS第2号にあります。)
それまでの同社株主が持っていたモノ(=ライブドアの普通株式)と
「全く同等のリスクのモノ(=ライブドアの普通株式)」を
「10%オフ」で、
手に入れることが出来る「引換券」を、
「ある特定の人たち」に、売ることによって、800億円調達した。
ということです。
(もちろん、商法上で「有利発行」と認められない範囲のディスカウント率なので、臨時株主総会による決議は必要なく、取締役会決議だけで、MSCB発行できますから適法ではあります。)

以上の話をすると、以下のような反論を、ご丁寧にくれる人が居ます・・・
「でも、結局、その投資が成功して企業価値が高まって、
結果、株価が上がればいいのでは?」
呆れ果てます。
これではまるで、
「どうせ(既存株主には)ご褒美はやるんだから、不公平なのは目をつぶれよ」
と言っているのに等しいわけです。
そもそも、僕が主張しているMSCBの問題と、
その後の「運用側」の投下資本利益率は、別々の話です。
もし、「その後に儲かればいいじゃないか」ということなら、儲かることを前提にすれば、「(適法である限り)なんでもあり」ということに、なってしまいます。

(「運用側」に関する話は、次回書きますね。
テーマは「シナジーは本当に起こるのか?」ですよ。)

まあ、以上のことは、ライブドアの株主が「OK」というなら、それでOKなんですけどね(笑)
ただ、株主資本コストを理解できない経営者や、自己実現のために株主を犠牲にする経営者が、増えてしまうことがもたらす影響を危惧しているだけです。
せっかく、「オンライン証券会社の取引価格破壊」によって、個人も含めた直接金融が育ち始めたわけですからね。
日本の直接金融が順調に育つためには、「今」がとても大切なのです。
(しつこいようですが、僕はオンライン証券会社を揶揄しているのではなく、個人「投機家」とそれを増やそうとする行為を批判しているのですからね。)

ところで、「実体経済価値」ってどうやって計算するんだ?
とか、思っちゃいましたか?
それこそ当事務所主催「実践・企業価値評価シリーズ・セミナー」を受講すればわかるようになります。
よろしくです。

2005年2月14日 板倉雄一郎

PS:
サンデープロジェクトのその後は、「少子高齢化」を取り上げています。
この件に関する経済的側面については・・・
SMU(スタートミーアップ)第181号「バランスシートを小さくする技術」を
ご覧ください。





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