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KISS 第2号「市場流動性」

まずは、臨時アップデートです。

あんまり書きたくないんだけど、世間では盛り上がっているので、仕方なく・・・
ライブドアの800億円資金調達の概要は・・・
(ただし、詳しくは、EDINETを参照してくださいね。
僕、ライブドアのIR担当じゃないですから)
転換価格下方修正付きユーロ円建転換社債型新株予約権付社債
(MSCB=Moving Strike Comvertible Bond)
(要するに海外で発行する円建てCB)
償還期限:2010年2月24日(要するに5年満期)
発行額:800億円(1億円単位で800個)
社債部分利率:0%(ゼロクーポン債)
転換価格:(東証におけるライブドア株価の3連続取引日における売買高加重平均価格の平均値)の90%
新株予約権の行使期間:平成17年2月25日から平成22年2月23日まで。
(要するに、ロックアップ期間なし)

というわけです。
まあ要するに、とてつもなくカンタンに表現すれば、事実上・・・・・
「ライブドアの株式を、時価の10%オフで、800億円分、増資します。」ってことです。
このCBを買った人は、翌日株式に転換して、その場で売却するだけで、(その間に株価が大きく動かないと仮定すれば)10%儲かるわけです。
その上!堀江君は、MSCBの引き受け先のリーマンブラザースに、「貸し株」までして居ます。
リーマンが借りた株をライブドア社の株価を意図的に下げるためです。
ライブドアの株価が下がれば下がるほど、転換価格が下がりますから、リーマンは余計に儲かります。
そりゃ取り仕切ったリーマンは、儲かりますよ。

じゃあ、その儲けは、誰の損だか分かりますか?
ライブドアの既存株主が損するんです。
既存株主は、その分「ちぇ、損したよ」ってことになるわけです。
それは誰にでも分かるので、一般的には、株価は大幅に下落するはずです。
(そうはなっていませんけれどね(笑・・・ライブドアの株主は、MSCBの意味がわからないのでしょう))
もちろん、全額転換されれば、ライブドアの株式は、ダイリューション(希薄化)します。
何パーセントのダイリューションかって? 自分で調べてください。
僕この会社に興味ありませんから、あまり、詳しく見ていません。
まあ、すべてのイイワケは、「フジサンケイグループ」買収後の「シナジー効果」ってことなのでしょう。

ホリエモンへ(ある中学生のフリをした、雄一郎君より)
「中学生でも、ライブドアの株式を買えるように、株式を10,000分割したんじゃなかったの?
今度の10%OFF増資は、単位が一億円だし、発行は海外だし、中学生じゃ買えないよ。
何で僕らには、安く売ってくれなかったの?
ホリエモンの嘘つきぃ?(涙)」

あ?あ、かわいそぉ?(笑)
株式投資とは、会社の一部または全部を所有するということなのです。
つまり、経営者まで所有するということなのです。
よって、全うな経営者による経営をされていない企業を買うと、損するのです。
当たり前です。

う?ん。
最近、企業の資金調達は、CBばっかりなんだよね。
オプション価値が認められるから、ゼロクーポンというわけなのだけれど、つまり当該企業の信用力の範囲で、通常発行できる利率分が、オプション価値と同等と認められるというわけですが、そんなことより転換価格が市場平均の90%ってところが(先ほど書いたとおり)味噌です。

以上をまとめて、僕は・・・
「六本木ヒルズ技」と思っておりまして・・・つまり世間から「浮いてる」って感じです。
こんなことが、長期間にわたって継続できるなら、誰も仕事しなくなっちゃいますよ(笑)

以上、臨時アップデート分です。(本日中にさらにアップデートするかもしれません。)
以下、エッセイ本題です。

そもそも、企業が価値創造を行うためには、時間が必要です。
当たり前のコンコンチキですよね。
だって、どれほど事業の効率が良い企業であっても、当該企業が価値(キャッシュフロー)を生み出したり、将来の価値(投資による将来キャッシュフロー)を創造したりするには、時間が必要なわけです。
(シナジー効果を除いては(笑))

一方、株式投資によるキャピタルゲインの「根源」は、言うまでも無く、投資対象企業の生み出す価値(キャッシュフロー)ということになります。
よって、短期トレード(=企業がキャッシュを生み出す時間より短い時間)で、誰かが儲かるということは、誰かが損をしているということに他なりません。
つまり短期では、常にゼロサムゲームというわけです。

僕が、オンライン証券(ネット証券)を揶揄していると勘違いされる方がいらっしゃいます。
おそらくSMU第178号「オンライン証券会社の増収は、株価の下げ圧力」を読んで、勘違いされているのだと思います。
僕は、市場の(本質的な)流動性は、資本主義経済の中で、極めて重要な要素だと思っていますし、そのために、個人(投機家ではなく)投資家の更なる増加を是非とも期待したいところです。
この点で、オンライン証券会社による、取引手数料の価格競争「そのもの」には、大賛成です。
(SMU第178号にも、冒頭にそう書いています。)

ところで、ちょっと数字は極端ですが、1000人の個人「投資家」が、日に一人当たり平均1回の取引をする場合と、10人の個人「投機家」が、日に一人当たり平均100回の取引をした場合では、どちらもその出来高は、1000回ということになります。
市場全体を眺めたら、どちらも流動性があるように見えます。
ですが、後者の場合は、市場流動性なんてものではなく、単なる「資金回転率」です。
資金回転率と書くと、
「それが高いのがなぜ悪い。お前だってROICを良く使うじゃないかぁ。あれは資金回転率そのものだぞ」
などと、言われそうですが(笑)、確かに「企業内部においては」、資金回転率は非常に大切です。
というより、それが企業価値創造の根源ですらあります。
しかし、投資家が回転させてどうするんですか(笑)。
投資家は、その資金を企業に投資することによって、企業に「資金を回転してもらう」というわけであって、自分で回転してたら、目が回っちゃいますよ(笑・・・意味わからん)。
つまり、個人投機家の過半数が、少なくとも昨年損失を出したということから見ると、
「資金を時間と能力と手間をかけて、高回転させているのに、損をする」ということですから、全く非効率極まりないばかりではなく、彼らのおかげで企業の資本コストの上昇圧力になってしまっているというわけです。

個人投機家って、アホだとは思いますが、市場にそのような人がたくさん居ることは、それ自体が市場形成の要因ですから、排除すべきだとか言いたいわけでは、全くありません。
ただしつこいようですが、投機家の存在は、企業にとって、資本コストの上昇圧力であることは間違いなく、よって企業価値を低下させる圧力であり、よって株価の下落圧力というわけです。
それが現時点で、どの程度の圧力なのか、または、オンライン証券会社による取引手数料低下が、どれほどの個人「投機家」を生み出しているのか、については、僕もわかりません。
しかし、オンライン証券取引は、個人投機家の増殖という結果に大きく貢献していることには、疑いの余地はありません。
しつこいようですが、だから取引手数料を上げろとか、オンライン証券会社はとんでもないなどと、言っているわけでは、ありません。
あくまで、そういう圧力に、結果的になっていくだろうというだけの話しです。

ところで、オンライン証券は、なぜ取引手数料の価格破壊を行ったのでしょうか?
単純にコンピュータ化によるコスト削減だけではないでしょう。
「一顧客辺りの取引回数は、それまでの非オンライン証券会社の場合より、増える」と考えたのではないでしょうか?

話は180度ひっくりかえるようですが、彼らのような個人「投機家」の存在によって、市場が非効率化された分=実体経済価値と株価の乖離が大きい分(=β値が大きい分)、バリュー投資家にとっては、投資チャンスが増えるというわけですから、彼ら個人「投機家」の存在は、バリュー投資家にとって、非常に頼もしい限りですね(笑)

さらに、ところで・・・・
「では、企業価値評価セミナーの受講料は、投資家の期待収益率増加=企業の資本コスト増加にならないのか?」
って、一見、まともな意見をお持ちの方へ。
確かに、セミナー受講料は、受講者の株式投資における期待収益率を押し上げます。
よって、企業にとっては、資本コストの増加になります。
ですが、セミナーの知識は、「一生もの」です。
よって、その回収は、一生かかって回収すればよいのです。
事実上、企業の資本コストの押し上げは、ほとんどありません。
一方、「デイトレ情報」の場合、その情報価値は、「その場限り」の場合が多いわけですから、そのコスト(たとえば毎月数万円とか)は、短期間でキャピタルゲイン内に収めなければならず、よって、確実に個人投機家の期待収益率を押し上げ、企業の資本コストを押し上げ、結果、企業の価値を減衰させることになるのです。

「自分と、自分の所属するグループの利益を最大化することが、最も良い結果を生む」
by ジョン・ナッシュ

2005年2月10日 板倉雄一郎

PS:「ビューティフルマインド」を、ここ数日、何回も観ています。
観ているうちに、「俺って、おかしくなってきたかなぁ?」と思うこと、しばしばです(笑)





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