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KISS 第116号「どうなっちゃうんだろうか」

本日は、割と流れのあるままの複数項目です。

<貯蓄教育から投資教育へ>

「貯蓄教育」から「投資教育」へ、世の中動いているらしい。
アホナ。(僕が賞賛するとでも思いましたか?)
自ら稼いだ資金を、貯蓄するか、投資するか、消費するか、
そんなことは、誰か他人が押し付けたり、誘導したりすることではない。
それぞれの個人が、それぞれの目的のために、選択すればよい。
で、それぞれの個人が合理的な選択を行うためには・・・
「貯蓄教育」でも、「投資教育」でもなく、
「経済の仕組み」や「企業の仕組み」を教えるべきです。
(そもそも、貯蓄が無ければ投資は行われないし、消費が活発でなければ投資すべき対象だって生まれないのですから。)

<インチキ投資教育の果て>

もし、「インチキ投資教育」が広く施されたら、どんな社会になっちゃうのだろうか・・・

現在の資本市場、特に個人投資家(投機家?)の大半は、価値と価格の違い、いや価値そのものがわからない人たちが占めている、と思う。

(たとえば証券会社主催の株式投資セミナーなるものの大半は、「株式投資」ではなく、「トレード方法」を教えるに過ぎない・・・なぜなら、彼らは顧客が煩雑に取引しなければ、儲けが出ないからだ。一方、顧客(=インチキ投資教育を受ける側)において、煩雑な取引では、まともなパフォーマンスは得られない。)

彼らが興味を持つのは、単に「株価のボラティリティー」というわけだ。
価値に関する様々な因数を観るものの、それと株価の関係を、なんとなく掴もうとするだけで、その意味はあまりよくわかっていない人が多い。
もし、彼らのような投機家ばかりが資本市場を占めることになって、株式市場が博打場化してしまったら、当然ながら価値と価格はほとんど相関しなくなる。
相関しなくなると、「企業そのもの」が成り立たなくなってしまうか、もしくは、価値と価格の違いのわかる「ハゲタカ」(←これの僕なりの意味については後述)に美味しいところを持っていかれてしまうわけだ。

まずは、企業そのものが成り立たなくなる理由・・・
企業(の経営者など)が、努力して経済価値を生み出し、企業価値を増大させ、しいては株主価値を増大させても、それに株価が全うに反応しなければ、経営者は全うな経営努力をしなくなってしまのではないだろうか。
たとえば現在だって、
「株式分割すりゃ株価上がるでしょ!」とか、
「とにかく配当を増やせば株価上がるんだよ!」とか、
「資本を欲しけりゃMSCBって楽ショーのやり方があるぜ!」とか、
上場企業の経営者でさえ、こんなふうに考えているわけですから。
それが、インチキ投資教育によって、今よりもっとひどくなるかもしれない、と思うのは、かなり悲観的ではありますが、教育をちょいと間違えば、そんな悲観的な将来になるかも知れないわけです。

そして、「ハゲタカ」に美味しいところを持っていかれてしまう理由・・・
株主価値と時価総額が相関しなければ、価値に対して極めて高い株価も、その逆も生まれるということになる。
価値を図れる者にとっては、「価値に対して相当に安い価格」が提示される機会が増え、彼らは美味しい思いが出来るというわけです。

どちらの場合も、我々日本人は、あくせく働き、価値あるモノを生み出したのにも関わらず、その富は、気が付かぬうちに「ハゲタカ」に持っていかれてしまうわけです。

なんだかんだ言っても、「教育」が国力をつくるのですよ。

<制度とその周知>

たとえば、制度やルールで物事を解決しようとする人の中には、「資本主義が貧富の差を生んだ」と考える方がいらっしゃいます。
しかし、今より、経済の知識が満遍なく行渡った資本主義社会は、今より、貧富の差が広がるとは思わないのです。
(もっとはっきり表現すれば、
「多くの人が、最低限のファイナンス知識を身につければ、インチキ金儲けは、しずらくなる」のです。
結果、人が受け取れる経済価値は、社会に対して提供した価値に相関するというわけです。
そのまた結果、貧富の差は、社会に対して提供した価値の差の範囲に収まり、
富を手に入れる唯一の方法は、社会に対して提供する価値を増大させる以外になくなるはずです。)

どんな制度であれ、その制度の「仕組み」が広く伝わらなければ、その制度の持つ利点は生かされないわけです。
(参考エッセイKISS第33号「お金の仕組みを教える理由」)

<ハゲタカの定義>

ファンドの運営会社がどの国の会社であるかは、どうでもよいのです。
問題は、そのファンドへの「出資者」が一体誰なのか?ということです。
仮に、米国籍のファンドであっても、そのファンドの出資者の多くが日本人なら、そのファンドの儲けは、日本人の儲けです。
逆に、日本籍のファンドで、日本人がファンドマネージャであっても、ファンドへの出資者が、外国人であれば、そのファンドの活動によって儲かるのは外国人です。
外国人が儲けるのは「悪いこと」などといっているわけではありません。
ただ、日本人は、企業が生み出す経済価値の「労働者としての側面」だけの富しか受け取れなくなることを憂いているわけです。
ハゲタカの手先は、日本人の顔をして、日本語を話している場合もあるのです。
(参考エッセイKISS第92号「体のよい総会屋」)

<日本国の富>

経済の仕組みに関する国民の知識、すなわちフィナンシャルリテラシーが低い状態で、何でもかんでも外資に開放してしまったら、日本の経済価値(=富)は、どんどん彼らに持っていかれてしまいます。
なぜなら、経済価値は、経済の仕組みを知らない者から、知っている者の元へ移転するからです。
我々日本人より、彼ら「ハゲタカ」の方がそれをよく知っています。
彼らが「ハゲタカ」に見えるのは、我々が知らな過ぎるに、過ぎないのです。
彼らを「ハゲタカ」と批判しても、何も解決しません。
だから可能な限り早い時期に、まずは国民のリテラシーを向上させなければならないわけです。
(参考エッセイKISS第84号「教育と国力」)

<衆院総選挙>

どの党に政権を担っていただくか・・・
そんなことは、有権者一人ひとりが考えることです。
が、有権者における経済的教養が低ければ、有権者は騙されてしまいます。
政治においても、経済的側面は、非常に大きいわけですから。

<国家財政の危機を知っているのに「教育」なんて気が長すぎる>
とおっしゃる方も居るでしょう。
しかし、それでは、いつまでたっても、行き当たりばったりの政策しか出来ません。
政治家を選んでいるのも、過去の教育を受けた有権者ですから。
そもそも、国家財政の危機を解決方法なんてあるんですか・・・
あったら具体的、かつ論理的に教えて欲しい。

<国債残高>

国の借金、これは、誰にもどうにも出来ません。
自然の流れで、過度なインフレによる帳消し、または戦争、またはデフォルト(=無かったことにする=損するのは債権者=国債保有者)しか考えられません。
(↑、あくまで僕の脳みそで考えられる範囲の話しであって、政治家や官僚は、その解決手段を持っていることを期待しますが(笑))
プライマリーバランスをプラスにすることすら簡単ではない状況で、どうして借金が返せるのでしょうか?
「国と会社は違う」という愚か者政治屋にも会ったことがありますが、どちらも「お金」で動いているわけですし、そのお金の仕組みは、どちらも変わりありません。
おっと、国は紙幣を発行できますね・・・確かにこれは企業と違いますわ。

2005年9月1日 板倉雄一郎

PS:
2005年8月31日の夜、「報道ステーション」を見ていた。
党首ならぬ、参謀討論といった内容だった。
(出演者など詳しくは、テレビ朝日のWEBあたりを参照ください。)

自民党から共産党まで、彼らの主張は、少なくとも僕には、同じことに聞こえた。
郵政民営化(法案)にしても、年金にしても、低所得者の生活難の話にしても、
「誰の金を、誰に配るか」
ただそれだけの話しなのです。

そして、「改革」という「言葉」ばかりが独り歩きする。
それを叫べば、「どうせ有権者なんて馬鹿だから、これを言っておけば当選確実」と思っているかのように、「改革」という。

ところで、「どこに向けて」改革するのか、
「どんな日本を描いて」改革するのか、
少なくとも僕の脳みそが理解できるような説明を聞いたことが無い。
しかし、このヴィジョンが大切なのです。
なぜなら、今「問題だ!」と言っていることは、ヴィジョン次第では、もっと大きな問題かもしれないし、問題どころか(ヴィジョンに向かう上で)都合が良かったりする場合もあるからです。
(「自殺者が多い」などのように、どんなヴィジョンであっても問題である事象もありますが)

「先行きどうなるかわからないが、今より良くはならないような気がする」
そう思っている人が大多数なのが、たとえば少子高齢化の根本的な原因だと思うし、それが年金システムの維持を困難にしたわけですし、たとえば企業や個人が消費や投資を渋り現金を温存する根本的な原因だと思うし、それが経済停滞の原因なのです。

ヴィジョンを模索することを忘れ、問題解決の手法を考えることが自己目的化し、
そもそも、その問題が、どのような目的の上で発生したのかを考えなくなる今の日本の様は、まるで、「うまく行かなくなった企業」のそれにそっくりなのです。
僕が言うのだから間違いありません(笑)

ヴィジョンを提示できる政治「家」は、居ないのだろうか。





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