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SMU 第103号「資本コストと割引率」

国債のように将来キャッシュフローが「きっちり」決まっている商品の場合、その商品のIRR(内部収益率)が固定されますし、市場での同商品に対するリスクも人によって大きく変動しませんから、割引率をある程度「きっちり」割り出せます。

よって、ある時点での現在価値を比較的きっちり割り出せます。

これが企業となると、以上の条件は崩れます。そもそも企業価値評価をする場合、その価値変動に大きなインパクトを与えるのは、言うまでもなく将来の業績とその割引率(=資本コスト)です。

よって、そもそも将来のことに対して「きっちり算出する」なんてことをできる人などいませんし、よって「きっちり算出する方法」もありません。

ではなぜ僕は、自分で企業価値評価ができるのでしょうか?

結論を先に書いてしまえば、「企業価値評価の利用目的を限定している」からです。
それでは、この続きは本題「資本コストと割引率」にて・・・

企業価値評価をする場合、教科書的(世間一般的)には、当該企業の「予測される将来キャッシュフローを当該企業の『資本コスト』で現在価値に割り引いた総和」をもってそれとします。

企業価値を「客観的に(=何の利害も伴わない立場で)」評価するには、現存する教科書のとおりで良いということで、納得しています。

ここで非常に重要且つ難しい問題は、「資本コストの割り出し方」です。

これが重要な理由は資本コストの数値のわずかなぶれが、企業価値に大きなインパクトを与えるということですし、これが難しいのは、資本コストの算出において、見えない資金提供者の期待収益率を予測することになるからです。
(資本コストとは要するに「資本の提供者が当該企業のリスクを考慮した上で期待する収益率」ということになります)

資本には大きく分けて「有利子負債」と「株式」があるわけで、一般的には利息や返済が約束されている有利子負債(出し手からみれば融資)より、利回りが約束されていない株式の方が、同じ企業に対する期待収益率は高いわけです。

企業の資本コストは主にこの有利子負債と株式の機会費用の加重平均を利用します。教科書どおりでよいと思います。

ここで有利子負債については、貸手の明確な条件が融資契約に盛り込まれますから、株式の場合と比べればかなり容易に算出できます。教科書どおりでよいと思います。

ところが株式の資本コストとなると上記の理由で非常に難しくなります。実際僕がセミナーで薦めている本(企業価値評価)でも、この資本コストについては大量のページ数を割いていますし、内容も恐らくこの本の中で最も複雑で難解です。

しかし、ここで重要なことは、「そもそも企業価値評価を何のために習得するのか?」という点です。

もし、「証券会社に勤めてアナリストになりたい」とか「現在、企業価値評価をする仕事をしているが、その精度をアップさせたい」ということなら、この小難しい資本コストについて、可能な限り正確な数値をはじき出せるように、勉強する必要があると思います。

ところが、その目的が「株式の長期バリュー投資で資産運用したい」とか「自分の会社を自分の条件で売却したい」ということであれば、実は資本コストの算出に関して、頭から煙が出るほど勉強しなくても、その理屈が理解できる程度でよいわけです。(自社の戦略が、自社の企業価値にどのような影響を与えるのかを知るためであっても、正確な数値より、相対的な企業価値変動の理屈を理解する程度で十分だと考えます)

たとえば長期バリュー投資をしようとする場合、自分が考えるところの、ある種、身勝手な期待収益率というものがあるはずです。たとえば、「マザーズのような新興企業に対する投資の場合、年率20%程度のリターンが見込めなければ、投資したくない」などなど。

このように一投資家のリスクに対する期待収益率がある程度決まっている場合、その期待収益率をもって株式の機会費用とし、その結果算出される資本コストを当該企業の将来キャッシュフローの割引率とすればよいわけです。

その結果算出された企業価値から有利子負債などを差っ引き、株主価値を割り出し、ここで得られた数値と株式時価総額を比較し、時価総額の方が小さければ、チャートがどうであれ、投資すれば良いわけです。

つまり、「割引率=資本コスト」という考えは、お勉強のためのためであって、お金儲けの場合は、必ずしも「=」とする必要はないというわけです。

当り前のことですが、自身の期待収益率が高すぎると(=割引率が大きすぎると)、時価総額より大きな企業価値算出結果を得られなくて、つまり投資先が見つけられなくて、「自分で消費者金融やるしかないな」となってしまいますけどね(笑)

重要なことは、何事も「何のため?」ということをしっかり意識することですよね。

それによって、必要のないことに時間とお金をかけずに済みますし、その分必要な部分に時間とお金とエネルギーの投資ができるというわけです。

以上の内容は、企業価値評価の難しいことを、しっかり理解している人が、必ずしも金儲けがうまいわけではない現状を理解する上でのポイントですし、また、難しいことはわからなくても、ちゃんとお金を稼いでいる人の存在証明でもあります。

しかし「なぁ~んだ、じゃあ俺の場合、ちゃんとお金儲けできているから、勉強しなくてもいいんだ」ということではありません。

企業価値評価を知らなくても企業運営ができる人は、それを習得することによってなお効率がアップするでしょうからね。

つまり僕が「企業価値評価シリーズ」で生徒に伝えていることは、「企業価値評価の方法」ではなく「企業価値評価をどのように自身のビジネスに利用するか」になるわけです。

またさらに、この活動を通じて、僕は要するにこれから先のビジネスの絵を描いているわけで、つまるところ僕の事業を開始したということになるわけです。

(誤解のないようにお断りしておきますが、セミナーでは、ちゃんと一通り資本コストについて教科書どおりの講義『も』していますからね)

2004年8月28日 板倉雄一郎




 


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