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SMU 第181号「バランスシートを小さくする技術」

「少子高齢化」「人口減少」は、今さら説明するまでもありません。

この現実を前に、多くの企業経営者や市場関係者は、長期的な(国内の)需要総量の減少を心配しているわけですが、これ心配してもしなくても、ハッキリしている事は、需要総量そのものは、確実に減少するということです。

(もちろん、外国人の受け入れ、純輸出の増加など、諸々の対策はありますよ。この辺で突っ込まないでくださいね。コアコンテンツに注目してくださいね。)

これまでの日本経済は、人口増加、高度成長という歴史でしたから、事業の成功とは、平たく言えば、「どれほどでかくなったか」ということだったわけです。

「売上高」、(日本人だけが大好きな)「経常利益」、「社員数」、「店舗数」・・・・このように、企業の経済的付加価値創造の側面から見た場合の「単なる因数」に過ぎないモノをただひたすら、でかくすることを追求し続けてきたわけです。

もちろん、少なくともこれまでは、それでもよかったわけです。

経営者が「企業価値創造メカニズム」など、全く知らなくても、市場そのものが拡大していましたら、「でかさ」を追いかけるだけで結果的に企業価値は創造されていたというわけです。

(もちろん、メカニズムを理解した経営者が経営する企業のほうが、価値創造における効率は一般的に高いとは思います。)

以上を背景に、企業経営者は、「ならば、減少するパイの中で生き残るために、これまで以上の競争力によって、より多くのシェアを獲得しなければならない」と、これまたこれまでと全く同じ手法を展開することになるのでしょう。

もちろん、このアプローチが間違っているとは思いません。

それが実行可能ならば、それでよいのだと思います。しかし、企業価値創造メカニズムの観点から考えれば、必ずしも「でかさ=価値」ではないのです。

何度もしつこく書いていることですが、

経済的付加価値
=(ROIC-WACC=SPREAD)×IC

経済的付加価値
=(投下資本利益率-加重平均資本コスト=スプレッド)×投下資本

なわけです。

上記のように「市場規模が小さくなる」という前提の場合・・・
IC(投下資本)は、大きくすることは出来ません。

なぜなら、いくらICを増やしても(=生産量を増やしても)買ってくれる人が少なくなるわけですから。

すると、「WACCを低下させる」か、「ROICを向上させる」ということが焦点になります。つまり「スプレッドの拡大」です。

スプレッドを大きくすることができれば、その分、ICを小さくしてもそれまでと同等の経済的付加価値を企業が生み出すことは可能です。

まず、ICの小型化について考えましょう。

ICの小型化(=B/Sの小型化)の具体的な手法は、幾つかあります。

⇒「減価償却費を下回る新規投資の継続」
⇒「(株価が実体経済価値より低い場合の)自社株買いとその償却」
⇒「余剰現金による、配当や有利子負債の返済」などなど。

つまり、キャッシュフローから見れば、「投資C/F」と「財務C/F」の調整ということです。

この際、「余剰現金による、配当や有利子負債の返済、または自社株買いとその償却」に注目いただければお分かりの通り、この過程においてWACCの調整が可能になるわけです。

WACCのメカニズムを理解している経営者であれば、この過程でWACCを低減することが可能です。

(どうすればWACCを低減できるかについては、割愛します。セミナー卒業生は、バッチリ理解できますよね。)

一方、ROIC(投下資本利益率)については、

ROIC = NOPLAT /IC

投下資本利益率=みなし税引き後利益/投下資本ですから、同じ営業利益をそれまでより小さいICで得ることさえできれば、ROICは自動的に向上します。

いや、もっと書いちゃいます・・・

多少営業利益が下がったとしても、そのインパクトを上回る「ICの小型化」が実現できれば、結果としてROICは向上します。

(増収増益だと、すぐ飛びつく個人投機家には、笑ってしまいます。増収増益でも価値破壊を起こしている企業は、結構ありますから)

以上から、「ICを減らすことで経済的付加価値に対するマイナスのインパクト以上に、ROIC-WACC=スプレッドを拡大できれば、売上高の増加なくしても、企業価値創造は可能である。」となり、パイが小さくなる過程でも、株主への価値提供が可能になるというわけです。

もちろん以上は、当該企業(または事業)が、企業ライフ・サイクル(導入~成長~成熟~衰退)のどこにいるかによっても、オペレーションは異なります。よって、個々の企業(または事業)については、以上の手法が常に有効で、効率的だとは言いません。

更に、以上のような小型化をやりすぎると、いつの間にか企業が無くなっちゃいますし、それを将来業績予測に持ち込めば、予想される将来フリーキャッシュフローも、減衰し、割引率とあわせて、企業価値は減少してしまいますからね。

何をするにも、「知識に基づいたバランス」が大切です。

つまり、無理して拡大路線を進めるばかりではなく、時にはバランス・シート(B/S)を小さくしながら、次のチャンスを待つということも必要だと言うわけです。しかし、以上からハッキリ言えることは・・・・「人口減少を前提にすれば、これまで以上に、企業価値創造メカニズムの理解は、経営者に求められる」ということです。

有価証券報告書の文章と数値の経年変化をしっかり見れば、経営者がどの程度の経営手腕を持っているかが、よ~く分かります。分かっている経営者が経営する企業に投資しましょうね。

すると、結果的に、「分かっている株主に囲まれた企業」となり、それだけでも当該企業の価値創造は容易になります。つまり、株主は儲かるわけですよ。フフフ。

経済全体の大きさ(たとえばGDPの成長率だとか)を議論しても、大した意味はありません。

大切なのは、「一人当たりの幸せ度合い」なのです。

だから、GDPがマイナス成長だから、景気が悪くなるなんて、ほとんど何の論理的リンケージのない議論は、止めましょうよ。

だって、日本は世界第二位の経済大国なんでしょう・・・でも、それほど経済的に裕福だと感じませんよねぇ。(笑)

2005年2月3日 板倉雄一郎

PS:
あのぉ~、「主張の本質」に大した影響の無いことで、突っ込まないでくださいね。(笑)そういうのが多くなると、文章のプロテクションのための文章が多くなって、面倒くさくなるのですよ。





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