板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  スタートミーアップ  > SMU 第118号「117号の問題訂正と追加」

SMU 第118号「117号の問題訂正と追加」

昨日は久しぶりに、東京さいってきただよ。(笑)雑誌「宝島」の取材。友人の新規ビジネスに関する相談。そしてジム。

で、おとなしくパーティーにも、合コンにも、デートにも行かず帰ってきたら、SMU第117号の問題に対する回答を数人から頂きました。

残念ですが、どれも「大きく」間違っています。

(簡単問題は、ほぼ全員正解です。)いちいち間違った答えに「違いますよぉ~」と返事するのも面倒なので、ここで、答えを書いてしまいます。

簡単問題の回答:「およそ12%」「およそ3,357万円」
中級問題の回答:(問題訂正前)「8.5%」、「以下」です。

ところで、問題を一部修正したいのです。(ごめんなさい)実は、ちょっとした「計算ミス」ではなく、「問題設定ミス」があって、その後の追加問題につなげられなくなってしまったのです。トホホ。(まあ、人間ですから許してくださいませ)

で、修正部分は、中級問題の
「新規投資に対する収益は、およそ25%」とあるところを、
「新規投資に対する収益は、およそ50%」に修正願います。

更に、
「現在の株価は、50,000円です。」とあるところを、
「現在の株価は、70,000円です。」と修正願います。

よって、問題修正後の中級問題の答えは、 「およそ22%」、「以下」となります。ということで、通常やらない「過去のSMUの訂正」という禁じ手を、今回は実施させていただきます。

どうかご理解くださいませ。(いやいや、まいったな) 実は、当事務所のパートナーに指摘されて、初めて気がつきました。パートナーって本当にありがたい存在です。

以上、大変失礼いたしました。(しかし、修正前の問題でも、ちゃんと答えは上記の修正前の答えであたりです。ただ、以下の追加問題に繋げるために、問題を修正したので、悪しからず) 答えを書いてしまった以上、これ以降のメールでの答えには、計算シートも付けてくださいね。数値と文章での説明でもOKです。

で、せっかくですから、SMU117号の中級問題(修正後の設定に基づいて)の追加設問でもやってみましょう。(SMU117号の中級問題の追加設問として・・・)

下記の「」内のどちらかを選択しなさい。

「A社は来期以降、同社が生み出すフリーキャッシュフローの一部を使って、有利子負債の1,000万円分を返済しようとしています。(前出の答えで得られた株価で)A社に投資したあなたは、株主として、この経営判断に「YES・NO」というべきです。」

(注意:この企業のインタレスト・ガバレッジなどは、十分に安全な値を示しているとします。)

答えを書いてしまいましょう。答えは、「NO」です。

(ただし、株式の資本コストを20%としている場合)「えっ? 有利子負債を返済したのに、株価が下がるの?」と不思議に思った方が多いのではないでしょうか?

企業価値と株主価値がどのように変化するのかという理論と計算手法を持っていない人(つまりセミナーを受けていない人は・・なんちゃって)は、全くチンプンカンプンですよね。

そのような多くの人が、「有利子負債の返済=株価上昇」と思い込んでいることによって、確かに「短期では」株価は上昇する傾向にあります。しかし、この例の場合、企業価値創造の理屈から考えれば、有利子負債の返済によって、資本コストは増大し(=将来キャッシュフローの割引率が増加し)企業価値も株主価値も下落します。

よって、長期では、水が高いところから低いところに重力によって流れるがごとく、株価は下落します。ですから、株主としては「NO」というべきなのです。

分かりやすい例えでは、商事会社などの「商品のトランザクション」を収益の源泉としている、いわゆる薄利構造の企業の場合(=投下資産利益率が極端に低い場合)、有利子負債によるレバレッジと、有利子負債の株式に対する比率の高さによる資本コストの低減(によって、投下資産利益率より低い資本コストの実現)が無ければ、とても株主にリターンを提供することなどできないわけです。

よって、大手商社の場合、その自己資本比率は20%を大きく下回り=有利子負債によるレバレッジを効かせることにより、はじめて株主の期待収益率にたどり着けるというワケです。彼らが(もし市場が合意して)増資などによって得られた資本を、有利子負債の返済に回してしまったら、一気に株価は大暴落⇒お陀仏。というわけです。

いやいやその前に「有利子負債の大幅な削減のために増資します」なんてアナウンスしたら、その時点で株価は大暴落しますし、そもそも公募増資が集まりません。(但し、現実的には、将来のインフレ圧力などによる金利上昇によるリスクも考慮する必要があります)トヨタ自動車のB/Sをご覧下さい。

企業運営上は、有利子負債など全く必要が無いですよね。でもしっかり有利子負債ありますよ。いやいや、そんなことを持ち出すまでも無く、そこの個人投資家のあなた、しっかり株式投資で「信用取引(という名目の有利子負債)」しているじゃないですか。

何度も書いていることですが、有利子負債の変動に限らず、「子会社の上場」、「投下資本利益率と資本コストを無視したM&Aなどによる単なる増収増益(ええと、これは、最近話題のどこかの二社を指しているわけではないとお断りしておきます(笑))」などは、人の感覚とは全く逆に働くことがあるわけです。

断っておきますが、M&Aや子会社の上場、それに有利子負債の減少が、「常に企業価値を押し下げる」と理解してもらっては困ります。つまりケース毎に条件を調べなければ、企業価値(または、株主価値)が増加するか低下するかは、マチマチだというわけです。

もし、あなたが、短期トレードで「サヤ抜き」をしたいという場合には、理論より「需給のウケ」の動向を占った方が良い結果が得られる場合が多いです。例えば企業価値に何の変動も無い「株式分割」でも、短期では株価は乱高下しますから。

今日は、こんなところで。

2004年10月13日 板倉雄一郎





エッセイカテゴリ

スタートミーアップインデックス