板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第74号「デイトレーダー4」

毎日ハマっていたデイトレードですが、気が付いたら飽きてしまいました。
(僕は、飽き性だから商いは向いていないようです)

リアルタイムボードを見ているだけで、確かに面白い。特に出来高の少ない企業のボードを見ていると、お金を媒体にした人間模様が見え隠れして、面白いですね。

我慢できずに、上値に飛びつく人。売り板の株価の上下に釣られて買値をチョコチョコ動かす人。見せ板を張って価格を吊り上げ、次の瞬間、見えている買い板の枚数分すべてを成り行きで売却する人。

寄り付きで大量に注文を出して、開けた途端に注文をキャンセルする人。はたまた仕手系の仕業と思いますが、ある日何の前触れも無く急騰させた賃借銘柄の買いを一時的に押さえて株価を下落させ、一般の空売りを誘い、直後にまた買い煽って「踏み上げ」を狙う人。などなど。

確かに面白いです。
でも、「僕には向いてないな」と思ったわけです。

さて、その理由は・・・

「あっ、イタクラも相当損を出したな」と思っているアナタ。違いますよ。この2ヶ月間の実績は、(短期投資用の)証券会社の口座資金をすべて投下資本だとして計算しても、およそ32%のプラスでした。

もちろん、証券口座の資本すべてを常にどこかの株式に投資していたわけではありませんから、実際の利回りはもっと高いですし、おそらくこの数ヶ月の短期取引をした人の中には僕よりはるかに大きな利回りを出した人もいるでしょう。僕の場合、新興ITベンチャーや仕手系などの値の軽い銘柄は極力避け、安心して持っていられる企業ばかりを対象にしてきましたから、その意味では良い成績だといえると思います。
しかし、僕はデイトレーダーから、少なくともウィークリートレーダーに戻りました。

一つ目の理由は、非常に単純ですが「疲れる」ということです。

朝9時~昼休みを挟んで~15時まで、パソコンの前に張り付いている「その瞬間」は集中していますし、デイトレード仲間とのチャットもしていますから、あっという間に時間は過ぎます。

でもその後、疲れがどぉ~っと出てしまうわけですね。その後の時間で他の仕事やデートの準備ができなくなってしまいます。(もっとも、最近は離婚してからというものデートなど全くしていませんが)

特に、短期だと決めて仕込んだ(=とても純粋な企業価値では手が出せない)企業の株式を次の日まで持ち越した場合などは、気が小さい僕の場合、落ち着かなくなってしまうんですよ。後で冷静になって考えれば、たいした金額でもないのにね。

二つ目の理由は、「費用対効果が悪い」ということです。

確かに利回りはプラスでした。ですが時間給換算(正確に計算していませんが)したら、現在の運用資本の額では、とても効率の良い手段ではないということです。まあこれはその人の通常の時間給との比較ですから、人によって違いもあるでしょうけれど、僕の場合、収入はたいして多くは無いのですが、時間給換算したら結構高給取りなのですよ。だからね。

三つ目の理由は、「(博打として)儲けても、エクスタシーを感じない」ということです。

つまり、株式投資というのは、短期では常にゼロサムゲームです。誰かの損失のおかげで別の誰かが儲けているということに過ぎないわけです。そして「漁夫の利」として証券会社が手数料と(信用取引の場合の)金利を儲けるという構図がどうにも癪に障るんですよ。人の金儲けのために自分の貴重な時間を使うのは、どうにも納得がいかないんですね。僕がサラリーマンを一度も経験していない理由と一緒です。

以上が、デイトレーダー熱が冷めた理由というわけですが、それじゃ株式投資そのものを止めるのかといえば、全く違います。いや、ますます投資熱は高まるばかりといったところでしょうか。

「好きこそ、ものの上手なれ」という言葉がありますが、やはり特に僕の場合、その成果にエクスタシーを感じる手法でなければ、続けられないということです。では、僕がエクスタシーを感じられる投資手法とは何か・・・「企業価値評価シリーズ」なる講演をやり始めたわけですから、もうお分かりの方もいらっしゃるとは思いますが、それは、中期以上の「企業のファンダメンタルズが株価に影響する期間」で、自分の企業価値判断が的を得ていたと証明されることなのです。

つまり「運」が結果に与える比率が小さく、自分の「分析」が結果に大きく影響するような手法が僕にとってエクスタシーを感じられるというわけです。なぜなら「運」はいいときもあれば、悪いときもありますが、「能力」は努力すれば、増えることはあっても減ることは無いわけですからね。

ということで、それでは、ちょっとだけ僕の企業発掘の方法について、軽~くその手順をご紹介しますね。紹介する以上その実績についてですが、「教えない・教えないと言っておきながら、教えてるジャン」とお分かりの方は、それこそお分かりですよね。なので割愛します。

手順1:「株価指標によるスクリーニング」

これはまぁ、大したことではありません。ただ4,000社以上もある企業を一つ一つ丹念に調べるのがめんどくさいということで、適当な指標でスクリーニングするというわけです。

重要視するのは、ROEです。ですがROEが高ければそれでいいのかといえばそうではありません。ROEは株主資本利益率ですから、総資産の有利子負債が大きければ(=自己資本比率が小さければ)その分レバレッジが効いてROEが高まります。

つまりROA(=総資産利益率)は低くても、ROEが高いという結果になります。
一方、金利は長期では絶対に上昇しますから、ROEがいくら高くても、有利子負債の総資産に対する割合が大きい場合は、切り捨てます。(経験がなせる業ですね(笑))もちろん業種業態による自己資本比率の許容範囲は異なります。

ここで重要なのは、指標はせいぜいスクリーニングの参考にしかならないということです。僕の場合、大多数の個人投資家が好んで投資判断に利用するPERおよび配当利回りについては、ほとんど無視します。

(配当利回りを無視する理由はこのエッセイのSMU 第67号「配当および自社株買いの是非」に詳しく書いてあります。但し逆に、PERが1,000倍以上とかのワケの分からない企業を捜したりはします。新しい業種の証明ですから、勉強のためにというわけです。)

無視する理由は、短期(前期)の業績に基づいた指標の絶対値なんて、企業価値を測定する上で、一切役に立たないからです。最近ではPCFR(キャッシュフローに対する利益の割合)などの新指標も出てきているようですが、そもそも短期の何かと何かを組み合わせたところで、やはり短期の業績の範囲でしかないわけですから、どんなに数字を組み合わせても意味が無いというわけです。

要するに、企業の数を絞るために、適当な指標を利用するという程度です。

手順2:「キャッシュフロー」

手順1で得られた企業群について、四季報のC/Fを見ます。これもあくまでスクリーニングの範囲です。しつこいようですが、四季報のC/Fも短期のものですからね。ここで注意するべきことは、単純に営業C/Fから投資C/Fを引いて、その結果(フリーキャッシュフロー)が大きければそれで良いわけではないということです。

その企業の業種業態が長期的に歴史を持っている場合には、有効ですが、新興産業や技術発展による変革の時期である場合には、投資C/Fが少ないと逆にまずいです。置いてきぼりを食らう可能性がある企業だというわけです。その他もろもろですが割愛します。

手順3:「業種業態」

手順2までで絞った企業から、四季報などにより業種業態のバイアスをかけて数値をチェックします。たとえば顧客獲得、技術開発などの競争が激しい分野(コンピュータ、通信など)と、そうでない分野の違いなどを考慮しながら考えるわけですが、ここで重要なのは、自分が良く理解できる分野であるかどうかです。幸い僕にはいくつかの専門分野があります。皆さんもそれぞれにあると思います。わからない分野の場合、その数字に潜むワナを認識できないのでまずいです。

手順4:「有価証券報告書」

手順3までで絞った企業から、同業種の企業を二つ以上抜き出して、有価証券報告書を読みます。EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)で全上場企業の有価証券報告書が過去数期分閲覧できます。

画面上でざっと見て、「これはいいぞ」と思った企業の場合は、(紙がもったいないけど)プリントアウトして、ベッドで横になりながらいろんなことを想像しながらゆっくり読み込みます。(この読み方については、書き始めたら終わらなくなってしまうので、ここでは割愛します。)

僕の有利な点は、20年間の企業経営(最後は大失敗でしたが)の経験から、その企業の様子が数字や文章から読み取れるということです。こればかりは誰にも伝授できません。

手順5:「企業の将来キャッシュフローの予測」

手順4で気に入った企業の過去の業績推移から、企業価値判断に利用する数値を得るために、財務諸表を再構築します。このエッセイで何度も書いていることですが、会計と経済実態には乖離がありますから、可能な限り経済実態を把握するために、この作業を行います。これも書き始めたら終わらなくなってしまうので、どうしても知りたい人は僕の講演メニューの「企業価値評価シリーズ」を申し込んでくださいね(営業)。

過去の業績から、たとえば「投下資本利益率」や「資本コスト」などを割り出したら、次は将来の業績を判断します。実は、この部分がもっとも難しく、分析する人の主観が入りやすいところです。その企業の属する市場全体の伸び、競合企業の状態、技術開発の予測(これはかなり得意です)などなど、さまざまな要因で分析というより「想像」しながら、数字に落とし込みます。

最終的にはじき出すのは、その企業の将来キャッシュフローです。これにすべてが集約されると、僕は信じていますし、統計的にもマーケットはそのように動きます。
僕は(教える側なので当たり前といえば当たり前ですが)「企業価値評価シリーズ」で紹介している企業価値評価のためのエクセルシートを自分で作って持っていますので、得られた数値をエクセルのシートに書き込むだけで、その企業の現在の企業価値が瞬時に出てきます。

それを発行済み株式数で割った、想像株価(理論株価という人が居ますが、以上のように、将来の業績予測は「想像」に依存する部分が大きいので、僕はこう呼びます)も瞬時に出てきます。

手順6:「仕込み時」

手順5で得られた想像株価に対して、現在の株価が「十分に低い」状態であれば、初めて株価チャートを見ます。そしてマクロ経済の雰囲気と照らし合わせながら、仕込み時を考えます。仕込みは大切ですからね。

手順7:「寝て待つ」

いや実際、寝てはいません。他の仕事をやったり、それこそデイトレードで暇つぶしをします。デイトレードのときは、以上の手順の途中段階まで分析が進んだ企業を対象にします。まあ様子見&博打といったところでしょうか。

手順8:「入れ替え」

これは、「運」によるところが大きいのですが、以上までで仕込んだ株式が、予想外に急騰したときは、一度利益確定をして、暴落するのを待ち、再度仕込み直しをします。結果、同じ資金で保有株数が増えるわけですが、正直、うまくいっていません。

下手に「想像株価」を持っているものですから、それを大きく上回ると利益確定をしてしまうわけですが、その後しばらく戻ってこないことがあるんですよ。指をくわえて、彼女が戻ってくるのを待つしかないです。待つのも相場。

手順9「利益確定」

あまりしたくないことですが、その企業の業績やビジネスモデルの変化が当初の予想と違った方向に行ってしまった場合には、仕方なくさっさと利益確定します。

つまり自分の判断が間違っていた場合に、利益確定するというわけですね。
このところいくつかの米国株を利益確定しました。その場合以外は、ほったらかします。

以上が僕のやり方ですが、常にこのやり方の全てを実行しているわけではありません。お分かりのとおり、非常にめんどくさいし、やはり最後は「運」のすべてを排除できないわけですからね。

重要なことは、デイトレードに費やす時間があったら、個別企業の分析に時間をかける方が、
1、 勉強になる。
2、 費用対効果が良い。
3、 株価下落でも安心して放置できる?というよりチャンスに見える。
4、 他の仕事ができる。

というわけで、今後もデイトレードは止めませんが、その時間比重を下げていくというわけです。

それでは、最後に最も重要な企業価値評価の方法をご紹介して終わりにします。
最も重要なこと・・・経営者の質です。

僕の場合、幸い20社程度の上場企業の社長を直接存じ上げています。この数年間で、もともと友人であったり知り合いだった社長の経営する企業が上場したということですね。

(中には、僕のことなど全く相手にしてくれなくなってしまった社長様もいらっしゃいます。だからといって投資対象にしないというわけではありませんけどね)

断っておきますが、彼らに、いわゆるインサイダーになるような情報を聞いたりはしませんよ。おそらく聞いたとしても、答えてはくれないでしょう。それに聞いた結果儲かっても、エクスタシーが得られるどころか、後ろめたくなってしまいますからね。

彼らにごく稀に電話をしたり、食事を共にしたりしながら、彼らの経営者としての変化を自然に吸収しているというわけです。これも断っておきますが、企業価値評価をするために彼らとのコミュニケーションをするわけではありませんよ。

実践で戦っている彼らは、経営者としてばかりではなく、人間としてもとても魅力的な人間ばかりですから、僕自身の刺激にもなるんです。

少なくとも「企業家としての立場を追われた」僕にとってはなおさらです。

以上、ちょっとだけ、僕の手法をお話いたしました。
皆様の参考になれば幸いです。

2004年6月25日 板倉雄一郎

今日の数字占い 3302 , 4680 , 4915 , 4751




 


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