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SMU 第55号デイトレーダー2

SMU 第52号で、デイトレーダーについて否定的に書いた。だけど、よく考えてみたら、僕は経験主義だった。だから、それまで長期保有と決め込んでいた株式投資だが、長期保有株とは別にデイトレード銘柄を見つけて、デイトレードをやってみた。

4月中旬からはじめたデイトレーダーとしての成績は・・・損した。

もちろん、1時間で10%も儲けたこともあるし、10日で5%儲けたものもある。でも、わずか30分で5%損したものもあるし、数日間ずるずると損切りできなかったものもある。

で、損した。(「損した」の意味は後述)でも確かに面白い。

多くの個人投資家が増えているのがよくわかる。やり始めると、暇な日は特に面白い。「今日は暇だから本でも読むか」で本を読んでいたそれまでの一日を、朝は8:00~リアルタイムの取引画面を開き、前の日に目をつけていた企業(主に、低PER、低PBR、高ROE、低有利子負債、安定利益成長率でかつ自分が内容を十分に理解できる企業・・・なんてあんまり無いのだけど)の寄り付きに目を走らせ、9:15ぐらいまでにはいくつか仕込む。ちらちらリアルタイムで表示される気配板と、どんどん伸びていく5分足のチャートを見ながら、あれこれ考えていると、確かに面白い。

特に板を見ていると、人の心の動きがそのまま数字として現れるから、たまらなく楽しい。トレーダーな気分にさせてくれる。なんていうのか、小学生の頃「宇宙戦艦ヤマト」の計器だらけのコックピットに憧れた感じが、パソコン画面上でお手軽に実現できているという感じ。

僕の場合、儲けよりもそっちの方が最初にのめりこんだ理由だったように思う。そう、のめりこんだのです。次の段階では、多少の儲けが出る。犬も歩けば棒にあたるがごとく、思いつきで飛びついても、儲かることがある。

で、利益確定した後に、自分の業績を満足げに振り返ろうとしてその企業のファンダメンタルズを見てはじめて驚く。「よーこんな会社の株買うやつらがいるもんだ」などと。「やつら」の一人はもちろん僕自身。一方でファンダメンタルズを十分に吟味(特に過去のキャッシュフローから予測する将来のキャッシュフローにより、現在価値をはじき出し、現在の時価総額と比較する)して、株価以上の価値を得られる銘柄を選定し、かつチャート上での短期の押し目を待ち翌朝また仕込む。で、損をする。

当たり前だが、ファンダメンタルズの影響なんて長期でなければ出てこないからだ。

で、一ヶ月もした頃に、自分の成績をじっくり眺めてみると、まるで僕のゴルフと一緒だった。わずかな儲けの瞬間が頭にこびりついていて、大きな損失は「まぁ、しゃーねぇーなぁ」などと片付けていたというわけである。ゴルフなら許せる。拘束される時間も金も、「握り」をしない限り最初からわかっている。それを消費する代わりに楽しみを得るというわけだ。

ところが、株式投資となると話は違う。楽しみは確かに得られるが、その対価は最初に決まっているわけではない。楽しみを得てかつ利益も得られることもあれば、損を出すこともある。つまり重要なことは、損益ではなく、損でも益でも、そのためには間違いなく資本を突っ込んでいるということだ。つまり「資本×労働」の結果が損益となる。

この図式で考えたら、たとえ手数料+αの利益が出たとしても、とんでもなく大きな損失をこうむっているというわけである。SMU第52号で書いたとおりだが、そもそも投資とは、それ自体が益を生まなければ失敗である。

ところがデイトレードの場合、投資をした上でさらに労働をしているわけだから、具体的には「日経平均変化率×インフレ率(最近はデフレだが)」に対して、最低でもプラス30%ぐらいの利回りがなければ、大失敗となるわけだ。

それができなきゃインデックス(ETFとか)に投資して「放置プレイ」としたほうがましである。特に、収入は大して多くはないが時間給の高い僕の場合、なおさら期待値がでかくなければやってられない。あくまで儲ける手段としてはやってられない。

ところが、そもそも期待値なんて短期の場合は出せっこない。なぜなら短期の市場は、事実上ゼロサムゲームであって、博打のプロの手にはまってしまうからだ。企業のファンダメンタルズなんておまけでしかない。

と、およそ一ヶ月足らずの「なんちゃってトレーダー」は、当初の考え方を変えるにはいたらなかった。ただ、ひとつ分かったことは、多くの個人投資家は「儲け」も期待しているが、そもそもトレード自体が「面白い」と感じているのだろうということ。

企業のファンダメンタルズに基づいた長期投資(いわゆる「バリュー投資」)と裁定取引以外に、株式投資で確実に儲ける方法なんて「絶対に無い」のは、冷静に考えれば誰でも十分にわかっていることなのに、つい画面がちらちらするのが面白くてやってしまうというわけです。

最近本屋に並んでいる、いわゆる「チャートの読み方」みたいな本。

そりゃ後から振り返れば、誰だってわかるよね。どこで買って、どこで売るかなんてさ。つまりそんな本が出るってことは、出す方からしてみれば、チャート分析して株式投資やるよりも、本にしたほうが儲かると踏んでいるからであって、確実に儲かるチャートの分析なんて無いのよ。これホント。

でもそれ読んで、「なるほど、これで明日から僕も儲かるぞ~!」なぁ~んて思っちゃう人が95%位いるんです。なんでそんなことがわかるかというと、「Yahooファイナンス」の個別企業の掲示板を見ればわかる。ここを読んでいる限り、彼らは自分が投資している企業のファンダメンタルズ(キャッシュフローだとか資本効率だとかの推移など)はおろか、当該企業発表のニュースについても調べていなかったり、調べていてもその意味(たとえば、自社株買いとその償却、ストックオプションの発行、株式分割、などの会計上の仕組みと株価に与える影響)がわからなかったりと、彼らには大変申し訳ないが、「よくそれで、株式投資しますねぇ」と言いたくなる。

ひどい有様です。合法カジノだと思っているのでしょうか。個人投資家の9割が損を出しているというのがよくわかります。皆さんもちゃんと勉強してから、始めてくださいね。僕のお勧めは、ウォーレン・バフェット関係ですよ。 とは思うのだが、止められないかもしれないぞ。

「低金利時代とネットの普及で、個人投資家が増える。ということは、損でも儲けでも、とにかく儲かる企業は・・漁夫の利を得るのは・・ネット証券だな・・・フムフム・・・まずは松井証券の企業価値評価でもして見ましょうかね。」と、こりゃ、中毒だわね。ちなみに、僕の新しい講演メニューの「企業価値評価」は、企業価値のお勉強とその算出方法をエクセルのシートに落とし込むためのコースなのですよ。全部で12時間。でも短期売買には役立たずですよ。いや短期売買は、それ自体が役立たずです。

2004年6月4日 板倉雄一郎





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