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SMU 第85号「今日の日本経済新聞から」

スタッフ募集に関して・・・現在お持ちのスキルについてですが、僕があまりにも「簡単です」的なことを書いてしまってごめんなさい。僕自身は慣れもあってか、ほいほいやっているわけですが、初めて作業する方の立場で考えてみたら、特に財務会計については、そんなに簡単ではないのです。確かに作業していただく方の主観が入りにくい部分ではあります。しかし、企業の過去の業績分析から、「主に」投下資本利益率などを算出するわけですが、ROEやROAのように、企業の会計上の資産を「えいやぁ?っ!」とひとまとめにして、これまた会計上の利益と共に「えいや~っ」と算出するわけではなく、企業の経済実態を把握するために、業種、業態および資産の構造から、営業上の投下資本に組み入れるべきものと、そうでないものをある程度分類しなければならないし、さらに利益についても同様に、単純に営業利益や当期純利益を使うわけでもないわけです。この辺付け加えさせていただきます。

それでは、本題です。

「個人向け国債 6兆円に増額」(第一面)

これまた、売れるんでしょうねぇ。
国債の安定消化というのが目的なのでしょうけれど、こういう金融商品を販売する上で、(国が発行主体なわけですから、なおさら)国民にその特性をちゃんと説明する必要があると思うんですよね。でも実際には「国が保障するから安全です」というだけなのです。いいですか、これよーく考えていただきたいのですが・・・借金をする主体が、資金の出し手に対して、「私が保証するから大丈夫です」と言っているのを資金の出してが「なぁ?るほど」と納得している構図なわけです。変ですよね(笑)
普通あらゆる金融商品には、「リスク情報」というのがあって、これが商品説明の大部分を構成します。しかしながら、国がやる場合は、常に「大丈夫」の一点張りなんですよね。まあ、買う人の自己責任ですけどね。
さらに、第64号で詳しく説明したように「金利が上昇すれば、債券価格は下がる」わけですよ。現在歴史的にも異例な低金利状態ですから、近い将来に購入した債券は(国債に限らず)、その資産価値が下落するわけです。ところが多くの人は、そういった「相対的な価値(=実質価値)」に鈍感で、単純に表面利率の「絶対値」と、それによって計算される将来キャッシュフローの「絶対額」が、少なくとも銀行預金よりマシということで、喜んで買うわけですね。確かに金利が上昇しようが下降しようが、受け取れる利子と満期の金額の「絶対値」には変更がないわけですけど、それが資産運用上の「安心」の根拠なら経済学なんて必要ありませんね。
お金の価値について我々日本人は、「お金があったら銀行に預金しなさい」などと親に教えられてきたわけで、相対的な価値については、全く無知なんですね。悲しいことです。

「新興ネット企業 M&A成長戦略」

出ましたね。主な内容は「楽天」と「ライブドア」の買収戦略についてです。久しぶりに良い記事を読んだ気がしました。その理由は、大和証券の長谷部潤というシニアアナリストの方の「楽天の連結業績を見ても、既存事業と買収先の事業を単純合算した水準」という言葉です。
このエッセイ第56号でも書いたとおり、単純合算による業績向上では、株主価値の増大にはつながらないわけですよ。つまり買収のために、自社の株式や現金を放出するわけですから、買収によって得られる事業のために、それらを失うわけです。その結果一株辺りのキャッシュフローなり、利益が増すためには、シナジーが得られなければならないわけですね。
この点非常に重要です。僕は単純にM&Aを否定するわけではありません。ただしつこいようですが、買収によるシナジーが得られたケースは、ほとんどないということが気がかりなわけです。今後の同社の手腕に期待したいところです。
球団を買収しようが、企業を買収しようが、それ自体をどうこう言っても始まりません。それによって株主価値が高まるシナリオが、彼らに数値としてはっきりあるのでしょうね。まさか、無いわけないですよねぇ。まさかねぇ・・・しつこい?
一方、若手経営者の新興企業として有名なある企業の場合、買収路線ではなく自社事業の育成のために資本投下をするという方針を打ち出している企業もあります。僕はこっちの方が好きです。好きというのは、すなわち株主価値を高められると考えるからですが。

2004年7月7日(七夕) 板倉雄一郎




 


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