板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第86号「損切り」

まずは、本題の前に・・・・
僕の弟君が、3ヶ月ほど前、結婚と時を同じく飲食店をオープンしました。
で、彼から当WEBでの告知とリンクの要請を受けたので、行ってきましたよ。
(「ほぼ日刊イトイ新聞」連載「懲りないくん」の頃からの読者には、ちょっと懐かしい文体で・・・)

7月7日(七夕)
15:00
3日続落中の東京市場にて、
失敗株の早期損切りと短期急騰予想株への資金シフトの成功により、
この暴落の中、益出し完了。
16:00
本日のデート件、弟君の店視察の準備のため、
お台場は「ホテル日航東京・スパ然」にて、
手抜きのスイミングとサウナ。
田中健さんと久しぶりに会う。
相変わらず、いい男。
19:30
新宿は都庁第一庁舎前にて、
とあるIT系上場企業(僕も株保有)に勤めるKY嬢をピックアップ。
一路、上祖師谷の住宅街に位置する弟君の店へ。
KY嬢とは、かれこれ14年の付き合いになるが、
どういうわけか「映画鑑賞」は一度もなし。
まあ、妹みたいな感じ。
20:00
弟君の店「・・・・」に到着。
あらまぁ、確かに「Cafe & Dining」そのものの外観。
こざっぱり、綺麗にまとまっているが、正気言って没個性。
早速シャンパーニュを注文するが、
極めて残念なことに、
グラスの表面に油が、かすかに残っているのだろう、
液体のガラス面に残る様が、
せっかくのシャンパーニュの爽快感を阻害。
早速一発目の忠告。
弟君にお任せした料理は、この店自慢の「麻の実の豆腐」、
「スズキのカルパッチョ」や「湯葉とごぼうの揚げ物」など、
文字でみたらおいしそうだけど。
ごめん、弟君よ・・・まずくはないが、おいしくない。
どんな料理を作りたいのか、それは見えるが、未完成。
味、舌触り、香り、すべてにおいて、
身内ということで、なおさら厳しいかもしれないが、
残念ながら50点以下。
料理も、内装も、立地も、
いつかどこかで見たことのある「カタチ」。
店を開きたいと夢を持つアマチュアの
安易な理想をそのままカタチにしたお店。
プロとしての拘りや主張を見つけることができず。
でも弟君よ、
君がここまで(少なくとも)カタチを作り上げられたことに、
まずは拍手を送りたい。
何しろ雇われるのではなく、
事業を始めたことに変わりはないのだから。
あらゆる事業は、始めるのはやさしい。
難しいのは、育てること。
さぁ、これからがんばってください。
食後、延々と説教。
23:00
KY嬢をお行儀良く自宅に送り、
船橋の実家へ帰宅。

ということで、
今回はこのWEBでのリンクは、取りやめ・延期。
また3ヶ月ほどたった頃、店を窺い、再度検討。

以上、「懲りないくん」文体(体言止め)でした。

デイトレ関係の話しは、第74号で止めたはずなのに、ある読者から「どうしても損切りできない(中略)教えてください。」という悲鳴のメールが寄せられたので、書いちゃいます。
本題「損切り」についてです。

「損切り」・・・株式投資の初心者にとって、これほど理屈は簡単でも、実行に移すのが難しい取引は他にないのではないでしょうか?
株式投資の指南書に書かれているのは「損切りの重要性」や、それに伴うルールの見本(たとえば、「10%で損切りすべし」とか)です。確かに読めば納得できるし、その重要性も理屈としては理解できます。
しかし投資の目論見が外れ、それが現実になったとき、あたかもマシンのように「10%も下回っちゃった、あらら、じゃあ損切りしましょう」などとできないのが人情というものではないでしょうか。
「いや、待てよ、今日は相場全体が下げているし、この会社は業績悪いわけじゃないから、きっと全体が持ち直すときに、一緒に持ち直すさ」とか思ったりしていませんか?
または、「ちくしょー、こいつの損は、こいつで取り返すぞ」などと、思ったりしていませんか?
はたまた、「もし今損切りして、すぐに戻したら悔しいよなぁ?」などと、思ったりしていませんか?
いずれの場合も、経済的にはまったく「意味なし」の投資姿勢です。
なぜ初心者は、損切りできないのか・・・その原因は、株式投資指南書などに書かれている「?の場合は、損切りし・な・け・れ・ば・な・ら・な・い」という表現にあると思うのです。
つまりこのような表現は、「あきらめて?しなければ、もっと悪いことがあなたに起こります」と言っているに等しく、地獄に落ちる前に、地底ぐらいで「我慢しなさい」に聞こえます。
僕も自分の執筆のためのマーケティングとして、いくつかの指南書に目を通しました。
で、得られた結論は、「この程度の内容なら、僕はもっと価値ある文章が書ける」ということでした。(生意気ぃ?!)
僕なら、損切りについて、こう表現します。
「損切りすることにより、あなたの資金に自由度が生まれます。」
または「今もっている銘柄より、もっと期待上昇率の高い銘柄に乗り換えができます」と。

「おり・おば」(第70号)でも書いたとおり、昨日までに失ってしまったお金は、その理由が何であれ、無いものに変わりありません。逆に今手元にある換金可能な価値は、まさに今、目の前にあるわけです。問題は、今現実に目の前にある価値を、如何に短時間で増やすかということの、繰り返しが続いているわけであって、その手段は限定されません。こう考えれば損切りの決断はたやすくなります。

たとえば、ある日、マクロ経済の要因で、相場全体が下げたとします。(この3日間がまさにこれにあたります?まだまだ続くかもしれません)、このとき、A社株式が1000円から10%下落して、900円になったとします。あなたの損切りラインぎりぎりです。このとき初めてあなたは仕込んだときの気持ちを思い出します。
「ああ、確かにこの企業、大して調べもせずに、値動きが軽いからと博打ってしまったんだよな」とか。ところが他の株式を見渡してみると、相場全体が下落していますから、目を付けていたのに、自分の価値判断より割高で手が出なかったB社の株価まで下落しているのを発見します。
これはチャンスです。
ここで最も重要なことは、仮に相場が戻したとして、そのときA社株とB社株の、どちらが「値上がり率が高いと予測するか」ということです。
もし、チャンスがめぐってきたB社株の方が、値上がり率が高いと判断すれば、即座に下落してしまったA社株を損切り=売却・現金化し、同額の資金をB社株に投資すればよいわけです。
あなたの予想が当たれば、A社株を保持したまま相場の戻りを待つより、B社株に乗り換えた方が、同資金の利回りは上昇します。この場合、損切りしたA社株式が、損切り直後に上昇したとしても、痛くもかゆくもありません。
(ただし、どの株も、今以上大幅に下落することも、少なくはありません。その場合には、すべての株式を損切り=現金化し、相場全体が底値になったと思われるときに、狙っていた企業の株式を買い捲ればよいわけです)
つまり、どの株で益を出し、どの株で損を出したかが問題なのではなく、あなたの保有する証券口座の資産全体が、どの程度の期間で、どれほど上昇(または下降)したのかが重要というわけです。

と、損切りについては以上のようなことですが、基本的には、相場全体が下げようが上げようが、安心してじっくり見守ることができる企業の一部を所有した方が、長期では遥かに利回りは高くなります。
読めるはずの無い相場を読もうとするより、企業価値を把握する方が、確かにとっつきにくいですが、遥かに利回りを向上させることができるのです。

2004年7月8日 板倉雄一郎




 


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