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SMU 第159号「高級品が金持ちの金を循環させる」

お正月の間はどこにも出かけなかった僕は、ひたすら読書とテレビ鑑賞でした。

で、そのテレビ番組の中に「芸能人格付け番組」なるものがあって、楽しく拝見させていただきました。

この番組、飲み物、食べ物、楽器、絵画、などなど(そもそも値段のあって無いような)モノの極端な高級品と安物を芸能人が二者択一で当てるというわけです。皆さんもご存知ですよね。

食べ物であれば、目隠しして味覚のみで。楽器であれば、その音色のみで。安物と高級品を聞き(という表現に統一します)比べるというわけですが、芸能人の皆様、ものの見事にはずしまくるわけです。

これをもって「芸能人など大したものではない」などと書きたいわけではありません。

僕自身、いわゆる高級とされる、自動車、食べ物、飲み物、楽器などに触れる機会と経験が比較的多くあったわけですが、それらの何か一つの要素だけで、安物と高級品を100%判断できるとは、正直思っていません。

例えば、白身の魚を新鮮な状態で目隠しして少量を食し「さかな君」のように、その全てを言い当てるなんて、恐らく出来ないでしょう。(だからさかな君は、スゴイんですけどね)

なぜなら、「食」というものは、かなり多くの部分を視覚や聴覚で味わっている現実があるからです。

例えば、この番組で使われていた「大田原牛」(だったかな?)はキロで20万円!(ひぇ~)だそうですが、それを充分に味わうということは、すなわち・・・・

 -2、大切な人と待ち合わせし
 -1、それらしき店に入店し
  0、食前酒と前菜で盛り上がり
  1、それが希少価値のとても高い牛肉であるという情報を聞き
  2、その霜降り加減を目で味わい
  3、それが鉄板の上で調理されてゆく過程を、目と耳で味わい
  4、箸で取り、口に運び、香りを確かめ
  5、舌で味わい、飲み込む
  6、以上の過程に身をおいているセレブな自分を確かめる・・・
   (この部分が19万円ぐらいかな(笑))

という全過程を経て初めて、20万円というわけです。

(ですから目隠をして、少量を人に食べさせてもらって判別するということ自体が、馬鹿馬鹿しいことなのです。が、制作者側は、そんな馬鹿馬鹿しさは、百も承知でしょうけれど。)

また、楽器についても同様に、僕には正確な判別が出来る自信がありません。

僕の好きなギタリストの一人であるところのヴァン・ヘイレンは、商用のレコーディングの際にも、ゴミ捨て場から拾ってきた安物ギターを改造して使っていたりもします。しかし彼のギターの音色は、すばらしいわけです。

つまり、高級とされ、高値で取引されるモノの多くは、それ自体の目的における「すばらしさ」だけではなく、それ自体の歴史、作り上げる工程の複雑さ、希少価値、コストなど様々な要素によって、「かろうじて」その値がまかり通っているに過ぎないわけです。

こう書いてしまうと「板倉は、分かってないなぁ~」となるかと思います。確かに「分かっていない」のかもしれません。しかし、仮に分かったとしても、そのモノが作られた目的の達成のためには充分であるところの安物に支払う現金の数倍~数百倍、場合によっては数千倍もの現金を高級品に支払うのが馬鹿馬鹿しいと思うわけです。

多くのモノは、その効能の80%程度までを得るためには、安物で充分であり、いわゆる高級品は、最後の20%を得るために、何倍ものコストを必要とするというわけです。

そして、多くの人には、その区別が付かないというわけです。
(っていうか、大金を掴んだ人に限って、分かってない人多いのですよ)

もし、その区別が付いたからと言って、一体どんな価値がその人間に見出せるというのでしょうか?

「懲りないくん」までの僕とは正反対のような表現ですが、「そんな高級品の価値が分からない方が、よほど幸せな暮らしが出来る」とさえ、思ってしまいます。

「おりこうさんとおばかさん」的に表現すれば、
高級品と呼ばれるモノを作り出す人は「おりこうさん」。

その作り出された高級品に大枚を支払う人は「おばかさん」。
そして富は、おばかさんからおりこうさんに移っていくわけです。

ただ、それだけのことなのです。

最高とされる「大間の黒マグロ」を職人が丁寧に煮切りを付けて客先に出すのに、そのマグロに醤油をどば~っと付けて食べている「お金持ち」いるでしょ。(笑)

正直、笑えます。

でも、彼らのような人間のおかげで、お金が天下の回り物となりえるわけで、その意味では、彼らセレブは、非常に貴重な存在なのです。

もっと(良い意味で)弾けろ!セレブたち!

僕の場合はというと・・・・
先に書いたヴァン・ヘイレンと同様、いわゆる高級品でしか達成できないと思われている「味わい」に、安物を仕立て上げる能力に、少なくとも僕は価値を感じ、投資するわけです。

スーパーのディスカウント肉を、その技によって、高級品と区別が付かないように調理する手腕。
練習用のバイオリンで、聞く人を魅了する音色を奏でる腕。
トヨタ・アルテッアで、日産スカイラインGTRをぶっちぎるテクニック。
おんぼろボルボでも、ナビシートの女性を口説ける話術。

こういう「技」にこそ、本当の価値があるわけです。

なぜかって、そりゃ簡単ですよ。「かっこいい」でしょ。

かのウォーレン・バフェット氏は、フランス産の高級ワインのことを(正確な日本語訳ではありませんが)

「あれは、『口がうまい』だけなのではないでしょうか?』と表現しています。

残念ながら、今の僕はバフェット氏のように、目の前に注がれようとしているシャトー・ラトゥールに、
「私は結構です、その分現金でください」などとジョークを交えて断ったことが話題になるほどの人間ではありませんが。(笑)

でも、食べ物に関しては、やっぱカネを使っちゃうんだよね。
あの「さかな君」って、近年まれに尊敬できる人ですよ。最近メディアに出てないですけど。

「好きこそ物の上手なれ」を絵に描いたような人だよね。
ホント、彼はすごい。

2005年1月5日 板倉雄一郎





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