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SMU 第122号「日経記事~ゲーム理論」

昨日は、「企業価値評価シリーズ」セミナー、東京第一グループ(株式会社スペースキー様主催)の第4回目を開催しました。

シリーズ1、2回目は、主に「お金に関する常識の破壊と再構築」を主眼としている関係で、それまで聞き慣れなかった「キャッシュフローの現在価値割り引き」とか、「IRR」とか、「複利の脅威」とか、「資本コストと期待収益率」などの原理の習得とエクセルシートへの展開ということになるため、これまでの感覚的な常識(たとえば、将来の収支の割り引き率を考慮せずに単純ベタ計算するのが当り前だったり、自己資本には有利子負債以上の資本コストが存在することなど全く考えてもみなかったことなど)の壁を受講生から取り払い、考え方を再構築をすることになるので、同じことを何度も違った角度で繰り返し講義する中で始めて真の理解を得られるという「強制」の時期です。よって、結構大変でした。

しかし、3回目以降は、それまでで再構築された原理に基づき、企業がどのようにその価値を高めるのかのモデルを分析したり、特定個別企業の過去の業績を分析する過程なので、割とスンナリ進むようになります。

この段階までくると、それまで「なんとなく理解したつもり」の日経新聞などの記事の見え方がガラッと変わり、はっきり理解できる部分と、理解できない部分の認識ができるようになるわけです。

受講生の成熟を見ているだけで、嬉しいのですよ。これホントです。

生意気を言うようですが、セミナーでの収入は、少なくとも僕にとってそれほどオイシイわけではありません。それでも継続してやり続けているのは、自分の話や経験や知識が、誰かを成長させているという楽しみに他ならないわけです。

ホント、楽しいです。

来週からは、いよいよ受託によるセミナーではなく、当事務所主催の一般公募セミナーが始まります。このセミナーから、講師に僕以外の当事務所スタッフも参加することになり、益々楽しくなりそうです。

ということで、本題の日経記事に関することですが、今しばらくは、企業価値評価に関わる記事を取り上げ、その分析をしてみようと思います。

話し変わります。

日本経済新聞の記事のすごさは、一つ一つの理論の理解が無い人でも、文字を追うだけで「わかった気がする」様に書かれているところなんですよ~(笑)だから始末が悪いんですけどね。

たとえば本日(2004年10月19日)付けの朝刊一面トップ記事「外資株取得時の課税猶予」~「株式交換型M&A云々かんぬん」という記事があります。

この新聞、発行部数はおよそ300万部と聞いていますが・・・

「株式交換によるM&A」と書かれていて、そのメカニズムをちゃんと理解している人って、読者の何%位いるんでしょうかねぇ?

また、「現金による買収と、株式交換による買収の、システム/会計/税務などの違い」について、どれほどの人が理解されているのでしょうかねぇ?

-と僕は感じてしまうのです。

以上のことが理解できないで、「非買収企業の株主に対する課税を猶予する」と言われても、さっぱりわからないはずですよねぇ。

でも、この記事を読んだ人(且つ、以上のことがしっかり理解していない人)の殆どは、なんとなぁ~くわかった気になるんですよ。

日経ってすごいです~でも、意味無いです。

以上のことをもっとつっこんで話を展開すると・・・株式交換にせよ、現金によるM&Aにせよ、それは「誰かが、何かを手に入れる代わりに、誰かが何かを失う」ことに他ならないことなど、殆どの人には理解不能なのではないかと、M&Aのその本質については、おそらく多く人は理解していないと思うのです。

問題は、その「誰か」ってのは、一体誰?ってことなのですが、これは、言うまでも無く株主というわけであって、買収企業の株主が注目すべきは、非買収企業を買収することによって、買収企業の投下資本利益率がどのように変化するのかに注目すべきであって、したがって「・・・」と咀嚼(そしゃく)できることが、記事を読んだことを自身の価値に転換できる唯一の方法だというわけです。

さて、どれほどの人が、以上の「・・・」を展開できるでしょうか?
う~ん、300万人(+回し読み)のほとんどは、文字を追うだけじゃないでしょうかねぇ。

以上のことがわからなければ、本記事における「税」の話など、何の理解にも至らないと思うのですが。

ところで、本日の記事ではありませんが、最近最も興味のある企業活動としてソフトバンクをあげることができます。

彼らが発表した「~より、0.1円安くします」という発表を見て、僕は正直ビックリしました。

ビックリしたのは、「大胆なことやるなぁ~」ということではなく、「この方(孫正義氏)はゲーム理論を実践に本気で応用しているよ」という意味でのびっくりです。

あの発表は、要するに「アンタがやるなら、オレもやるよ。ちなみにオレの方が低コスト体質だからね。へへへ」っと僕には聞こえますし、それを発表(先に公に)することに意味があるというわけです。

ゲーム理論を少しでもかじったことのある人なら、彼の理論と本気さ(を前面に出すという戦略)を合理的に理解できることと思います。理解できない人は、ゲーム理論に関する書物を読んでみてください。ここでゲーム理論に関する説明は割愛します。

それでは、今日はこの辺で。

今後、益々具体的な記事の内容に、つっこんで行きたいと思います。
お楽しみに。

(10月23日開始の当事務所主催による「企業価値評価シリーズ」セミナーは、定員に達しましたので、募集を締め切らせていただきます。)

2004年10月19日 板倉雄一郎





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