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SMU 第169号「単純な事業VS複雑な事業」

(今日のエッセイは、長いです)

昨日、元カミサンが、女性用商品のTVCFで画面に出ているのを見つけてしまいました。
彼女は、僕と出会う前から、モデル&女優(彼女は10代の頃から女性雑誌「JJ」の専属モデルなどをやっていました)でしたし、僕は、結婚後も彼女に仕事を止めて欲しくなかったので、結婚している間も彼女は仕事を続けていました。だから、離婚後にTV画面に突然出てきても驚きはしません。
驚きはしない代わりに、なんか「ほっと」しました。
いい子ぶるつもりはありませんが、元気に活躍している彼女の姿を見ることができて、安心しました。
自分に関わった人間が、そのかかわりそのものが失敗に終わっても、その後に活躍している姿を見るのは、少しだけ、罪の意識を和らげてくれます。プライベートでも仕事でも。

話し変わります・・・
最近、ザイムショーのお偉いさんたちが、海外にて、いわゆる「国債ロードショウ」を必死(?)にやっていますよね。
つまり、国債を海外の投資家に売りつけるためのプレゼンというわけです。
が、買う分けないですよね(笑)
プライマリーバランスはマイナスで、その回復が不透明で、かつ歴史的にこれほどの借金をした国が無くて・・・つまりハイリスク。
ハイリスクなのに、低金利。
一体誰が買うのでしょう?
あっ、僕らでしたね(笑)

昨日(SMU第168号)、β(ベータ)による投資リスクの分析には限界のある話を書きましたが、このときCAPMの考え方に従うと、株主機会費用(まあカンタンに言えば、投資家の期待収益率)の算出のベースには、「リスクフリーレート」というのがあります。(昨日のSMUに式が書いてあります)
通常はこれを「その国の長期国債の利回り」とするわけですが、日本国債は「リスクフリー」ですかねぇ?
だからCAPMって、βの限界とあわせて、僕にはしっくりこないのですよ。
しかし、セミナーでは、
「馬鹿馬鹿しいCAPMについても講義しますが、同時にそれが馬鹿馬鹿しいことも講義します」
これ、実務家のセミナーと違うわけです。
(僕、仕事でもプライベートでも、童貞じゃありませんから(笑))
そもそも、全うな経済環境の下では、確かに国債が最もリスクが低いと考えられるわけです。
が、下手すると、近い将来、政府より国際優良企業(たとえば、トヨタとか)の方が(つまり、国債より、社債の方が)、「低リスク」と捉えられて、格付けが逆転(=つまり、国債のほうが、国際優良企業より利率が高い)となる可能性を否定できませんよね。
「お金は、政府か、民間かを区別しません。」
と、以上のようなことを、ザイムショーの方に話すと、「いや、企業と政府は違いますから」とか言い出すのが常です。確かに違うでしょう。「紙幣の印刷」が出来ることと、「税金(=企業にとっては売り上げ)を強制的に作ること」が出来ますからね。
でも、この「違い」を行使したときは、「紙幣の印刷」=「インフレ」、「増税」=「経済の萎縮」ですからね。
だから、僕らは、国債を買い続けるか、大幅な増税に応じるしかないというわけです。
まあ、どちらも現実になるでしょうけれど。
(「変動利付き国債」の場合は、以上の限りではありません。)

また話し変わります・・・
キャッシュカード偽造のニュースが流れています。
ゴルフ場で、被害者のプレー中に、「貴重品金庫(暗証番号付)」に預けられた財布からキャッシュカードの情報を盗み、貴重品金庫の暗証番号で、偽造キャッシュカードの暗証番号を見破るという手口だそうです。
これ、(被害者には失礼な言い方ですが)「笑えますよね!」
だって、「貴重品だから盗まれないように」ということで、貴重品入れに入れるわけですが・・・
貴重品金庫ということは、「そこに貴重品がありますよぉ?」って言っているようなものですし、
さらに、ご丁寧に貴重品金庫の暗証番号として、カードの暗証番号を「教えてあげる!」ってわけですからね。
なんだかこれ「資産を減らしたくないから、株式のようなリスクの高い商品ではなく、『リスクの低い』国債で運用します」って人と同じこと?
はたまた「外貨預金や外国債は為替リスクがあるから、日本国債で・・・」って人と同じこと?
少なくとも僕の目には、そう見えます。
(ちなみに、為替リスクとは、一国の通貨で全資産を保有することによって生じるリスクなのですけどね。ははは)

またまた話し変わります(なかなか本題に入りませんねぇ)
A380(エアバス)は、すごいですよね。
ひたすらでかくて。
ヨーロッパの人って、「大きさ」に対するコンプレックスがあるのでしょうか?
つまりアメリカに対するコンプレックス。
古くは、タイタニックなんかがそうですよね。
ヨーロッパは、ヨーロッパのコジンマリ、しかし奥が深い・・・そこが良いのですケレド・・・
僕は、アメリカ流の、「なんでもかんでも大味」なのは、もう飽きちゃいました。
だって、あいつら「白身の魚」=「シーバス(鱸)」だし、「赤身の魚」=「ツナ(鮪)」という構造ですからね。僕はついていけません。

またまたまた話変わります・・・セミナーの話しです。
これまで、募集条件として、「マイクロソフトオフィスの既インストール済みWindowsパソコンをお持ちいただける方」としていましたが、よーく考えるまでも無く、Macintoshでも、OKなのです。
平たく言えば、「エクセル」がインストールされていれば、それでOKって事です。
ちなみに、LAN接続は、ワイアレスではなく、フツーの有線接続を用意しています。
昨日、この点でMac所有の受講希望者から質問を頂いて気がついたので、案内ページも修正いたしました。
Macの方も是非。
(ああ、機会損失)

さらに、昨年「初回(1コマ目)だけ分離セミナー」に参加いただき、その後、ご予定の都合で継続受講(2?6コマ)が出来なかった方には、初回分(31,500円)のディスカウントをいたしますので、これに該当される方も、この機会に是非。
なお、この場合、合宿カリキュラムの1コマ目は、出席いただいても、頂かなくてもOKです。内容同じですから。

前回は、CPA(公認会計士)の受講生もいらっしゃいましたが。もちろん彼にも喜んでもらえました。プロにも、初心者にも満足いただけるセミナーというわけです。(セールストーク!)
家庭内のザイムショー(笑)への、セミナー費用の交渉で困っている方へ・・・ヒントです。
「投資キャッシュフロー無くして、将来のキャッシュフローは生まれません。」以上。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
それでは、本題「複雑な事業と単純な事業」についてです。

事業の成否を決める要素はいくつか考えられます。
マーケットが予想通り存在するのか?
商品開発は予定通り進むのか?
原材料の調達に難は無いのか?
必要な資金を低コストで調達できるのか?
などなどなどなど・・・・
これらの要素一つ一つの成功の確率が、仮に80%だったとしましょう。
成功確率80%! ですよ。
一見、いけそうですよね。
ところが、事業の成否を決める要素は、当たり前ですが、上記のように、たくさんあります。
すると、事業全体の成否は、それぞれの要素の成功確率の「積」として得られます。
事業の成否を決める要素が、大きく3つあり、それぞれの成功確率が80%だとすると・・・
事業の成功確率=80%*80%*80%=80%^3=50%
となってしまいます。
もし要素が、5つあれば、
事業の成功確率=80%^5=32%
となってしまうわけです。
もう、全然「いけてない事業」になってしまいます。
つまり、複雑な事業=事業の成否を決定する要素が多い事業は、そもそもその構造上成功しづらいというわけです。
複雑な事業が成功しづらい原因は、もっとあります。
事業は、常に、事業計画どおりには進まないものです。
事業計画以上にうまく行く場合もあれば、その逆もあります。
そのとき、経営者は「一体何がまずいのか?」と考えるわけです。
このとき、事業要素が多ければ多いほど、「一体どこを改善すればよいのか?」と意思決定が出来なくなってしまうのです。
ひどい場合には、要素1は、要素2によって決まり、要素2は、要素3に影響を受け、要素3は、要素1によって決まる・・・・これを条件循環といいますが・・・という面倒な事態に陥るわけです。(ちなみに、ハイパーネットの事業は、以上のような「悪い例」です。)

「なるほど、ならば単純な事業の方がいいのだな」と考えるのは、複雑な事業が良いと考えるよりはマシですが、そう単純ではありません。
なぜなら、事業の要素が少ない事業の場合、要素が少ないからこそ、一つ一つの要素が事業全体に与える影響が大きくなるわけです。
これはすなわち、「要素の一つに何かが起こっただけでも、事業全体がとんでもないことになる」というわけです。
たとえば「吉野家D&C」が、そうですよね。
事業は、誰が見ても、極めて単純です。
(少なくともBSE前は)「牛丼」が唯一の商品ですし、すべてのお店を全く同じオペレーションで行いますし、原材料も多くは米国産ショートプレートというわけです。
売り上げ=平均を取る必要も無いくらい一定の客単価*客数
と簡単です。
しかし、ご存知のとおり、一つの事業要素「原材料の調達」に難があっただけで、今の状況を迎えてしまったわけですよね。
この点をもう少し深く考察すると・・・
事業要素の成功確率の変動が極端(つまり100%もしくは0%=牛肉には困らない?全く手に入らない)であることが、本質的な問題というわけです。
(おまけですが、吉野家の場合、我々の分析によると、BSE発生の前から、収益性は徐々にではありますが、低下していたのです。つまりBSEだけが彼らの問題ではないということです。セミナー卒業生の皆さんは、よーくお分かりですよね。それにしても、β=1以下って事は無いでしょ。)

以上をまとめると、
「事業要素の少ない「単純な事業」は、基本的に成功確率が高い。
しかし、一つ一つの要素の成功確率がひどく変動しない場合に限られる。」
となるわけです。

ちなみに、昨日のエッセイ(SMU第168号「β(ベータ)」)の続きになりますが、たった一つの数値(β)によって、以上のような企業への投資リスクを判別することなど、到底不可能なことが、お分かりいただけると思います。

起業家としても、投資家としても、実感のこもったお話しでした。

2005年1月20日 板倉雄一郎





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