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SMU 第67号「配当および自社株買いの是非」

今日は、相場が上がってしまって、非常につまらない(目を付けている企業を買えない=仕込みができない)ので、早めのエッセイにします。

最近、Yahoo! Financeの掲示板を覗く機会があった。(もう見ないけど)まあ、根も葉もないことから、企業評価について明らかに間違った考え方、そして誹謗中傷とまるで「2ちゃんねる」と同じで「負のエネルギー」みたいなものを感じる。

それでもまだ2ちゃんねるよりマシだと思うのは、少ない知識と経験ではあっても、一つの企業の株価に対して意見交換がされている点だろうか。(まあ、わかってる人は、こんなところに理論や情報書か無いけどね)そこで、結構多くのコメントに「自社株買い」の是非、および「配当」の是非が書かれているので、僕が一つ整理してみたいと思う。

そもそも企業の収益というのは、投下資本に対しどれほどの利益率を持っているのかということに集約できます。当該企業の資本調達コストと投下資本利益率の「差」が企業の価値創造の源です。

この差(スプレッド)がインフレやそれに伴う金利上昇に対して十分に大きければ、後は、とにかく売り上げと利益を拡大すれば、将来キャッシュフローが増大し、その現在価値は上昇し、よって株主価値が上昇(株価上昇)します。実に簡単です。以上は、(少なくとも長期については)断言できます。

(補足ですが、上記のスプレッドがマイナスだと、会計上の売り上げと利益をいくら増やしても、将来キャッシュフローつまり企業価値は上がるどころか下がります。なぜなら将来キャッシュフローの割引率は、資本調達コストになるわけだからです。増収増益でも企業価値が下がる=株価が下落することがあるというわけです。ですから会計上の利益や、それに基づく指標・・PER、EPSなどは、株価予測の参考程度にしかならないということです)

このところ会計についてちょっと書いてきましたが、マーケットは短期では会計上の利益で株価を動かしますが、長期のトレンドでは、明らかにその経済実態であるところの将来キャッシュフローを参照して動きます。これも理論的にも、統計的にも、断言できます。

仮に、投下資本の増減に無関係に投下資本利益率が一定だとすれば、投下資本が(配当をせずに次期)増えれば、利益の絶対額は増えます。このとき資本異動が無ければ、株主価値は高まる。つまり株価は(少なくとも長期では)上昇する。というわけです。とても簡単ですよね。

分からない人には、銀行預金で考えればわかりやすいでしょう。預金した当初の資金100万円(投下資本)に対して、仮に年10%の金利が付くとしましょう(実際の円建ての普通預金ではこんなに高くは無いけれど、企業の場合はそのぐらいありますから)。

1年後に銀行預金は110万円になっているわけです。ここで増えた10万円を取り崩して(配当して)外部に流出させてしまえば、次の年もまた10万円「しか」利息が増えません。しかし最初の一年で増えた利息分をそのまま口座に放置すれば(配当しなければ=利息分の再投資)、銀行預金金利(投下資本利益率)に変化が無い場合、複利となりますから、110万円に対して10%の利息が次の年に生まれ、121万円になるわけですね。

つまり1年目は10万円の利息、2年目は11万円の利息と利息の絶対値が増えます。よって将来キャッシュフローは増大します。将来キャッシュフローの割引率は、資本コストになるわけですから、先ほどのスプレッドが十分にプラスであれば、つまり価値が高まります。

銀行預金の場合、その銀行が預金の額に関係なく一定の利息を払ってくれるという前提にしましたが、企業の場合はそう簡単ではありません。つまり自社の持つ投下資本が増えても、前年度と同じかそれ以上の投下資本利益率を維持でき、かつ投下資本利益率が資本調達コストを上回っている(=スプレッドがプラス)という条件をつけた場合に、配当や自社株買いなどせずに、当該企業で資本を運用していただいたほうが、将来キャッシュフローが増大し、結果、株主価値が高まるとなるわけです。

もちろんその場合の株価の上昇(キャピタルゲイン)分は、再投資分を配当した場合のインカムゲインよりはるかに多くの価値を株主にもたらします。

もし、前年度以上に投下資本が増えても、投下資本利益率が下がってしまうような場合は、内部留保などせずに、さっさと配当なり自社株買いなりして、資本を株主にお返ししなければまともな経営とはいえません。よくあるんですよそういう企業。

成長株で有名な企業でも、事業に投下するわけでも、配当するわけでも、自社株買いをするわけでもなく、年間売上高と同じぐらいの流動資産をただただホールドする企業がね。良くないですね。株主に返せば、株主はもっと利回りの良い企業に投資できるわけですからね。株主から見た資本の機会損失といいます。

(これに該当する企業は、IT分野で結構有名で、かつ日本のIT大企業がこの企業の日本法人の支配株主です・・・ただ、だからといって株主価値が下がるとは断言できません。この企業の場合、遊んでいる金を含めて投下資本としても十分な投下資本利益率を持っていますから・・・さてどの会社でしょうか?)

つまり投下資本利益率が資本コストや他の企業に比べて十分に高い場合、配当や自社株買いをせず内部留保として、次年度に再投資したほうが、株主価値すなわち株価上昇が期待できるわけですね。

ちょっと追加というか補足ですが、配当や自社株買いをせずに内部留保して次年度の投下資本を増やしただけで、実は利益の絶対額が増えちゃうんですよ。これをもって経営者を褒め称えてはいけないんですよ。

だってまったく同じ企業の構造で、単に投下資本が増えた分だけ利益が増えるわけですから、無能経営者というわけです。もちろん投下資本が増えた分だけ企業価値は高まりますが、これは資本のなせるわざと言うだけのことであって、経営者が経営者として評価されるのは、投下資本利益「率」の向上があって初めて評価されなければなりません。

ディスカウントキャッシュフロー法で考えた場合、仮に配当をすることにより投下資本が増えず一定であっても、投下資本利益率が将来にわたって高くなっていけば株主価値が高まるわけです。同じ投下資本利益率で同じ投下資本(つまり毎期可処分のすべてを配当して)では、株主価値は増えもしなければ、減りもしないわけです。配当利回りばかり見ていても駄目だってことですね。わかっていただけましたか?要するに、「自社株買い」や「配当」そのものの是非を論じても全く意味が無いというわけです。

以上のような条件を付けずに、是非を断言する人、恥ずかしいと思わないといけませんね。当該企業の投下資本利益率と資本調達コストのスプレッドの変化によって、その是非だけでなく、経営の是非も変わってくるというわけです。

では、投下資本利益率や将来キャッシュフローおよびその割引率はどうやって算出すのかということになりますが・・・・それはこの無料エッセイでは教えられません。

それが「企業価値評価シリーズ」の価値なのです。企業価値評価シリーズの費用は、絶対額としては、一般的な講演費用として安くないと思いますよ(それでも、僕の過去5年間の講演一回当たり単価よりは、売り上げが6回分確定するから割安なんですけどね)。でもね、モノの高い安いというのは、支払う対価以上の価値を手に入れられる場合、安いというのですよ。と、一応、営業エッセイ。

2004年6月16日 板倉雄一郎

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