板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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SMU 第73号「購入の意思決定」

帰国しました。
飛行機から降りて、びっくり。
ハワイより、日本の方が蒸し暑い。
まるでハワイに避暑といった感じでしょうか。

で、ついに、やってしまったのですよ。

ハワイからの復路、僕は20年ぶりに国際線のクラスY(エコノミークラス)に乗りました。招待いただいたチケットは元々クラスYだったのですが、NH(ANA全日本空輸)のフライトでせっせと稼いだフライトマイルのおかげで、往路はクラスC(ビジネスクラス)にアップグレード。

しかし残念ながら復路はクラスCが満席でアップグレードできずというわけです。で、「まあ、久しぶりに、(僕自身が最も賢い飛行機の乗り方と考えるところの)クラスYにでも乗ってみるか」となったわけです。実は僕、このフライトで15分ほど飛行機を待たせてしまったのです。きゃぁ~っ!

で、そのイイワケですが・・・

クラスC以上は、各航空会社のラウンジが利用できるわけですが、僕は国際線搭乗の場合、常に早めに空港に行って、ラウンジで過ごします(最近では成田空港全エリアでワイアレスLAN 54Mbpsが一日500円で利用できます)。

搭乗時間が迫ると、狭いラウンジの空間でしっかりアナウンスがあって、ウトウトしていても、グランド・アテンダント(地上勤務)の方が起こしてくれます。そんな慣れのせいか、僕は今回もホノルル空港でフツーに待合室でボーっとしているうちに転寝をしてしまったんですよ。そしたら夢の中で英語なまりの声が響きました。「ユイチロ、イタクラァ!」。

後はご想像にお任せします。

自分が機内に入った直後に「客室乗務員は、ドアレバーをアームド(機材によってはオートマチック)の位置に変更してください」などとアナウンスが流れるのは、ちょっと気まずいですよ。ほんと。ごめんなさい。そのせいもあってか、CAの態度が他のクラスに比べて非常に悪かったような・・・。

それでは、本文です。

おそらく多くの人は、「家」や「車」を買うとき、対象物の価格に相当するキャッシュを用意できるかどうかで購買判断をすると思います。そう言う僕も20代の頃はそうでした。「あの車がほしぃ~」となると、頭の中はその車の価格分のキャッシュを調達することばかり考えるようになるわけです。

ところが、負債総額40億円の倒産、結婚と離婚、20代から始めていた株式投資の日常化、そしてこのエッセイSMU 第64号「企業価値評価シリーズ始動」でご紹介した、講演の新シリーズ「企業価値評価」などを通じ以上の考えは、いつの間にか変化してきました。

昨年のエッセイで、僕はプレジャー・ボートを買うことを発表しました。しかし、シーズン真っ只中の今、ボート購入を断念しました。数千万円のボート購入費用を調達できないわけでも、ボート熱が冷めたわけでもありません。将来キャッシュフローと投資利回りを考えての結果というわけです。

仮に1億円のボート(大きさは、50フィート前後)を購入したとします。このクラスのボートとなると、保険、係留費、メンテナンス費など、全くボートを動かさなくても年間600万円以上の維持コストがかかります。その上このクラスのボートを一度出航すれば、一時間当たり200リッター以上の軽油を消費してしまうわけです。(ちなみに、夢の島マリーナから式根島まで、トップスピード30ノットの船で4時間ほどかかります)

但し、運行コストは、そのときの懐具合で調整すればよいことですし、船が無かったらまた別の遊びで消費するわけですから、この際、運行コストは議論からはずします。

こうした維持コスト以外にも、ボートの減価償却という費用があります。ボートの場合、税務上は4年で償却できますから、あくまで税務上ですが4年で1億がパーになってしまうわけです。

もっとも減価償却費は、キャッシュフローを伴わない費用ですから、他の課税対象収入が十分に大きい人にとっては、むしろ節税の手段として重宝します。しかし、税務上ほどではないにせよ、ボートの実体経済価値は、どんなにメンテナンスに金をかけても、毎年大きく目減りしていくわけです。

つまり、1億のボートを購入した場合、年間600万円の維持費用としてのキャッシュアウト。およびボートの実体経済価値の目減りが、およそ年間1,000万円の資産減価となり、1億の投資に対して、年間マイナス1,600万円ですから、実質年間利回りは、マイナス16%ということになります。

一方、キャッシュフローで考えれば、(ボートで営業するつもりは全くありませんが、都合上)営業キャッシュフローが、毎年減価償却費(定額法)分の2,000万円のプラス、それに維持費600万円のマイナスで計1,400万円のプラス。投資キャッシュフローが初年度ボート購入費で1億円のマイナスとなるわけです。

その結果、フリーキャッシュフロー(営業C/F~投資C/F)は、1年目8,600万円のマイナス(営業C/F2,000万円~600万円、投資C/F1億)、2年目以降1,400万円のプラスです。ただし、ボートを持っても営業収入はありませんから、減価償却費の営業キャッシュフローに与えるプラス効果は、事実上無いということになります。

一方、僕の金融資産の運用利回りを20%とした場合、1億の投資に対する毎年のリターンは2,000万円ということになりますから、この分の機会損失も同時に考慮しなければなりません。

つまり(減価償却費の営業CFに与えるプラス効果を無視し、ボートの減価を将来の売却益を考えて経済実態価値で考え、かつ他の運用による機会損失を加えると)、一億円のキャッシュをボートに投資した場合と、他の金融商品に運用した場合の差し引きは、なんと年間3,600万円!利回りで考えればマイナス36%!

これじゃ、いくら遊びの対価といえども買えません。以上の話は、ボートの例ですから、多くの人にとっては「圏外」ということになるかと思いますが、車の場合も数字の規模が違うだけで、考え方は全く同じです。

何かの投資をする際、それが遊びの道具であっても、個人の資産に対するインパクトは必ずあるわけです。ですから、欲しいものを手に入れられるキャッシュの有無に気をとられる前に、そのキャッシュがあろうが無かろうが、その投資による「利回り」に着目して投資の判断をしなければならないというわけですね。

まあ、当たり前のことです。
当たり前のことではありますが、以上のように具体的数値で考えることによって、その決断をより確固たるものにできるというわけですね。

ほら、感じたことありませんか・・・いわゆる資産家といわれる人たちの家に止めてある車・・・結構古いメルセデスか、新しい安物国産車だったりする光景を。そこのあなた、その光景を見て、「ケチだから、金が貯まるんだ」と早合点していませんか? 彼らは、ケチ以前に、投資利回りと将来キャッシュフローの現在価値の大きさ(=つまり、今のお金が、将来どれほど大きくなるか)を知っているわけですね。

それでは、僕の場合、どうなったら1億のボートを買えるのか?

1、年間2,000万円(税務上の減価償却費)以上の税金を支払わなければならないほど、収入がある場合で、且つ、
2、ボートの減価償却を認められる事業内容で、且つ、
3、年間600万円(維持費)以上の不労所得がある。
のすべてが満たされれば、買えるというわけです。
きゃ~っ!いつになることやら。。。

以上、お粗末さまでした。

2004年6月24日 板倉雄一郎

今日の数字占い 3302 , 4680 , 4915 , 4751




 


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