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SMU 第180号「ゲーム理論の弱点」

皆さん「ゲーム理論」は、ご存知ですよね。(詳しく知りたい方は、その手の本を読んでみてください。)

まあ、カンタンに表現すれば、ディールの際など「こちらがこう出れば、向こうはこう出るはず。よって、こうすれば、相手がこう動き、結果はこうなるはず。」といったやり取りを論理的考えるための手法です。

この「ゲーム理論」を知っていると「複数回実施するジャンケンで勝つ方法」も「需給から、最もリターンを多くする方法」も得られるというわけです。

正直、僕はこの理論は、ビジネスの実践で非常に役に立つと考えています。

ハリウッド映画でも、この「ゲーム理論」が多く用いられています。

例えば、(僕が知る限り)『レッド・オクトーバーを追え!』という映画は、正にゲーム理論をベースにストーリーが描かれていると思います。

米ソ冷戦時代を背景に、ソ連が開発した「無音推進装置搭載潜水艦レッドオクトーバー」の艦長が、潜水艦もろとも米国に亡命する計画に、米ソがそれぞれどのように対応するのか?を描いたものです。

主人公は、米ソそれぞれの出方を分析し、ゲーム理論を応用しながら「ソ連にバレないように、潜水艦もろとも奪取する方法を探る」というものです。

(この映画、ホント面白いですから是非ご覧になってみて下さい)

ゲーム理論は、経済、生活、恋愛など、様々な人間の活動に適用可能なのですが、今回はその「弱点」について書いてみたいと思います。

以前、SMU 第174号「孫正義は狼中年」というエッセイをアップした日、何人かの読者やセミナー受講予定者から、概ね以下のようなメールを頂きました。

「板倉さん、あんなに(本当のこと)書いちゃって、大丈夫ですか?ハラハラしながら読んでいます。次回のセミナーが中止にならないかと、誰かに絡まれないかと、心配しています。」

正直僕は、笑ってしまいました。心配いりません。

むしろ、「2ちゃんねる」に匿名で、論理的根拠の無い誹謗中傷を書いている人のほうが、あ・ぶ・な・いのです。

なぜなら・・・・

(ゲーム理論で考えれば)僕は、表現を「板倉雄一郎の発言」として書いたり、話したりしています。

よって、その文章が、(仮に)大きな影響力があり、(仮に)誰かの「痛いところ」を突いていたとして、(仮に)その誰かが「アイツは気に入らない。邪魔者だ。」と思ったとしましょう。

その誰かは、僕に危害を加えたり、僕の活動(たとえばセミナー)を妨害したりすると思いますか?(相手が、まともな感覚を持つなら)そのようなことは、まずしないはずです。

なぜなら・・・僕に危害を加えれば、それが第三者に依頼したものだとしても、市場は、社会は、それが「~がやったんじゃないか?」と簡単に推測できてしまうわけです。

それが、(仮に)交通事故だとしてもです。

逆に、「2ちゃんねる」などに、何の根拠も論理も無く、しつこく誰か他人の誹謗中傷をしている場合、(技術的には、その発言者をある程度特定することができますが)その発言によって、不都合が生じる誰かは、その発言者を突き止め、妨害を加える可能性があるわけです。

なぜなら・・・その「匿名発言者」が、何らかの妨害を受けても、それが誰によるものか、判断が難しいからです。

これと似通った話で、「ラスベガスでジャックポッドを当てた人は、必ずメディアに出る」という事実があります。

これは、以上のゲーム理論からもお分かりの通り、「危害を加えられないため」なのです。もちろん、ロトやカジノの主催者が当選者を殺すということが、ウソかホントかは知りません。ですが、ゲーム理論で考えれば、良く理解できる行動ですよね。

僕は、自分が感じたことを、自分の精神性に照らし合わせて「間違っていない」と自信を持てば、いつでも「板倉雄一郎の発言」として、社会にそれを表現していくつもりです。

自分が感じたことを表現できないのでは、生きている意味が無いとさえ思っています。自分の発言を自分の精神に照らし合わせて「間違っていない」と思っても、発言するのが怖いのならば、北朝鮮にでも行ってください。(笑)

僕が最近、最もガッカリしたことは、上記の「~大丈夫ですか?」との発言の多くは、20代の若者の発言だったということです。

20代から、「体制による圧力」を怖がり、思ったことを発言する人を賞賛できない現在の日本。僕は、フィナンシャル・リテラシーの教育以上に根深い日本の問題を感じてしまいます。

ゲーム理論の話に戻します・・・

以上のように、僕は自分の「行動」や「戦略」をゲーム理論をベースに展開しています。しかし、もうお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、このゲーム理論は、「自分の知識、能力の範囲で、相手の出方を論理的に予測する」ということをベースにしています。

よって、相手の出方は、自ずと「自分の予想の範囲」でしか予想できないというわけです。つまり、相手が、(自分に比べて)「とんでもない馬鹿」だったり、「とんでもない天才」だった場合、ゲーム理論が通用しないというわけです。

その意味では、僕は孫正義という人間を、「真っ当な人間」と前提を置いたうえで、例の「孫正義は狼中年」というエッセイを書いたとも言えます。

よって、彼が僕の予想を超えた「とんでもない天才」である可能性も、同時に否定しません。ですから、僕なんぞの予想をはるかに超えて、彼は成功を継続するかもしれません。

僕は、何も「ソフトバンクに失敗して欲しい」と望んでエッセイを書いたわけではありません。それどころか、「是非、僕なんぞの予想を超える、サプライズを実現して見せてくれ!」とさえ本音では思っていたりもします。

エッセイでは、ただひたすら、客観的に、彼らの「資本コスト」を根拠にした、将来予測には、かなり無理があると論理的に書いたに過ぎません。

今、僕は、ファイナンスや経済の勉強と実践、そしてその結果の表現を通して、株式会社ハイパーネットの失敗について、その本質を掴みつつあります。

現時点での(ゲーム理論で考えた場合の)僕の失敗原因は、正に、「相手を、真っ当な人間=経済合理的に行動する人間だと勘違いしていたことによる失敗」と思っています。

もちろん、この場合の「相手」とは、当時の都市銀行(投資銀行ではなく)のことです。当時の僕は、「今、資金を無理やり引き上げれば、経済的に最も多くの損失を出すのは、他でもなく融資を実行した金融機関だ。彼らは(経済的に真っ当なはずだから)そんなことをするはずがない。」と思っていたわけです。

ですが、彼らは僕の予測どおりに行動しませんでした。

彼らは「経済合理性に基づき行動する人種」ではありませんでした。

これは、その後の彼ら市中銀行の「おばかさん振り」を見れば明らかです。そして、その組織に帰属する人のほとんどが、少なくとも今の僕ほどのフィナンシャル・インテリジェンスを恐らく今日現在でも持ち合わせていないということです。

以上、ゲーム理論に頼りすぎることの弱点でした。

2005年2月2日 板倉雄一郎

PS:
僕のエッセイSMU第178号「オンライン証券会社の増収は、株価の下げ圧力」に対して、反論を頂いたWEBサイト(iSOLOGUE)がありましたので、興味を持って拝見し、僕のコメントを先方に実名でアップしました。

是非ご覧ください。但し(彼に対する反論としてではなく)、彼の意見は、概ね「オンライン証券会社の影響など、さほど大きなものでもない」ということであって、僕の理論の否定にはなっていません。

また「短期投資家は、博学者が多い」との主張も残念ながら、「だから、株価の下げ圧力ではない」ということにはなっておりません。

ですが、僕なんぞの主張にご意見を頂き、実名でその主張を表現する彼(磯崎氏)には、正直興味を覚えます。

彼のWEB上にコメントを書いたように、彼のような「自分の発言を恐れない人間」と意見交換など出来れば、とても嬉しい限りです。





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