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SMU 第69号「会計と経済実態」

(訂正・・・僕は基本的に、過去のエッセイについて、原文の修正をしないので、新しいエッセイにて、修正点を書きます。)

昨日のSMU 第68号「裁定取引」で「絶対に儲かる」と書きましたが、100%ではありません。例として書いたセガとサミーの合併についてですが・・・例えばの話ですよ・・・どちらか片方の企業に予期できない重大な問題が浮上して、合併そのものが破棄されたりする場合がありますので、「絶対」というのは訂正しておきます。

誰かから指摘されたわけではないのですが、お金のことなので、一応念のため。まあ、そんなことお分かりとは思いますが。

それでは、エッセイ本文です。

「会社四季報」が新しくなりました。

「待ってたぜ!」などという人も結構多いのではいでしょうか。確かにいいですよね・・・本として持ち歩けるのは確かにいいです。「仮面ライダースナック」のブロマイドのキャラクターデータ(今では、ポケモンとかなのかしら)を何百も丸暗記するように、読み込んでみるのも楽しそうですよね。大人のポケモン。

しかしながら、四季報に限らず、短期のデータでは、なんともいえないのが企業評価の難しいところです。同時に会計上の利益とキャッシュフローの違いであるとか、会計上の資産規模と実体経済価値の違いを忘れてはなりません。本当に高利回りの投資対象を長期で選ぶならなおさらです。いや、短期取引で儲けたいのであれば、それこそ四季報なんて必要ないかもしれません。「出来高」を追って、後は博打ってくださいね。僕もたまにやります。
今日は、会計上の数字と実体経済価値の違いについてです。

会計上の利益と経済実態の乖離については、このエッセイでも何度と無く書いてきましたが、今日は、いくつかのポイントを箇条書きで簡素に、その具体例について書いてみたいと思います。

<のれん代>

これは、このエッセイのSMU 第56号「企業買収とシナジー」で触れていますので、簡単に書きますが、要するに「のれん代」は短期で償却できます。だけど、営業上十分に経済効果のある「のれん」の場合、会計上は償却されてバランスシート上でその資産価値簿価がゼロになっていても、実体経済価値としては、減るどころか増え続けるということがあるわけですね。(逆に全く経済価値の無い場合もあります)

例えば、あなたが「アマゾンコム」を純資産(時価)価値の5倍ぐらいで買ったとしましょう。4倍分は「のれん代」ということで買収直後にあなたのバランスシートの資産に計上されます。現在のところ今期一期で「のれん代」すべての償却が可能です。しかし「ネットで本を買うならアマゾンコム」という認知は世界中のネット利用者に浸透していて、そう簡単に失われることはありませんから、十分にそのブランド力を生かして営業を続けることができるわけです。

会計上の資産は減るけれど、実体経済価値は減らない。つまり、買収において支払う現金(や株式)よりも手に入れる価値のほうが大きいということになります。

<コンテンツ>

「のれん代」と非常によく似た経済実態価値です。たとえば、映画の版権を持つ映画会社、キャラクター商品を大量に持つ企業、これらの企業のバランスシートには、遠い昔の作品の資産は載っていません。ずいぶんと前に償却してしまっているのです。

でも、実際には昔の映画を再放映、再上映、またはリメイクして営業収入とすることができるわけです。よって、こういう企業の場合、会計上の資産以上の実態経済価値を有するということですね。ウォーレン・バフェットが「白雪姫」などの版権を持つウォルト・ディズニー社の株式を割安と判断して、ずいぶん昔に大量に手に入れたことは有名です。

<キャッシュフロー>

最近では、どの上場企業でも貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)に加えてキャッシュフロー計算書(C/F)を「決算短信」にも載せるようになってきました。

まあ当たり前のことですね。説明するまでも無いですが、会計上は増収増益でも、キャッシュフローが期を重ねるごとにどんどん減っていく企業があります。

こういう企業にだまされてはいけません。単純に急成長でファクタリング(売掛債権などの金融機関による割引)が間に合わないだけなら、債権の信用だけの問題になりますが、現在の業態を維持するための投資によって、営業キャッシュフローが食われている場合、要注意ですよ。

投資分は(内容にもよりますが)資産計上され、会計上はその後の減価償却という現金支出を伴わない減損になりますけど、減価償却より早く実態資産価値が減っていく投資もありますからね。たとえばIT機器なんてのは、それに該当します。有税償却をちゃんとやってる会社はいいですね。

その逆に、近い将来のキャッシュフローは(投資に食われて)マイナスが続いても、その投資のおかげで、その後の未来のキャッシュフローが急速によくなる場合もあります。こういう企業は、ディスカウントキャッシュフローで計算しても企業価値が高いです。ただし、そういう会社は、結構目立っている関係で、将来キャッシュフローが既に十分に株価に繁栄されている(織り込み済み)の場合が多いので、あまり利回りの高い投資とはならない場合が多いですけどね。

よくある間違いは「なるほど、企業価値を決めるのはキャッシュフローなんだな」(ということ自体は間違いではありませんが)などと早合点して、四季報のキャッシュフローばかりを追って投資判断をしてしまうことです。(最近デイトレ仲間に一人いました)大切なのは、長い将来にわたってのキャッシュフローを現在価値に割り引いた結果であって、足元の(前期一期の)キャッシュフローだけでは、なにも判断できないということです。

追加ですが、以上の視点からいい会社(高利回りが期待できる株式)とは、特別投資をしなくても、長い将来にわたって安定的にキャッシュフローが増え続ける会社です。つまり競争に追われず、ローテクで、十分な需要が将来にわたってあり、かつ同分野での市場占有率が高い企業です。あるのですよ。ちゃんと探せば。

<たな卸し>

このエッセイのSMU 第65号「会計の摩訶不思議」でも触れていますが、粉飾決算をしようとする場合、よく利用されるのがこの「たな卸し資産の水増し」です。在庫の資産評価が高ければ、利益は増えます。そこで問題なのは、在庫の価値というのは、経営者にとっても監査法人にとっても、ある一定の基準はあるが、主観によるところが大きいということです。だから要注意です。特に服飾など。ブラウスやシャツなんて、そのブランドが消滅したらゴミ同然ですからね。PBR(株価純資産倍率)が一倍以下だからといって喜んで買いまくってはいけませんよ。

<知的所有権>

ハイパーネットの特許(主項目で6件、副項目も含めると260件)は、当社の倒産後に回りまわって当時のインターキュー(現、グローバル・メディア・オンライン=GMO)が権利者となりました。その後、ハイパーネットと同じビジネスモデルの米国ナスダック上場企業が、特許のライセンスを取得しにきました。(詳しくは『社長失格の幸福論』にて)

両社の交渉の結果、GMOは北米とオーストラリア地域のライセンスを10億円で供与したという経緯があります。(日本経済新聞にも大きく載りました)

ハイパーネットでは、その出願費用(およそ2,000万円)をGMOでは、その買収費用(およそ6,000万円)だけが、資産計上されていたわけですが、実体経済価値はそれらをはるかに超える金額になったわけです。ちょっとコンテンツに似ていますよね。

逆に、特許の権利を侵害している企業はとてもヤバイです。SMU 第61号「日本の生きる道」でも、少し触れましたが、特許の権利は非常に強力です。裁判で負けてしまったら、場合によっては数年間の利益が全部吹っ飛ぶこともあります。経営者も投資家も注意しましょうね。また、権利侵害(の可能性)を知っていながら侵害していた場合は、(裁判の結果に依存しますが)数倍のお金を取られてしまうわけですよ。あ~~怖い。

今度は逆に、特許庁から特許を認められていても、それで喜んではいけません。特許はその特許に関する訴訟で「勝った実績」が無い場合、ほとんど相手にされませんからね。

まだまだ書ききれないぐらい、会計上の資産や利益と実体経済価値の違いはたくさんあります。それは以上のように、会計上より多い場合も、少ない場合もあるということです。何も会計が悪いといっているわけではありません。

大切なのは、会計を100%信用せずに、あくまで参考程度として、企業の有価証券報告書を詳しく分析することが、たとえば株式投資での失敗を避け、大儲けするために大切だというわけです。

2004年6月18日 板倉雄一郎

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