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SMU 第77号「株価変動のへんてこりん」

またまた、株式投資薀蓄(うんちく)です。内容は、基礎の基礎ですから、「今更」と思う人は読み飛ばしてください。

でも、結構重要な基礎ですよ。株価は、毎日動きます。短期で株価を動かす要因は、ニュース、チャートなどの情報が基本ですが、中には「へんてこりん」な勘違いによる株価変動がいくつかあります。

「へんてこりん」であることを理解していて、需給の関係から「短期の買い」と判断する人は、例によって「おりこうさん」なのですが、これが日常化すると、本当に企業の価値が上昇するものだと勘違いする人がたっくさん居るものですからね。今日は、その辺を考えて見ましょう。

<へんてこりん1>

「株式分割」 その昔、「無償増資」などと、馬鹿馬鹿しい表現をしていた時代がありました。そのころは、本当に、今持っている株と同じ価値の株を無償でもらえる株主優待だと思い込んでいる人多かったですよ。笑えますよね。

そんな人が多かったので、名前を変えたのですね。でも、需給の関係から「結果的に」分割後の株価が上昇しますから、買いが集まります。それはそれで結構なことですが、わかっていない人は大変ですね。

実物経済的には、ある日、あなたの持っている株式の当該企業の取締役がやってきて、あなたの持っている株式を(たとえば、1:2分割の場合)ハサミで真っ二つにチョン切って、帰っていくだけの話ですからね。

確かに一株辺りの絶対値が下がりますから、買い易くはなりますよね。でもね、既に数千円の株式をさらに10分割とかやってる会社あるでしょ。ほら僕のオフィスにも遊びに来たことのある社長の会社ですよ。NASDAQじゃないんだから、やりすぎじゃない?

それに飛びつく人も人だけどねぇ。H君、会社ごっこですかぁ?ただ、米国がそうであるように、すべての株式が、一株数十ドルの範囲にあって、単元株式数が10株とかになれば、学生なんかも参加できて、それはそれでいいですけどね。その前に単元株制度なんてやめてしまえばいいのですよ。

これに関連して、おばかさんのお話を・・・田原総一郎という「芸能人」をご存知だと思います。確か3年ほど前の「サンデープロジェクト」での出来事でした。

日産自動車の業績不振の話題を取り上げるべく、彼は一枚のフリップを用意してきました。正確な数値は忘れましたが、そのフリップには、「トヨタ株=4,000円、日産株=2,000円」と大きく書いてあって、彼のいつもの調子で、「なんで二倍も差がついちゃったんですかねぇ」とおばかなことを話していました。

当日は、後ろの席に各証券会社のアナリストが居て、彼らの顔は「いやぁ、そういうことを比較しても・・・・」という複雑な顔をしていましたよ。僕は大爆笑でした。

この人、ヤフー株が一億円を超えたときも、喜んでネタにしていましたよ。単に分割していないだけなのにねぇ。以上、予断ですが、TVや雑誌の情報なんて、そんなものですからね。自分の判断を信用できる脳みそを鍛えないと、お金は儲かりません。

 <へんてこりん2>

「子会社の上場(IPO)」 これねぇ、実は変な話なんですよ。話を簡単にするために、仮に100%子会社だとしましょう。そして親会社に十分な資金力があったとしましょう。つまり子会社が親会社の連結対象であり、子会社の事業活動に十分な資金を親会社が供給できるという条件です。この場合、子会社が上場することによって、親会社の価値は減るんですよ。

実は。なぜなら、上場前も上場直後も、全く同じ経済価値の企業なのに、上場によって新規に株式を発行しますから、一株辺り利益(EPS)は減りますね。

「ダイリューション=薄まる」と表現します。(一株辺りの価値は、発行した株式数分だけキャッシュが入りますから、一時的には変化しません・・・ただし、投下資本利益率が、投下資本の増加によって、下がらなければという条件が付きます)もし上場による資金調達が、その事業の価値を高められるとするならば、連結子会社のままでも親から投資を受ければいいわけですよね。

でも、それはせずに、第三者からお金を集めるというわけです。もっとわかりやすく言えば、自分の金を投資はしないけれど、他人の金を投資させることによって、その人が儲かるという摩訶不思議現象です。

実際には、お祭り騒ぎになって、株価は上昇します。へんてこりんは、親会社の保有している子会社株式のEPSが下がるのに、親会社の評価が上がることことばかりではありませんよ。

そもそもその子会社事業は親会社に連結されていたわけですから、それまで評価されなかった(親会社の時価総額が正当に評価されていなかった)ことがへんてこりんな話ですよね。親会社にとって、子会社の上場によって、キャピタルゲインが得られるということなのでしょうけれど、そもそも親会社が上場企業なわけですから、へんてこりんです。

但し、例外はあります。最近の例では、親会社のKDDIがau事業をひいきして、PHS事業(DDIポケット)をほったらかしているような場合です。これは子会社上場ではなく、買収ですが、買収によって親会社からの縛りが解け、子会社はもっと儲かるようになるでしょうね。こういう特殊な場合以外、実はへんてこりんなのですよ。

そうそう、今日(2004年6月28日)子会社のIPOが延期されたという噂でストップ安まで暴落した企業がありましたよ。これもへんてこりんの一側面ですね。

<へんてこりん3>

「企業買収」 これはSMU56号「企業買収とシナジー」で詳しく書きましたし、ある意味「へんてこりん2」の逆パターンですから、詳しく説明する必要は無いですね。

つまり本当に(歴史的に現象として数値で確認できたためしがほとんど無い)シナジーが実現するなら、買収企業の価値も、被買収企業の価値も上がって良いでしょう。 以上、「需給」と「価値変動」は全く別物だという話でした。他にもたくさんの「へんてこりん」がありますが、例によって気が向いたときに書きます。それでは、これ恒例にしましょうかねぇ。

「おりこうさん、と、おばかさん」コーナー。

おりこうさん・・・需給による株価変動なのか、本質的な価値変動なのかをしっかり区別して、投資スタンスを分けられる人。

おばかさん・・・どちらの場合も、本気で価値が上昇すると信じている人。

つまり、お金は、おばかさんから、おりこうさんに移っていくというわけですね。

ある意味ゼロサムです。 次の出版ですが、「株式投資、本当の話」というタイトルと、「おりこうさんと、おばかさん」のどちらがいいですかねぇ?

2004年6月28日 板倉雄一郎

今日の数字占い 3302 , 4680 , 4751




 


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